訪問看護

訪問看護の離職率には全国統計がない——病院は11.0%、県の調査では訪問看護16.7%に対し病院13.9%

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訪問看護の離職率には全国統計がない——病院は11.0%、県の調査では訪問看護16.7%に対し病院13.9%

Summary

病院の看護職員の離職率は、毎年公表される。2024年度は正規雇用で11.0%だった。全国8,000を超える病院を対象にした調査で、都道府県別や病床規模別の内訳まで出る。訪問看護ステーションには、それがない。県が実施した調査では訪問看護16.7%、病院13.9%という数字があるが、全国規模で継続的に測った統計は見当たらない。業界サイトに流通する「約15%」にも出典がない。

目次7項目
  1. 01病院の数字がどう作られているか
  2. 02訪問看護側にあるもの
  3. 03出典のない「約15%」
  4. 045.4人の事業所で、率を語ることの難しさ
  5. 05測られていないことの帰結
  6. 06自分で測る
  7. 07数えることから

病院の看護職員がどれだけ辞めているかは、毎年わかる。

日本看護協会が2026年3月31日に公表した2025年病院看護実態調査によると、2024年度の正規雇用看護職員の離職率は11.0%だった。前年度から0.3ポイントの減少である。新卒採用者は8.4%、既卒採用者は16.1%。

訪問看護ステーションが、どれだけ辞められているかはわからない。

全国規模で継続的に測った統計が、見当たらないからだ。

病院の数字がどう作られているか

比較のために、病院側の調査の作りを確認しておく。

日本看護協会は毎年、全国の病院の看護部長に調査票を送っている。2024年の調査では8,079施設を対象に3,417件の有効回答を得た。回収率は42.3%である。

算出式も公表されている。正規雇用看護職員離職率は、年度の総退職者数を平均職員数で割って100を掛けたもの。平均職員数は、年度当初の在籍職員数と年度末の在籍職員数を足して2で割る。定年退職も総退職者数に含む。

公表されるのは全国平均だけではない。病床規模別、都道府県別、設置主体別の内訳まで統計表に載る。新卒看護師が辞めた理由について看護管理者がどう考えているかも、設置主体別と病床規模別で集計されている。

2024年度の数字からは、退職理由の上位に健康上の理由、特に精神的疾患が挙がることもわかる。500床以上の病院では71.2%の病院がこれを挙げており、他の病床規模の44.6%から55.8%と比べて突出している。給与額が低い施設ほど離職率が高いという相関も示されている。

ここまで細かく測られているから、どこで何が起きているかを議論できる。

訪問看護側にあるもの

訪問看護に同じものはない。ただ、断片的な数字はある。

神奈川県が実施した令和5年度看護職員就業実態調査では、訪問看護に従事する看護職の離職率が16.7%だった。同じ調査で病院は13.9%である。

この数字は、同一の調査の中での比較であることに意味がある。調査の方法も対象年度も同じ条件で、訪問看護のほうが2.8ポイント高い。一つの県の結果であり、全国に一般化はできない。それでも、訪問看護のほうが高いという方向を示す材料にはなる。

定着の課題については、千葉県看護協会が651施設を対象に行った調査がある。訪問看護職員の定着に係る課題として最も多かったのが給与等処遇で70.2%、次いでオンコール当番の負担が68.8%、休暇等が55.5%だった。

確保の課題では、募集しても応募者がいないが66.1%、有料職業紹介事業者の利用料の負担が大きいが61.5%である。

給与とオンコール。この二つが定着の課題として並ぶことは、当メディアで訪問看護師の年収を扱った際に示した構造と一致する。訪問看護の給与は基本給に手当を重ねて作られ、オンコールの待機手当は1回平均2,233円だった。辞める理由になっている負担に、手当が対応しているという関係である。

出典のない「約15%」

業界のウェブサイトを見ると、訪問看護師の離職率は全国平均で約15%という記述がしばしば出てくる。看護師1人の退職による損失が採用コストと教育コストで数十万円から百万円台になる、という数字も一緒に置かれていることが多い。

これらの出典を確認しようとしたが、たどり着けなかった。どの調査の、どの年度の、どういう定義による数字なのかが示されていない。

数字が一人歩きする構造は、当メディアで採算ラインを扱った際に見たものと同じである。看護師1人あたり月80件から100件という目安が業界に流通していたが、厚生労働省の統計では全国平均が77.9回で、地域区分別に見ると地方は66回台だった。目安の前提が書かれないまま広まっていた。

離職率の「約15%」も、同じ性質を持っている可能性がある。誰かが挙げた数字が引用され、引用された数字がまた引用される。出典がないまま、業界の共通認識になっていく。

自事業所の離職率が12%だったとき、15%という数字を基準にすれば「平均より良い」と判断することになる。その基準自体に根拠がないなら、判断も根拠を持たない。

5.4人の事業所で、率を語ることの難しさ

訪問看護の離職率を測ること自体に、技術的な難しさもある。

訪問看護ステーションの看護職員は、1事業所あたり常勤換算で5.4人である。5人の事業所で1人辞めれば、単純計算で20%になる。2人辞ければ40%だ。

病院なら、数百人の母数に対して十数人が辞めて11%という数字が出る。母数が大きいから、率は安定する。母数が5人の事業所で率を出しても、0%か20%か40%かのどれかにしかならない。全国平均を出すことはできるが、事業所ごとの率を比べる意味は薄い。

この違いは、数字をどう使うかに関わる。病院では離職率が経営指標として機能するが、訪問看護では単年の率より、何年でどれだけ入れ替わったかを見るほうが実態に近い。

ただし、これは統計を取らない理由にはならない。集計の単位を工夫すればよいだけの話である。

測られていないことの帰結

統計がないと何が起きるか。

2027年度の介護報酬改定に向けた議論が進んでいる。9月16日の介護給付費分科会で、訪問看護の団体は賃金改善分を本体報酬に組み込むことなどを要望した。人材の確保と定着は、議論の中心にある。

そこで根拠として使えるのは、測られている数字だけだ。訪問看護ステーションの廃止理由が従業員の確保困難で22.7%、管理職の退職で17.6%ということは、厚生労働省の資料で示されている。求人倍率4.54倍も統計から出る。

しかし、離職率そのものは出せない。何人が辞めているのかがわからないまま、確保が困難だという結果だけが数えられている。

当メディアでイギリスの地域看護師が15年で43%減ったことを扱った際、イギリスには等級という物差しがあったから減少を検知できたが、日本の訪問看護にはその物差しがないと書いた。離職率も同じ構図にある。測られていないものは、議論の材料にならない。

自分で測る

制度が測らないなら、事業所が自分で測るしかない。

算出の定義は病院側の調査が公表している。年度の総退職者数を、年度当初と年度末の在籍職員数の平均で割る。定年退職も含める。同じ式を使えば、病院の11.0%と比較できる数字が出る。

常勤換算ではなく実人数で数えたほうが、小規模では実態に近い。あわせて、辞めた人がどれだけの期間在籍していたか、どこへ移ったかも記録しておく。入職半年以内に辞めているのか、3年目で辞めているのかでは、対策がまったく違う。

数年分を並べれば、単年の率の振れは意味を持たなくなる。5年で何人採用して何人辞めたか。その数字のほうが、事業所の状態を正確に表す。

数えることから

離職率という指標は、辞めた人の数を職員の数で割っただけのものだ。それ以上でも以下でもない。

ただ、病院ではその数字が毎年公表され、都道府県別まで出され、給与との相関まで分析されている。訪問看護では、県が単発で調べた数字と、出典のわからない業界の通説しかない。

訪問看護ステーションは19,000か所を超えた。廃止の理由の一位が従業員の確保困難であることも、求人倍率が全施設種別で最も高いことも、統計からわかっている。辞めている人の数だけが、わからないままになっている。

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執筆者

宮木

訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師

大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表

小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。

保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー

※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています

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