訪問看護ステーションは 「人」で 閉じる。 廃止理由の 2位は 管理者の 退職、 黒字でも 続けられる 理由には ならない

Summary
訪問看護ステーションが閉じるとき、決算書より先に届くのは「辞めます」という一言だ。廃止理由の2位は管理者の退職で、後継者がいないことは黒字・赤字と関係がない。夜のオンコールも、ほとんどの事業所で限られた数人が背負っている。収支表の横に、管理者の代わりやオンコールを担える人数を書いた「人の表」を置くべきだと筆者は考える。
訪問看護ステーションが閉じるとき、決算書より先に届くのは、たいてい誰かの「辞めます」という一言だ。
赤字が何年も続いて力尽きる、という閉じ方もある。ただ、それは少数派だと筆者は見ている。多くのステーションは、ある日1人が辞め、その穴を埋められないまま、休止の届けを出すことになる。訪問看護の経営は、お金の話である前に、人の話だ。
売上は、看護師の時間そのもの
訪問看護の売上は、看護師が利用者の家で過ごした時間からしか生まれない。在庫もなければ、設備が稼いでくれることもない。看護師が1人減れば、その人が回っていた訪問の分だけ、売上がそのまま消える。
それだけなら、ほかのサービス業と変わらない。訪問看護が厳しいのは、人が減ったときに、売上が減る前に「営業できなくなる」ことがある点だ。
ステーションは、看護職員を常勤換算で2.5人以上置かなければ運営できない。管理者は原則として常勤の看護師か保健師でなければならない。24時間対応をうたうなら、夜に電話を受け、駆けつける人がいなければならない。どれも、人が1人欠けた瞬間に崩れる条件だ。4人で回しているステーションで1人が辞めれば、残った3人の負担が増えるだけではすまない。基準を割り込むかどうかの瀬戸際に立たされる。
管理者が辞めたら、終わる
全国訪問看護事業協会が2025年3月にまとめた報告書に、それがはっきり表れている。廃止や休止を理由に協会を退会したステーションについて、廃止に至った理由を見ると、2番目に多かったのは「管理者が退職した」で、17.6%を占めた。1番目は「従業員確保が困難」だった。上位2つは、どちらも人の問題だ。
管理者の退職は、ほかの職員の退職とは重みが違う。管理者は、代わりを立てなければ事業所を続けられない役職だからだ。そして小さなステーションほど、管理者の代わりになれる人が社内にいない。開業した看護師がそのまま管理者を務め、その人が倒れたり燃え尽きたりすれば、事業所ごと終わる。そういう閉じ方が、統計の上でも2番目に多い。
同じ報告書は、存続の課題として「後継者がいない」を挙げた事業所が多かったことと、後継者がいないことと事業所の黒字・赤字には関連が見られなかったことも示している。黒字のステーションも、赤字のステーションと同じように後継者を欠いている。黒字は、続けられる理由にならない。
夜を支えているのは、いつも同じ数人
夜の体制も同じ構造をしている。日本訪問看護財団が2026年3月にまとめた報告書によれば、24時間対応体制加算などを届け出ているステーションの86.6%が、「限られた職員(管理者を含む)だけでオンコール当番をしている」と答えた。都市でも地方でも、この割合はほとんど変わらない。
オンコールの携帯は、毎晩ほぼ同じ数人の枕元にある。その誰かが辞めれば、残りの人の当番が増え、増えた当番が次の退職を呼ぶ。ほかのステーションと夜の負担を分け合っている事業所は、ごくわずかしかない。
ここまで来ると、問題の形が見えてくる。訪問看護ステーションの多くは、少数の人に、管理と夜と、ときには経営までを載せて走っている。その少数の誰かが抜けたとき、支える構造がどこにもない。
収支表の横に、「人の表」を置け
経営者がステーションの状態を確かめるとき、まず開くのは収支の表だろう。利用者数、訪問回数、単価、人件費率。どれも大事な数字だ。だが、これまで見てきたとおり、ステーションを閉じさせるのは、多くの場合その表に載っていない数字である。
筆者は、収支表の横にもう1枚、「人の表」を置くべきだと考える。書くことは多くない。
管理者が明日辞めたら、誰が管理者を引き継げるか。その人は管理者の要件を満たしているか。オンコールを担える人は何人いて、1人あたり月に何晩持っているか。誰か1人が辞めたら、常勤換算の人員基準を割り込むか。
この表に空欄が多いステーションは、黒字であっても危うい。逆に、収支が多少苦しくても、管理者の代わりがいて、夜の当番を5人で回せているステーションは、立て直す時間を持っている。
人の層を厚くするのは、すぐにできることではない。副所長や主任を置き、管理の仕事を少しずつ渡していく。その役割に手当をつける。近くのステーションと、夜の負担を分け合えないか話をしてみる。どれも地味で、時間がかかり、すぐには売上を増やさない。ただ、報酬の仕組みは訪問した回数に応じて払われる。人の層の厚さそのものに払われる場面は限られている。だからこそ、経営者が自分で意識して投資しない限り、層は厚くならない。
「辞めます」を、終わりにしないために
冒頭の一言に戻る。
職員が辞めることは止められない。家庭の事情もあれば、体調もある。管理者にも人生がある。問題は、辞めること自体ではなく、1人が辞めただけで事業所が止まる構造のほうだ。
訪問看護ステーションは、利用者にとって、夜中に電話をかけられる先であり、自宅で最期を迎えるための支えでもある。そのステーションが、たった1人の退職で閉じてしまう。それは経営の問題であると同時に、地域の問題でもある。
次の「辞めます」が届く前に、その人の仕事を誰が引き継ぐのかを決めておく。訪問看護の経営でいちばん先にやるべきことは、たぶんそれだ。
※本稿は筆者の見解である。文中の数字は、全国訪問看護事業協会「訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書」(2025年3月)と、日本訪問看護財団「訪問看護サービス提供体制強化に向けた調査研究事業 報告書」(2026年3月)による。
出典
- 全国訪問看護事業協会「訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書」(令和6年度 老人保健健康増進等事業、2025年3月) https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r6-1.pdf
- 日本訪問看護財団「訪問看護サービス提供体制強化に向けた調査研究事業 報告書」(令和7年度 老人保健健康増進等事業、2026年3月) https://files.jvnf.or.jp/files/user/kenkyu/R7/rouken2025report.pdf
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執筆者
医療・看護・介護の多職種チーム
訪問看護・在宅医療の現場に携わる多職種チーム
HokanPress編集部は、訪問看護・在宅医療の現場に実際に携わる多職種チームで構成されています。看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)が所属。それぞれの専門分野で培った臨床経験と専門知識をもとに、医療・看護・介護従事者の実務に役立つ情報を発信しています。記事は必ず該当分野の有資格者が執筆または監修し、公的統計データや学会発表・厚生労働省の公表資料など、信頼性の高い情報源に基づいて作成しています。
保有資格: 看護師 / 理学療法士 / 作業療法士 / 言語聴覚士 / 医療ソーシャルワーカー / 管理栄養士 / 介護支援専門員
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


