訪問看護

なぜ、訪問看護ステーションは廃業するのか——増え続ける裏で、廃止は過去最高の960件に|看護師2.5人の壁、採用難、利用者不足、資金繰り。潰れる原因を整理する

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なぜ、訪問看護ステーションは廃業するのか——増え続ける裏で、廃止は過去最高の960件に|看護師2.5人の壁、採用難、利用者不足、資金繰り。潰れる原因を整理する

Summary

訪問看護ステーションは増え続けています。それなのに、廃業する事業所も過去最高の水準です。2025年度の廃止は960件で、前年から約8%増えました。需要は高まっているはずなのに、なぜこれほど潰れるのでしょうか。看護師2.5人という人員基準の壁、採用難と離職の悪循環、利用者が集まらない現実、資金繰りと経営ノウハウの不足——訪問看護が廃業に至る原因を、HokanPress編集部が整理してお届けします。

目次8項目
  1. 01訪問看護の廃業は、他業種よりも多い
  2. 02原因① 看護師2.5人という「壁」
  3. 03原因② 看護師が採れない、辞めていく
  4. 04原因③ 利用者が集まらない
  5. 05原因④ 資金繰りと、経営ノウハウの不足
  6. 06廃業の原因は、つながっている
  7. 07「始めやすいが、続けにくい」事業
  8. 08出典

訪問看護ステーションは、増え続けています。高齢化が進み、在宅で療養する人が増える中で、訪問看護の需要は高まる一方です。新規に開業するステーションの数も、年間2,400か所を超える水準が続いています。

ところが、その一方で、廃業する事業所もまた、過去最高の水準になっています。一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査によると、2025年度に廃止となった訪問看護ステーションは960か所。前年度の886か所から、およそ8%増えました。休止したステーションも、328か所にのぼります。介護事業者全体で見れば、2025年の倒産は176件で過去最多を更新しました(介護事業者の倒産176件)。

需要が高まっているはずの訪問看護で、なぜ、これほど多くの事業所が廃業に追い込まれるのでしょうか。今回は、その原因を、一つずつ整理してお届けします。

訪問看護の廃業は、他業種よりも多い

まず、訪問看護の廃業が、どのくらいの水準なのかを押さえておきましょう。

全国訪問看護事業協会の調査から計算すると、訪問看護ステーションの廃止率(廃止数÷年度初めの稼働数)は、2023年度の4.5%から、2024年度には5%台に上がりました。これは、決して低い数字ではありません。中小企業白書によると、雇用保険の適用事業所をもとにした日本全体の廃業率は、2020年度で3.3%でした。定義は異なりますが、訪問看護ステーションの廃止率は、これを上回る水準です。なお2024年度の廃止率は全国で5.1%でしたが、県ごとの差は大きく、鹿児島県の8.2%から、廃止が1か所もなかった愛媛県まで開きがあります(都道府県別の廃止率)。

そして、もう一つ重要な特徴があります。それは、開業して間もない事業所の廃業が多い、という点です。たとえば2021年度には、新規に開業した訪問看護ステーションが1,806か所あった一方で、廃止が490か所、休止が242か所ありました。廃止と休止を合わせた数は、その年の新規開業数の、およそ4割に相当します。もちろん、この年に開業した事業所がそのまま4割潰れた、という意味ではありませんが、それだけ多くの事業所が、市場から退出しているのです。

需要は高いのに、開業して間もなく潰れる事業所が多い。この一見矛盾した現実の背景を、ここから探っていきます。

原因① 看護師2.5人という「壁」

訪問看護の廃業を語るうえで、まず押さえておかなければならないのが、人員基準です。

訪問看護ステーションを運営するには、看護職員を、常勤換算で2.5人以上(うち1名は常勤)配置しなければなりません。これは、厚生労働省令(指定居宅サービス等基準)と、それに基づく都道府県の条例で定められた基準です。この基準を満たせなくなれば、事業を続けることはできません。

そして、多くの小規模なステーションは、この基準ギリギリの人数で運営しています。だからこそ、看護師が一人辞めるだけで、基準を満たせなくなる、という危機に直面するのです。

とりわけ、開業して間もない時期は、脆いものです。開業したばかりの事業所は、経営を安定させるため、採算が見えるラインになるまで、次の看護師の採用を控えることがあります。ところが、その採算ラインに届く前に、既にいる看護師が辞めてしまうと、たちまち人員基準を割り込んでしまう。採用が間に合えばよいのですが、間に合わなければ、廃業を選ばざるをえません。訪問看護の廃業の多くは、突き詰めれば、この「人員基準を維持できるかどうか」という、一点に集約されるのです。

原因② 看護師が採れない、辞めていく

その人員基準を維持するうえで、避けて通れないのが、看護師の採用と定着の問題です。

看護師は、活躍できる場が数多くあります。病院、クリニック、施設、そして訪問看護。引く手あまたの人材です。そのため、訪問看護ステーションが看護師を確保するには、給与の水準を上げ、相応の採用コストをかける必要があります。

ところが、小規模なステーションには、その原資が乏しいことが多いのです。採用コストや人件費の上昇が、経営を圧迫します。そして、ここに悪循環が生まれます。コストを捻出できない事業所では、十分な待遇を用意できず、看護師の採用も定着も難しくなる。人が定着しないから離職が進み、離職を埋める採用もできず、残ったスタッフの負担が増える。その負担がまた、次の離職を生む——。

訪問看護に特有の、オンコールや24時間対応の負担も、この離職を後押しする要因になります。全国訪問看護事業協会が厚生労働省の補助事業として行った調査研究(2025年3月、n=437)でも、訪問看護ステーションの廃止の理由で最も多かったのは「従業員確保が困難」(22.7%)でした。看護師をめぐるこの問題は、訪問看護の廃業の、中核にある原因だと言えます。

原因③ 利用者が集まらない

人材と並んで、廃業の大きな原因となるのが、「利用者が集まらない」ことです。これも、全国訪問看護事業協会の調査で、廃止・休止の主な理由として挙げられています。

当然のことですが、訪問看護は、利用者がいなければ成り立ちません。そして、利用者を得るためには、地域のケアマネジャーや、病院、診療所といった医療機関との関係を築くこと——いわば「営業」が欠かせません。訪問看護は、ケアマネジャーからの紹介や、退院時の連携によって、利用者につながるケースが多いからです。

ここに、一つの落とし穴があります。看護師として、どれほど優れた技術を持っていても、こうした地域連携や営業が苦手であれば、利用者は集まらないのです。訪問看護ステーションは、看護師が独立して開業することが多いため、この「利用者をどう獲得するか」という壁に、開業してから初めて直面することも少なくありません。

さらに、事業所が数多く開業している地域では、限られた利用者を、事業所同士で分け合う形になります。そうした地域では、後から参入した小規模な事業所ほど、利用者の獲得に苦戦しがちです。

原因④ 資金繰りと、経営ノウハウの不足

最後に、二つの、見落とされがちな原因を挙げておきます。

一つは、資金繰りです。介護報酬や診療報酬は、サービスを提供してから実際に入金されるまで、およそ2か月のタイムラグがあります。つまり、開業してしばらくの間は、収入がまだ入ってこないうちに、人件費や家賃、車の維持費といった支出が、先に出ていくのです。この期間を乗り切るための運転資金が十分でないと、事業が黒字化する前に、資金が尽きてしまいます。開業資金や運転資金の見積もりが甘かったために、力尽きてしまう事業所は、少なくありません。

もう一つは、経営のノウハウの不足です。繰り返しになりますが、訪問看護ステーションは、看護師が独立して開くケースが多い事業です。看護の専門家であることと、事業を経営できることは、まったく別の能力です。労務管理、財務、営業、そして日々の請求業務。こうした経営の知識を持たないまま開業すると、判断を誤りやすく、それが廃業につながることがあります。

廃業の原因は、つながっている

ここまで、四つの原因を見てきました。最後に、これらを整理して、全体像を描いておきます。

実は、これらの原因は、ばらばらに存在しているわけではありません。その根には、共通して「事業所が小規模であること」があります。

小規模であるがゆえに、看護師一人の離職が、たちまち人員基準を揺るがします。小規模であるがゆえに、待遇改善や採用にかける原資が乏しく、人の確保が難しい。小規模であるがゆえに、営業に手が回らず、利用者を集める余力もない。そして、小規模であるがゆえに、資金繰りの余裕も薄い。一つの原因が、ほかの原因を呼び込み、連鎖していくのです。

ここから見えてくるのは、大切なことです。訪問看護の廃業は、「需要が足りない」から起きているのではありません。需要は、確かにあります。廃業は、その需要に応え続けるための「体力」——人材、資金、経営力——が足りないことから、起きているのです。

「始めやすいが、続けにくい」事業

訪問看護ステーションが増え続ける一方で、これだけの廃業が起きているという事実は、この事業が「始めやすいけれど、続けにくい」ものであることを、静かに物語っています。参入のハードルは比較的低く、志を持って開業する人は後を絶ちません。けれど、事業を続けていくことは、それとはまったく別の難しさを伴います。

そして、忘れてはならないのは、一つの事業所が廃業するとき、その陰には、そのステーションを頼っていた利用者と、その家族がいる、ということです。事業所が一つ消えることは、その地域で在宅療養を支える手が、一つ減ることを意味します。廃業の原因を知ることは、単なる経営の話にとどまらず、地域の在宅医療をどう守るのかを考えることにも、つながっているのだと思います。

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執筆者

HokanPress編集部

医療・看護・介護の多職種チーム

訪問看護・在宅医療の現場に携わる多職種チーム

HokanPress編集部は、訪問看護・在宅医療の現場に実際に携わる多職種チームで構成されています。看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)が所属。それぞれの専門分野で培った臨床経験と専門知識をもとに、医療・看護・介護従事者の実務に役立つ情報を発信しています。記事は必ず該当分野の有資格者が執筆または監修し、公的統計データや学会発表・厚生労働省の公表資料など、信頼性の高い情報源に基づいて作成しています。

保有資格: 看護師 / 理学療法士 / 作業療法士 / 言語聴覚士 / 医療ソーシャルワーカー / 管理栄養士 / 介護支援専門員

※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています

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