訪問看護に 全国一斉調査が 入った ——ホスピス型住宅の 不正請求と、 まっとうな 事業所が 背負う 代償|28億円の 返還、 医師の 4割が 受けた 不適切要求、 そして 報酬設計の 転換

Summary
2026年1月、厚生労働省が訪問看護に対する全国一斉の調査を始めました。対象は、ホスピス型の有料老人ホームの入居者や、精神障害者を対象とする訪問看護ステーションです。背景には、大手事業者による不正・過剰な請求の発覚があります。28億円超の返還、医師の約4割が受けた不適切な要求。何が起き、国はどう動き、そしてまっとうに運営してきた事業所は何を背負うことになるのか。構造から分析します。
2026年1月、厚生労働省が訪問看護に対する全国一斉の調査を始めた。
対象は、ホスピス型の有料老人ホームの入居者や、精神障害者を対象とする訪問看護ステーションだ。健康保険法に基づき、八つの地方厚生局と支局が、47都道府県でそれぞれ少なくとも1か所ずつ実施する。不適切な事業者には、報酬の返還を指導する方針が示されている。
なぜ、ここまでの事態に至ったのか。そして、まっとうに運営してきた事業所はこの動きから何を背負うことになるのか。業界の構造から分析したい。目を背けたくなる話だが、向き合わなければ、訪問看護全体の信頼が損なわれる。
何が起きたのか
まず、明らかになった事実を確認する。
2025年2月、パーキンソン病専門の有料老人ホームを運営するサンウェルズが、約28億円を超える診療報酬の不正請求を認めた。同年3月には、ホスピス型住宅の最大手として知られる「医心館」でも、同様の疑惑が浮上している。運営するアンビスホールディングスが設置した特別調査委員会の報告書では、2025年8月、約6,300万円の実態のない請求が判明したと報告された。2026年2月には、厚生労働省本省が乗り出す形で、健康保険法に基づく合同調査が実施された。通常は地方厚生局が担う調査に本省が加わる、異例の対応である。
さらに衝撃的なのが、医師への調査結果だ。現場の医師493名を対象とした調査では、約4割が、虚偽の病名を記載するよう求められたり、過剰な訪問回数を指示されたりといった、不適切な要求を受けたと回答している。
そして忘れてはならないのが、発端だ。一連の問題が表に出たきっかけは、現場で働く看護師たちの証言だった。内部の文書や、元社員の証言をもとにした報道が、実態を次々と明るみに出した。声を上げたのは、現場の人間だったのである。
なぜ、この構造が生まれたのか
問題の根には、ホスピス型住宅という事業の形がある。
仕組みを整理する。末期がんや難病といった医療依存度の高い人を、一つの建物に集めて住まわせる。そこに訪問看護ステーションを併設し、入居者に訪問看護を提供する。同じ建物の中だから、移動の時間はほぼゼロだ。以前の記事で論じたとおり、訪問看護の収益は訪問件数で決まる。移動がなければ、1日に何度でも訪問を重ねられる。
加えて、医療保険で訪問看護を利用する重症者には、介護保険のような区分支給限度基準額がない。訪問を積み重ねるほど、収益が伸びる構造になっていた。
「在宅医療の推進」「看取りの場の拡大」という大義が、この拡大を後押しした。良いことをしているという前提がある以上、厳しく追及しにくい。チェック機能が働きにくい環境が、そこに生まれていた。


