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看護師求人倍率10年ぶりの高水準|日本看護協会2025年発表を起点に2015年から2025年の10年間で看護師市場に何が起きたかを検証

2026年7月7日(更新: 2026年7月7日)·約9分で読めます
看護師求人倍率10年ぶりの高水準|日本看護協会2025年発表を起点に2015年から2025年の10年間で看護師市場に何が起きたかを検証

Summary

日本看護協会が2025年11月21日に発表した「看護師求人倍率が10年ぶりの高水準」というニュース。この数字は、2015年から2025年の10年間で看護師市場に起きた構造変化の結果である。訪問看護ステーション数の急拡大、コロナ禍、業界の二極化、NHKクローズアップ現代が報じた病床削減——10年間の時系列を辿り、今の市場を宮木が検証する。

目次10項目⌄
  1. 012015年〜2017年: 業界安定期の終焉
  2. 022018年: 診療報酬・介護報酬同時改定と機能強化型の細分化
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2019年: 訪問看護ステーション1万カ所突破
  • 042020年〜2021年: コロナ禍と業界の激変
  • 052022年〜2023年: BCP義務化と業界の二極化加速
  • 062024年〜2025年: サンウェルズ問題と業界の再構築
  • 072026年上半期: NHK報道と業界の外側からの警鐘
  • 0810年間の構造変化——なぜ求人倍率は10年ぶり高水準に達したのか
  • 09「10年ぶり」を経営に組み込む視点
  • 10結び
  • 日本看護協会が2025年11月21日に発表した「看護師求人倍率が10年ぶりの高水準」というニュースは、業界関係者に大きな衝撃を与えた。

    しかし、この数字は突然生まれたものではない。2015年から2025年までの10年間、業界の内側と外側で連鎖的に起きた構造変化の帰結である。訪問看護ステーション数の3倍増、コロナ禍による業界の再編、機能強化型の細分化、業界の二極化、病床削減の進展、そしてNHKクローズアップ現代が2026年6月に報じた「あなたも入院できない」の現実——10年間の時系列を辿ることで、今の看護師市場の姿が立体的に見えてくる。

    本稿では、2015年から2025年までの10年間を6つの局面に分けて、看護師市場の変化を検証する。数字と出来事を並べることで、「なぜ今、求人倍率が10年ぶりの高水準に達したのか」の答えが見えてくる。

    なお、本稿の内容は日本看護協会の公式発表、厚生労働省の統計、業界メディアの報道情報に基づく整理である。

    2015年〜2017年: 業界安定期の終焉

    10年前の2015年頃の看護師市場は、業界にとって相対的な安定期だった。

    看護師の求人倍率は、業界の一般的な指標として2.0倍前後を推移していた。訪問看護ステーションの稼働数は約7,000カ所台、事業所数の伸びも年5%程度と穏やかだった。看護師の労働市場は「厳しいが管理可能」なレベルにあったといえる。

    2016年、地域包括ケアシステムの本格運用が始まった。「病院から在宅へ」の政策シフトが明確化し、訪問看護への政策的期待が高まり始める。同時期、団塊世代が70代前半に差し掛かり、医療・介護需要の増加基調が固まった。

    2017年頃から、訪問看護ステーションの新規開設が徐々に増加し始めた。看護師の起業ブーム、医療法人による多角化、介護事業者による訪問看護参入——多様な参入者が業界の門を叩き始めた時期である。しかし、この段階では業界全体の看護師確保はまだ限界に達していなかった。

    2018年: 診療報酬・介護報酬同時改定と機能強化型の細分化

    2018年は、業界の構造変化を決定づけた重要な年である。

    診療報酬・介護報酬の同時改定で、機能強化型訪問看護管理療養費に「タイプ3」が新設された。従来のType 1・Type 2に加えて、より参入しやすい要件のType 3の登場は、機能強化型を目指すステーションの裾野を広げた。

    同時に、PT/OT/STによる訪問看護費(訪問看護費I5)の単位数が引き下げられ、看護師以外による訪問への評価が調整された。これは「訪問看護は看護師中心であるべき」という制度的なメッセージとして、業界に強く受け止められた。

    この改定を機に、業界は「量的拡大」から「質的競争」への転換期に入る。看護師確保の重要性が経営戦略の中心に据えられるようになり、給与競争の萌芽が業界内で見え始めた。

    2019年: 訪問看護ステーション1万カ所突破

    2019年、訪問看護ステーションの稼働数が1万カ所を突破した。

    わずか5年前(2014年)には7,000カ所程度だった業界規模が、5割増しの水準に達した瞬間である。事業所数の急拡大は、業界全体で見れば成長を象徴する数字だったが、看護師市場から見ると別の意味を持っていた。

    事業所が1.5倍に増えれば、必要となる看護師数も1.5倍に増える。しかし、看護師の総数は同期間でそれほど増えていない。1事業所あたりの看護師確保困難が構造化し始めたのが、この時期である。

    2019年後半、看護師の中途採用市場では紹介手数料の高騰が明確化した。年収の20%台前半だった紹介料が、25%〜30%台に上昇。人材紹介会社の売上構造も、看護師領域の比重が急速に高まった。

    2020年〜2021年: コロナ禍と業界の激変

    2020年、新型コロナウイルス感染症の流行が業界を直撃する。

    コロナ禍は、看護師市場に複雑な影響を与えた。病院看護師の心身の疲弊が社会問題化し、離職・転職を検討する看護師が急増した。同時に、訪問看護は感染管理の重要な担い手として社会的評価が高まった。「病院を辞めて訪問看護へ」という人材流動の動きが加速した。

    しかし、コロナ禍は同時に業界の構造的脆弱性も露呈させた。中小訪問看護ステーションでの感染対応の負担、看護師の労働条件の悪化、休職者の増加——業界内で看護師確保がさらに困難になる要因が積み重なった。

    2021年、日本看護協会の調査で「看護師としての就業継続意向が67.6%」という数字が示された。コロナ禍前と比較して、就業継続意向は低下傾向にあった。この時点では、まだ後の急落を予測する声は少数派だったが、業界の構造的リスクは着実に蓄積していた。

    2022年〜2023年: BCP義務化と業界の二極化加速

    2022年、全介護事業所でBCP(事業継続計画)策定・運用の義務化が発表された(2024年4月完全実施)。

    BCP義務化は、業界の質的レベルアップを促す政策だったが、同時に中小事業所への負担も増加させた。制度対応、文書整備、スタッフ教育——経営者の時間と資源が制度対応に消費される構造が固定化された。

    2023年、業界メディアの報道によれば、訪問看護ステーションの倒産・休廃業数は業界全体の約5%に達した。100事業所のうち5事業所が1年で消える計算である。同時に新規開設は継続的に増加し、業界の二極化が加速していく。

    看護師市場では、大手法人グループへの人材集中、中小事業所での確保困難、地域偏在の深刻化——という構造が明確化した。「どこで働くか」の選択が、看護師のキャリア設計における最重要要素となる時代の入り口である。

    2024年〜2025年: サンウェルズ問題と業界の再構築

    2024年後半から2025年前半、業界を大きく揺るがす事件が連続する。

    2025年2月、パーキンソン病専門の有料老人ホームを運営するサンウェルズが、約28億円超の診療報酬不正請求を認めた。3月には末期がん患者向けホスピス最大手の医心館でも同様の疑惑が浮上。医師493名を対象にした調査では、約4割が「虚偽の病名を書くよう求められた」と回答した。

    これらの事件は、業界全体の信頼性に大きな打撃を与えると同時に、看護師個人にも影響を及ぼした。「この業界で働き続けていいのか」という根本的な疑問が、若手看護師を中心に広がった。

    2025年6月、日本看護協会は「看護師のベースアップの低さが浮き彫りに」と発表した。2012年調査からの基本給の増加はわずか6,000円。物価高騰と労働時間の厳しさに対して、賃金水準の改善が明らかに追いついていない現実が示された。

    同年11月21日、日本看護協会が「看護師求人倍率が10年ぶりの高水準」と発表。2015年時点と比較して、看護師の労働市場は明確に売り手市場化した。この数字が、10年間の構造変化の結果として業界に突きつけられた。

    2026年上半期: NHK報道と業界の外側からの警鐘

    2026年に入ると、看護師市場の危機は業界の外側からも可視化された。

    2026年3月31日、日本看護協会は2025年看護職員実態調査の結果を公表。看護師としての就業継続意向は62.9%まで低下し、2021年の67.6%から4.7ポイントの下落となった。同時に発表された新卒看護職員離職率は8.4%と2年ぶりに改善したが、既卒離職率は16.1%で高止まりしている。

    2026年4月18日、東京商工リサーチが2025年度の医療機関倒産71件・過去20年最多と発表。病院倒産は前年比1.7倍の12件で、15年ぶりの10件超えとなった。地域医療の崩壊が数字として明確化した。

    そして2026年6月29日、NHKクローズアップ現代が「あなたも入院できない!? 〜迫る"看護師不足"危機〜」を放送。番組では「看護師密度・全国マップ」が提示され、全国各地での病床削減、看護師の離職・転職、人材獲得コストの高騰、地域医療の崩壊が報じられた。

    これらの動きは、10年間の構造変化が「業界の内部問題」から「社会全体の問題」へと転化した瞬間である。

    10年間の構造変化——なぜ求人倍率は10年ぶり高水準に達したのか

    10年間の時系列を辿ると、看護師求人倍率10年ぶり高水準の背景が立体的に見えてくる。

    需要側の変化として、訪問看護ステーション数の約3倍化、地域包括ケアの本格運用、病院の在宅シフト、医療依存度の高い在宅患者の増加、機能強化型の細分化と拡大——これらが看護師需要を継続的に押し上げてきた。

    供給側の変化として、看護師の絶対数の伸び悩み、コロナ禍による離職・キャリアチェンジの増加、就業継続意向の4.7ポイント低下、業界の魅力低下、他業界への流出——これらが看護師供給を制約してきた。

    構造要因として、給与水準の低い伸び、労働環境の厳しさ、業界の不正問題、経営者の管理力の限界、政策的支援の不十分さ——これらが需給ギャップを埋められない構造を作った。

    つまり、看護師求人倍率10年ぶり高水準は、単一の要因ではなく、10年間の需要拡大・供給制約・構造的問題が積み重なった結果である。

    「10年ぶり」を経営に組み込む視点

    10年間の構造変化を踏まえて、経営者が持つべき視点を整理する。

    第一に、看護師市場は「一時的に厳しい」のではなく「構造的に厳しい」状態にある。この認識が、採用戦略の質を決める。「今年は厳しかったが来年は改善するだろう」という楽観論は、10年間の推移を見れば根拠を持たない。

    第二に、看護師確保は「募集を出せば集まる」時代ではない。給与水準、労働環境、キャリアパス、多様な働き方、組織文化——複数の要素で選ばれるステーションになる必要がある。10年前とは、看護師が職場を選ぶ基準が根本的に変わった。

    第三に、既存看護師の定着が新規採用よりも重要である。求人倍率10年ぶり高水準の環境下では、離職1人分の穴を新規採用1人で埋めることが構造的に難しい。既存看護師が働き続ける環境を作ることが、経営の中核課題となる。

    第四に、看護師確保への投資は「短期の費用」ではなく「中長期の投資」である。給与改善、教育投資、労働環境整備——これらの支出は、10年間の構造変化を踏まえれば、コストではなく持続可能性への投資として位置付けるべきものだ。

    結び

    日本看護協会が発表した「看護師求人倍率10年ぶりの高水準」は、突然出現した数字ではない。2015年からの10年間、業界の内側と外側で積み重ねられた構造変化の帰結である。

    この10年間で、看護師市場は「安定期」から「構造的売り手市場」へと転換した。訪問看護ステーション数は3倍になり、看護師の就業継続意向は4.7ポイント低下し、業界の信頼性は不正問題で揺らぎ、NHK報道が業界の危機を全国民に伝えた。

    「10年ぶり」という数字は、次の10年に向けた警鐘でもある。2035年、この記事を振り返ったとき、業界がどのような姿になっているか——それは、今から10年間の経営者一人ひとりの選択と行動によって決まる。

    自ステーションが、この10年間の構造変化のどこに位置し、次の10年をどう生きるか——率直に自問することから、経営の質と業界への貢献の両方が始まる。

    なお、本稿の内容は日本看護協会の公式発表、厚生労働省の統計、業界メディアの報道情報に基づく整理である。最新の情報は各機関の公式発表を参照していただきたい。

    #訪問看護#看護師#求人倍率#10年ぶり#日本看護協会#看護師市場#業界動向#採用
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    執筆者

    宮木

    訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師

    大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表

    小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。

    保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー

    ※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています

    2026年6月8日