「良い 看護を していれば 利用者は 集まる」は、 最も 危険な 誤解だ—— 訪問看護に 営業が 不可欠な 理由|利用者は 自分で 来ない、 廃止理由の 3位は 「利用者が 少ない」

Summary
「良い看護をしていれば、利用者は自然に集まる」。訪問看護の経営で、これほど危険な誤解はない。訪問看護の利用者は、自分で事業所を探して申し込むことはほとんどなく、ケアマネジャーや病院を経由して利用が始まる。つまり、営業=挨拶回りをしなければ、利用者は来ない。廃止・休止の理由の上位に「利用者が少ない」が入っているというデータを踏まえ、なぜ営業が不可欠なのか、誰に何を伝えるべきかを、経営の視点から論じる。
目次7項目
「良い看護を提供していれば、利用者はいずれ集まってくる」。
訪問看護の経営において、これほど危険な誤解はない。断言する。訪問看護における営業は、「したほうがよい」ものではない。「しなければ、事業が続かない」ものだ。
そして、この「営業」という言葉に、抵抗を感じる看護職は少なくない。「看護は営業とは違う」「頭を下げて仕事をもらうのは、どこかいやらしい」と。その気持ちは、理解できる。だが、その抵抗こそが、多くの訪問看護ステーションを、利用者不足による廃業へと追い込んでいる。本稿では、なぜ営業が不可欠なのかを、データと構造の両面から論じたい。感覚論ではなく、事実の話である。
訪問看護の利用者は、「自分では来ない」
まず、最も根本的な構造を押さえる必要がある。訪問看護の利用者は、自分でステーションを探して、直接申し込むことが、ほとんどない、ということだ。
考えてみてほしい。要介護状態の高齢者や、その家族が、インターネットで訪問看護ステーションを検索し、比較して、自分で契約する。そういう入り方をする利用者は、多数派ではない。では、どうやって利用が始まるのか。
介護保険で利用する場合、多くは、ケアマネジャーが作成するケアプランに、訪問看護が組み込まれることで始まる。医療保険で利用する場合、多くは、病院を退院する際に、退院支援の担当者が、在宅療養の体制を整える中で、訪問看護につなぐ。
つまり、訪問看護の利用者と、事業所との間には、必ずと言っていいほど、「紹介元」が存在する。利用者に直接たどり着く道が、そもそも存在しない。この構造こそが、営業を不可欠にする決定的な理由だ。利用者に届く唯一の道が、紹介元を経由する道である以上、紹介元に「知ってもらう」ことでしか、利用者は来ないのである。
どれだけ質の高い看護を提供できるステーションでも、その存在と実力を、紹介元が知らなければ、紹介のしようがない。「良い看護をしていれば集まる」という発想が危険なのは、この「知ってもらう」という一段を、丸ごと飛ばしているからだ。
データが示す ——「利用者が少ない」も、廃止の理由の上位にある
これは、抽象的な理屈ではない。データにも表れている。
全国訪問看護事業協会が2025年3月にまとめた報告書で、廃止した事業所の理由を見ると、最も多いのは「従業員確保が困難」(22.7%)、次いで「管理者が退職した」(17.6%)、3番目が「利用者が少なく、経営維持が困難」(14.9%)だった(複数回答)。休止した事業所では、「利用者が少なく、経営維持が困難」が17.1%で2番目に多い。人を集められないことが最大の理由なのは確かだ。だが、利用者を集められないことも、事業所を止める理由の上位にはっきりと入っている。
開業して間もない時期の退場も目立つ。同じ報告書では、廃止した事業所の運営期間は、開設したその年が10.6%と最も多く、3年未満が28.1%を占めた。全国の数で見ても、2025年度は新規開設2,428か所に対し、廃止が960か所と、新規の約4割に当たる。年度初めの稼働数に対する廃止の割合は5.1%だ。
そして、事業所を取り巻く環境は年々厳しくなっている。訪問看護ステーションは、2026年4月1日時点で稼働中が20,051か所(指定は20,568か所)に達し、増加を続けている。この増加を牽引しているのは、営利法人だ。国の統計では、営利法人(会社)が開設する訪問看護ステーションは、2007年の1,135か所(全体の21.0%)から、2024年には全体の66.8%を占めるまでになった。
事業所が増えれば、当然、一つの地域で、限られた利用者をめぐる競争は激しくなる。同じ地域に、いくつものステーションがある。その中で、ケアマネジャーが「どこに紹介するか」を選ぶ。何もしなければ、あなたのステーションは、その選択肢にすら入らない。営業をしないという選択は、この競争の中で、静かに埋もれていくことを意味する。
「営業=いやらしい」という誤解を、解く
ここで、多くの看護職が抱える、営業への心理的な抵抗に、正面から向き合いたい。
「営業」と聞くと、押し売りや、頭を下げて無理に仕事をもらう姿を思い浮かべ、看護の仕事とは相容れない、と感じる方がいる。だが、それは、訪問看護の営業を、根本的に誤解している。
訪問看護における営業とは、押し売りではない。「うちのステーションは、こういうことができます」という情報を、正確に、紹介元に伝えることだ。それ以上でも、それ以下でもない。
ケアマネジャーや、病院の退院支援の担当者は、目の前の利用者に、最も適したサービスを届けたいと考えている。そのためには、どのステーションが、何を得意とし、どこまで対応できるのかを、知っている必要がある。緩和ケアに強いのか。精神科の利用者を受けられるのか。小児に対応できるのか。人工呼吸器の管理はできるのか。24時間、緊急時に駆けつけられるのか。
こうした情報を、紹介元は、喉から手が出るほど欲しがっている。なぜなら、それがわからなければ、安心して利用者を託せないからだ。つまり、営業とは、紹介元が適切な判断を下すための、判断材料を提供する行為にほかならない。それは、紹介元への貢献であり、その先にいる利用者への貢献でもある。
逆に言えば、営業をしないということは、謙虚なのではない。自分たちにできることを伝えないことで、紹介元を困らせ、本来出会えたはずの利用者との縁を、自ら断っているのだ。情報を伝えなければ、ケアマネジャーは、紹介したくても、紹介できない。
誰に、何を伝えるのか
では、具体的に、誰に営業すべきなのか。主な相手は、三つある。訪問した先と反応を残すためのケアマネ・紹介元 営業先リストも無料で配布している。
第一に、居宅介護支援事業所のケアマネジャーだ。介護保険を使う利用者の入口は、ケアプランにある。そのケアプランを作るケアマネジャーは、最も重要な営業先である。ただし、ケアマネジャーは、多数の利用者を抱え、多忙をきわめている。だからこそ、要点を押さえた、簡潔で誠実な伝え方が求められる。
第二に、病院の地域医療連携室や、退院支援室だ。ここは、退院後に訪問看護を必要とする患者と出会う場所であり、医療保険での利用につながる、訪問看護指示書の発行にも関わる、重要な入口である。退院する患者の在宅生活を、誰に託すか。その判断が、ここで下される。
第三に、地域包括支援センターだ。ここが直接扱うのは、主に要支援の高齢者だが、地域の相談窓口として、ケアマネジャーや病院の連携室ともつながっている。こことの関係を築くことは、地域全体の中で、自らのステーションの存在を根づかせることにつながる。
そして、これらの相手に伝えるべきことの核心は、一つだ。「自分たちの強み」を、具体的に示すことである。「何でもできます」は、裏を返せば「何が得意なのかわからない」ということであり、紹介元の記憶には残らない。「私たちは、これができます」という、はっきりした specialty を示すこと。そのためには、自らのステーションが、実際にどんな疾患や状態の利用者を、どれだけ担当しているのかを、日々の記録から把握しておくことが役に立つ。感覚ではなく、実績のデータで、自らの強みを語る。それが、選ばれる営業だ。
最大の営業は、「日々のケアの質」である
もう一つ、見落としてはならない視点がある。営業とは、新規の依頼を取ることだけを指すのではない、ということだ。
訪問看護の経営を支えるのは、新しい利用者を獲得することと、同じくらい、いま利用している人に、続けてもらうことである。そして、この二つは、深くつながっている。
紹介元に一人の利用者を託されたとき、その利用者に、質の高いケアを提供する。状態の変化を、丁寧に紹介元へ報告する。急変時に、きちんと対応する。すると、そのケアマネジャーは、こう思う。「このステーションに任せて、よかった」と。その信頼が、次の紹介を生む。逆に、一度でも雑な対応をすれば、次の紹介は、来なくなる。
つまり、日々のケアの質そのものが、最も強力で、最も持続的な営業なのだ。挨拶回りという「入口の営業」と、質の高いケアという「信頼の営業」。この二つは、車の両輪である。一度の挨拶回りで作った縁を、日々の仕事で育てていく。その繰り返しが、地域の中で、選ばれ続けるステーションを作る。
挨拶回りは、頭を下げに行くことではない
訪問看護は、良い看護を提供する事業であると同時に、その良い看護を、必要としている人に「届ける」事業でもある。そして、届けるための経路が、紹介元にある以上、営業は、看護と切り離すことのできない、経営の一部だ。
「営業が苦手だから」と、それを避け続ければ、どうなるか。どれだけ看護の腕が優れていても、その腕を振るうべき利用者が、やって来ない。利用者が来なければ、事業は立ち行かず、いずれ廃業に至る。そして、そのステーションがあれば支えられたはずの、地域の療養者たちは、支えを失う。営業をしないことのつけは、最終的に、利用者が払うことになる。
挨拶回りとは、頭を下げて、仕事を恵んでもらいに行くことではない。地域に向かって、「私たちは、ここにいます。こういうことが、できます」と、伝えに行くことだ。それは、自らの経営を守る行為であると同時に、まだ出会っていない利用者のために、道を開く行為でもある。
営業を、看護とは別の、後ろめたい何かとして遠ざけるのではなく、看護を届けるための、正当な一部として捉え直すこと。そこからが、選ばれるステーションの、本当の出発点である。
出典
- 一般社団法人全国訪問看護事業協会「訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書」(令和6年度 老人保健健康増進等事業、2025年3月) https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r6-1.pdf
- 一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和8年度 訪問看護ステーション数 調査結果」 https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r8-research.pdf
- 厚生労働省「平成19年 介護サービス施設・事業所調査結果の概況」(平成19年10月1日現在) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service07/kekka1.html
- 厚生労働省「令和6年 介護サービス施設・事業所調査の概況」(令和6年10月1日現在) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service24/dl/gaikyo.pdf
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執筆者
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています



