看護師が足りないのは、実は都市部——人口比2.1倍の地域格差が、在宅医療のアクセスを左右する|最多の高知と最少の埼玉で2.1倍、「地方が不足」の常識を覆すデータ

Summary
「地方は看護師が足りない」。多くの人がそう思っています。けれど、データは少し違う姿を映します。人口あたりの看護師数が最も多いのは高知県、最も少ないのは埼玉県。その差は2.1倍で、人口比で多いのは、意外にも地方でした。この看護師の地域偏在は、訪問看護と、地域で暮らす人が受けられる在宅医療に、深く影響します。偏在の実像と、経営への影響を、宮木がデータから読み解きます。
「地方は看護師が足りない」。多くの人が、そう思っている。だが、データは、少し違う姿を映し出す。
人口あたりの看護師数を見ると、最も多いのは高知県、最も少ないのは埼玉県。その差は、2.1倍にのぼる。そして意外なことに、人口比で看護師が多いのは、都市部ではなく、地方なのだ。
この看護師の地域偏在は、訪問看護に、そして、地域で暮らす人が受けられる在宅医療に、静かに、しかし深く影響している。本稿では、この偏在の実像を、データから読み解いていきたい。数字は、私たちの思い込みを、しばしば裏切る。
データが示す、看護師の地域偏在
まず、事実を確認する。2024年末の衛生行政報告例によれば、人口10万人あたりの就業看護師数は、最も多い高知県で1757.8人、最も少ない埼玉県で827.0人だった。その差は、およそ2.1倍にのぼる。
多い地域を見ていくと、高知県に続いて、鹿児島県が1575.9人、長崎県が1528.0人。一方、少ない地域は、埼玉県に続いて、神奈川県が836.7人、千葉県が837.0人となっている。
ここに、一つの、意外な傾向が見て取れる。人口比で看護師が多いのは、高知や鹿児島、長崎といった、地方なのだ。逆に少ないのは、埼玉や千葉、神奈川といった、東京圏の都市部である。「都市が豊かで、地方が不足している」という私たちの直感とは、まったく逆の姿だ。しかも、この顔ぶれは、2年前も、4年前も、ほとんど変わっていない。偏在は、固定化しているのである。
なぜ、都市部で人口比の看護師が少ないのか
では、なぜ都市部で、人口あたりの看護師が少ないのか。理由は、分母である人口の大きさにある。
埼玉、千葉、神奈川は、人口が非常に多く、そしていま、高齢者が最も急激に増えている地域だ。看護師の絶対数そのものは、決して少なくない。実際、就業する看護師の実数で見れば、東京都が全国で最も多い。しかし、その絶対数を上回る速さで、人口が、そして高齢者が増えている。だから、人口比で割ると、看護師が薄くなってしまう。
これは、在宅医療にとって、深刻な意味を持つ。高齢者が急増する都市部で、その需要を支える看護師が、人口比では足りていない。訪問看護の需要が爆発的に増えていくのに、担い手が、その増加に追いつかない。都市部の偏在とは、この「量的な不足」の問題なのだ。
地方の偏在は、「量」ではなく「分散」の問題
一方、地方はどうか。人口比では、看護師は多い。では、地方の在宅医療は安泰なのかというと、そう単純ではない。
地方が抱える問題は、量ではなく、分散だ。人口の少ない中山間地域や過疎地では、そもそも住む人が少なく、訪問看護ステーションが経営的に成り立ちにくい。以前の記事でも取り上げたとおり、こうした地域は、訪問看護の空白地帯になりやすい。
看護師がいても、広い地域に散らばって暮らしているため、一軒の利用者を訪ねるのに、長い距離を移動しなければならない。移動の時間がかさめば、一人の看護師が一日に回れる件数は限られる。人口比の数字がいくら高くても、実際に在宅医療を届けるという点では、都市部よりかえって難しい場合すらあるのだ。
つまり、地方の偏在は、「看護師の数が少ない」という問題ではない。「担い手が広く薄く分散していて、事業として成り立たせにくく、届けにくい」という、都市部とはまったく別の形の問題なのである。


