訪問看護師が見つからない時代へ|看護師求人倍率10年ぶりの高水準と業界の二極化が経営を揺るがす | HokanPress訪問看護
訪問看護師が見つからない時代へ|看護師求人倍率10年ぶりの高水準と業界の二極化が経営を揺るがす
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Summary
日本看護協会が2025年11月21日に発表したデータによれば、看護師の求人倍率は10年ぶりの高水準に達しました。訪問看護業界では、看護師確保が経営の生命線でありながら、年々困難になっています。経営者として10年余り運営してきた立場から、採用難の構造、業界の二極化、今取るべき対応を整理しました。
日本看護協会が2025年11月21日に発表したデータは、訪問看護業界に深刻な警鐘を鳴らすものでした。看護師の求人倍率は10年ぶりの高水準に達し、看護師確保がこれまで以上に困難になっている現実が、業界団体の公式データとして示されたのです。
訪問看護経営者として10年余り運営してきた立場から、この数字は単なる統計ではなく、自ステーションの日々の現場で感じている現実そのものです。求人を出しても応募がない、紹介会社経由でも適任者が見つからない、ようやく採用しても短期離職する——こうした採用難のサイクルが、業界全体で進行中の構造的な問題となっています。
2025年の介護事業者倒産176件という過去最多の数字、看護師の66.8%が給与不満を抱える現実、2026年6月改定での処遇改善の限定性——これらすべてが連動し、訪問看護業界は人材確保をめぐる激しい競争の時代を迎えています。
本記事では、看護師求人倍率10年ぶりの高水準が示す業界の現実、訪問看護への影響、経営の二極化、そして経営者として今すぐ取るべき対応を、率直に整理します。
求人倍率10年ぶりの高水準が意味するもの
まず、日本看護協会が発表したデータの意味を整理します。
10年ぶりという数字の重み
求人倍率が10年ぶりの高水準ということは、2015年以来の高い水準ということです。
過去10年間の変化:
- 2015年頃: 看護師の需給が比較的均衡
- 2018年頃: 高齢化の進展による需要増
- 2020年〜2022年: コロナ禍での看護師需要急増
- 2023年〜2024年: 高齢化の継続と退職者増
- 2025年〜2026年: 10年ぶりの高水準到達
この10年間で、看護師業界の構造が大きく変化し、需給バランスが崩れている実態を示しています。
求人倍率が高いことの意味
求人倍率が高いということは、看護師1人を採用するのに、複数の求人が競合する状況です。
具体的な意味:
- 看護師の選択肢が増える
- 給与水準の引き上げ圧力
- 採用コストの上昇
- 採用までの期間の長期化
- 質の高い人材の獲得難
経営者としては、「採用すれば来てくれる」時代から「採用しても来てくれない」時代への構造変化を意味します。
業界全体への警鐘
日本看護協会という業界団体が、公式に「10年ぶりの高水準」と発表する意味も重要です。
警鐘の意味:
- 業界全体の問題として認識
- 国レベルでの議論への圧力
- 政策的支援の必要性
- 業界の自助努力の限界
構造的改革の必要性業界団体の継続的な発信が、長期的な制度改革につながる構造です。
訪問看護業界での採用難の現実
求人倍率の高さは、訪問看護業界では特に深刻に表れています。
訪問看護の採用難の特殊性
訪問看護師の採用には、病棟看護師とは異なる難しさがあります。
- 訪問看護経験者の絶対数の少なさ
- 求人倍率がさらに高い傾向
- 即戦力人材の希少性
- 教育コストの大きさ
- 採用後の早期離職リスク
訪問看護師1名の採用には、紹介手数料だけで年収の20〜30%(100万円〜150万円)のコストがかかると言われています。
地域による格差
- 都市部: 求人数が多い分競争激化、給与競争
- 地方: 看護師の絶対数の不足
- 過疎地・離島: 採用そのものが困難
- 観光地・別荘地: 通年雇用の難しさ
地域特性に応じた採用戦略が、これまで以上に重要となっています。
規模による格差
- 大手法人グループ: ブランド力で採用優位
- 機能強化型: 体制充実で評価高
- 中小ステーション: 採用競争で劣勢
- 新規開業: 採用基盤の構築から
専門性による格差
- 精神科訪問看護: 経験者が極めて少ない
- 小児・医療的ケア児: 高度な専門性が必要
- 緩和ケア・看取り: 認定看護師の希少性
- 認知症ケア: 経験者の確保困難
- 一般的な訪問看護: 比較的採用しやすい
専門特化型ステーションほど、採用ハードルが高い構造です。
採用難が経営に与える5つの深刻なインパクト
採用難は、経営に複数の深刻なインパクトをもたらします。
インパクト1: 直接的なコスト増加
- 紹介手数料の高騰
- 求人広告費の継続的支出
- 採用活動の人件費
- 採用面接の機会コスト
- 教育研修費
中小ステーションでは、年間で数百万円規模の採用コストがかかるケースもあります。
インパクト2: 機能強化型維持の困難
採用難は、機能強化型訪問看護管理療養費の維持にも影響します。
- Type 1: 看護師7名以上+経験3年以上3名
- ベテラン看護師1名の退職で要件危機
- 即時補充が困難
- 一時的な区分降格リスク
- 月額収益への深刻な影響
機能強化型を取得しているステーションでは、看護師確保が経営の最重要課題となります。
インパクト3: サービス品質の低下
採用難により、サービス品質も低下するリスクがあります。
- 1人あたりの担当利用者数の増加
- 同行訪問期間の短縮
- 教育研修時間の削減
- 緊急対応の遅延
- 連携先対応の希薄化
質の低下は、利用者・連携先からの信頼低下を招き、結果として経営の悪循環につながります。
インパクト4: スタッフの過重労働
採用が追いつかない事業所では、既存スタッフへの負担集中が起きます。
- 訪問件数の増加
- オンコール担当の頻度上昇
- 残業時間の増加
- 有給休暇取得の困難
- 心身の疲労蓄積
過重労働が、さらなる離職を生む悪循環が形成されます。
インパクト5: 利用者の受け入れ制限
採用難により、利用者の受け入れ制限を余儀なくされるケースもあります。
- 新規利用者の獲得停止
- 連携先からの紹介への対応困難
- 地域の医療提供体制への影響
- ステーションのブランド力低下
- 中長期的な収益への影響
これは「受け入れたくても受け入れられない」という経営の深刻な限界状況です。
業界の二極化が加速する
採用市場での勝ち組ステーション
採用市場で勝ち組となるステーションには、共通の特徴があります。
- 競争力のある給与水準
- 機能強化型1または2を取得
- 多様な働き方の選択肢
- 充実した教育・研修体制
- ブランド力の確立
- 連携先からの評価高
- ICT・DX投資が進んでいる
- スタッフからの紹介(リファラル採用)
これらを満たすステーションは、人材獲得の好循環に入っています。
採用市場での負け組ステーション
一方、採用市場で負け組となるステーションの特徴もあります。
- 給与水準が地域相場以下
- 通常型のままで体制が弱い
- 働き方の柔軟性が乏しい
- 教育体制が整っていない
- ブランド力が弱い
- 連携先関係が希薄
- ICT遅れ
- スタッフが定着しない
これらに該当するステーションは、採用難の悪循環から抜け出せない構造です。
二極化の加速メカニズム
- 勝ち組ステーションへの人材集中
- 給与競争による格差拡大
- 質の高いサービス提供の差
- 利用者・連携先からの評価差
- 収益力の差
- 投資余力の差
- スタッフ処遇の差
- さらなる人材集中
このメカニズムが回り続ければ、業界の格差は構造的に固定化されていきます。
業界全体への影響
- 地域医療提供体制の偏在
- 質の高い訪問看護の集中
- 中小ステーションの淘汰
- 大規模法人グループの形成
- M&Aの活発化
- 業界の集約化進展
これは2026年改定で進む業界再編の流れと、相互に強化し合う構造です。
経営者として今すぐ取るべき7つの対応
採用難の時代に、経営者として今すぐ取るべき7つの対応を整理します。
対応1: 給与水準の客観評価と見直し
まず、自ステーションの給与水準を客観評価し、必要に応じて見直します。
- 地域の同業他社との比較
- 病院看護師との比較
- 経験年数別の水準
- 諸手当の充実度
- 賞与水準
地域相場より明らかに低い場合、優先的な見直しが必要です。
対応2: 多様な働き方の整備
多様な働き方の選択肢を整備することが、採用力強化につながります。
- 短時間勤務(育児・介護との両立)
- 日勤専従(オンコールなし)
- 週3〜4日勤務
- 直行直帰制
- 副業・兼業の許容
- リモートでの一部業務
「一つの働き方を全員に強制」ではなく、「多様な人材を多様な働き方で迎える」姿勢が求められます。
対応3: 教育・研修体制の充実
教育・研修体制の充実が、未経験者の採用と定着につながります。
- 同行訪問期間の十分な確保
- メンター制度
- 段階的な業務移行
- 定期的な研修機会
- 資格取得支援(認定看護師等)
- キャリアパスの可視化
「即戦力しか採用しない」では、採用難の時代を乗り切れません。
対応4: ICT・DXによる業務効率化
ICT・DXによる業務効率化が、看護師の業務負担軽減と採用力向上の両面で重要です。
- 訪問看護記録システム
- スケジュール管理ツール
- 多職種連携ツール
- ケアプランデータ連携システム
- D to P with N対応環境
対応5: ブランド構築への投資
地域でのブランド構築が、採用市場での競争力を高めます。
- 専門領域での差別化
- 質の高いサービス提供
- 地域貢献活動
- ウェブサイト・SNSでの発信
- 看護師教育への貢献
- 業界団体での発言
「選ばれるステーション」になることが、採用の前提条件です。
対応6: リファラル採用の活用
既存スタッフからの紹介(リファラル採用)も、有効な採用手段です。
- 紹介報奨金制度
- スタッフが紹介したくなる職場
- 入社後のフォロー体制
- 紹介者・被紹介者の両方への配慮
- 既存スタッフの満足度向上
「スタッフが友人を呼びたい職場」が、最強の採用力を持ちます。
対応7: 連携型・統合型への移行検討
最後に、単独運営の限界を感じた場合、連携型・統合型への移行も選択肢です。
- 法人グループへの参画
- 地域内ステーションとの統合
- M&Aによる事業承継
- 業務提携・連携の強化
「単独で頑張る」だけが正解ではない時代です。経営判断の選択肢として、これらも視野に入れる必要があります。
看護師個人へのメッセージ
経営者の立場を離れて、看護師個人にもメッセージを送ります。
自分の市場価値を知る
求人倍率10年ぶりの高水準ということは、看護師個人にとっては「選べる時代」を意味します。
- 経験年数
- 専門資格
- 訪問看護経験
- 専門領域
- マネジメント経験
- ICTリテラシー
これらに基づいた自分の市場価値を、転職市場で確認することが、現職での交渉力にもつながります。
キャリアの選択肢を広げる
「今の職場で我慢する」だけが選択肢ではありません。
- より良い条件のステーションへの転職
- 専門特化型への移行
- 機能強化型ステーションへの移行
- M&Aで成長する法人グループへの参画
- 起業・独立
- 病棟看護師との並行
採用市場が看護師にとって有利な今こそ、キャリアの再設計を考える機会です。
「処遇改善は権利」と認識する
- 適正な給与水準を求める
- 多様な働き方を選ぶ
- キャリア成長を求める
- 健康な労働環境を求める
- 専門性に見合った評価を求める
業界全体への参加
最後に、業界全体の改革にも、看護師個人として参加していただきたいです。
- 業界団体への加入
- 行政への意見表明
- メディアへの情報提供
- 同業者ネットワークの形成
- 後輩の指導・育成
業界の未来は、看護師一人ひとりの選択と行動の積み重ねで作られます。
業界の今後の展望
採用難の時代における業界の今後の展望を整理します。
短期的な展望(2026年〜2027年)
- 求人倍率の高止まり
- 給与競争の激化
- 採用コストの上昇
- 中小ステーションの淘汰
- M&Aの活発化
中期的な展望(2027年〜2030年)
2027年通常改定を経て、業界の質的変化が進みます。
- 大規模法人グループの形成
- 看護師処遇改善の継続
- 多様な働き方の標準化
- ICT・DXによる業務革新
- 中山間地域への対応強化
長期的な展望(2030年以降)
- 看護師の社会的地位向上
- 訪問看護の社会的価値の確立
- 国際的に認められる日本モデル
- 多様な働き方の定着
- 看護師起業の増加
採用難の時代を乗り越えた業界が、新しい姿で確立される未来があります。
経営者として持つべき視点
採用難の時代に向き合う経営者として、持つべき視点を整理します。
視点1: 「採用」より「定着」を重視
採用に追われるより、今いる看護師の定着に注力することが、長期的には有効です。
- 採用コストの削減
- ノウハウの蓄積
- サービス品質の向上
- 利用者・連携先からの信頼
- 経営の安定化
「定着率が高いステーション」は、結果として「採用力も高いステーション」になります。
視点2: 数字で経営を見る
採用難の時代こそ、数字で経営を見る習慣が重要です。
- 年間離職率
- 採用コストと採用人数
- 看護師1人あたりの収益
- 採用までの期間
- 入社後の定着率
視点3: 中長期的な視点
短期的な数字に追われず、中長期的な視点を保つことが重要です。
- 3年後・5年後の自ステーションの姿
- 業界全体の動向との関係
- 自ステーションの差別化戦略
- 後継者の育成
- 事業継続性
「目の前の採用」だけでなく、「3年後も生き残るための投資」が必要です。
視点4: スタッフを「コスト」ではなく「投資対象」と見る
- 給与改善に消極的
- 教育投資を渋る
- 業務効率化が目的化
- スタッフの不満を「わがまま」と捉える
- 給与改善は将来への投資
- 教育投資は能力開発
- スタッフの成長が経営の成長
- スタッフの声を経営に反映
採用難の時代こそ、スタッフを「投資対象」と見る姿勢が問われます。
視点5: 業界全体への貢献
最後に、業界全体への貢献という視点も持ちたいです。
- 適正な処遇の実践
- 質の高いサービス提供
- 業界団体への参加
- 後進の指導
- 制度提言への参加
自ステーションの取り組みが、業界全体の発展につながる視点が、経営者としての成熟です。
まとめ
日本看護協会が2025年11月21日に発表した「看護師求人倍率10年ぶりの高水準」は、訪問看護業界にとって深刻な警鐘です。看護師確保が年々困難になり、訪問看護師1名の採用に年収の20〜30%相当のコストがかかる時代を迎えています。
採用難は、直接的なコスト増加、機能強化型維持の困難、サービス品質の低下、スタッフの過重労働、利用者の受け入れ制限という5つの深刻なインパクトを経営に与えています。さらに、業界の二極化が加速し、勝ち組ステーションへの人材集中と、負け組ステーションの淘汰が同時並行で進む構造となっています。
経営者として今すぐ取るべき7つの対応(給与水準の見直し、多様な働き方、教育研修、ICT・DX投資、ブランド構築、リファラル採用、連携型・統合型への移行検討)を、着実に実行することが、採用難の時代を乗り切る基盤となります。
看護師個人にとっては、求人倍率10年ぶりの高水準は「選べる時代」を意味します。自分の市場価値を知り、キャリアの選択肢を広げ、処遇改善を権利として認識し、業界全体への参加を進めることが、看護師としての充実したキャリアにつながります。
業界全体としては、短期的な採用難の継続、中期的な業界の質的変化、長期的な看護師の社会的地位向上という流れの中で、訪問看護の社会的価値が確立されていく方向性が見えています。
経営者として、「採用」より「定着」を重視し、数字で経営を見て、中長期的な視点を保ち、スタッフを「投資対象」と見て、業界全体への貢献を考える——これらの視点を持って、採用難の時代を乗り越えていきたいと考えます。
訪問看護は、地域社会にとって不可欠な存在です。看護師が誇りを持って長く働ける業界へ、経営者として地道な取り組みを続けていきます。
HokanPressでは、訪問看護経営の本質的なテーマについて、引き続き率直な発信を続けてまいります。
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執筆者
宮木
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています