訪問看護の オンコール待機が 労働時間と 認められた 判決が ある ——割増賃金990万円、 付加金783万円

Summary
訪問看護ステーションの看護師が、緊急対応のための待機時間も労働時間にあたるとして割増賃金を求めた裁判があります。横浜地裁は待機時間を労働時間と認め、割増賃金990万7,484円と付加金783万2,119円の支払いを命じました。待機手当は1回平均2,233円。手当を払っていれば足りるとは限りません。何が判断を分けたのかを整理します。
訪問看護のオンコール待機について、待機時間そのものが労働時間だと認められた判決がある。
アルデバラン事件。横浜地裁の令和3年2月18日判決である。訪問看護ステーションの看護師が、時間外、休日、深夜の割増賃金など1,152万8,940円を請求した事案で、裁判所は緊急看護対応業務のための待機時間を労働基準法上の労働時間と認めた。認容された割増賃金の元金は990万7,484円。これに加えて、付加金783万2,119円の支払い義務も認められている。
合計で1,700万円を超える。1事業所あたりの月商が347.6万円という業界で、看護師1人からの請求でこの金額になった。
日本看護協会の調査によると、オンコールの待機手当は1回あたり平均2,233円である。当メディアで訪問看護師の年収を扱った際に紹介した数字だ。手当を払っているから問題ない、という理解が広く共有されているが、この判決はそこに線を引いた。
何が争われたか
被告は神奈川県平塚市で、訪問看護ステーション、看護小規模多機能型居宅介護、グループホームなどを運営する会社だった。
原告は看護師として勤務し、緊急看護対応業務の待機を担当していた。利用者や入居者、家族、施設職員から呼び出しの電話があれば駆けつけ、看護、救急車の手配、医師への連絡などを行う。呼び出しの理由は、発熱、ベッドからの転落、認知症の方の徘徊、呼吸の異変など。実際に駆けつけずに、救急車の手配や当面の対応の指示で済むこともあった。
待機とは、シフトに応じて緊急時呼出用の携帯電話を常時携帯している状態を指す。
裁判所は、この携帯電話を持って待機している従業員について、雇用契約に基づく義務として、呼び出しがあれば着信に遅滞なく気づいて応対し、緊急対応の要否と内容を判断したうえで、発信者に当面の対応を指示することが求められ、必要があればさらに看護等の業務に就くことも求められていたと認定した。
判断を分けた事実
待機時間が労働時間にあたるかどうかは、過去の裁判例でも判断が分かれてきた。
最高裁は、労働時間を「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義している。三菱重工長崎造船所事件である。仮眠時間についても、労働からの解放が保障されていない限り労働時間にあたるという判断が示されている。大星ビル管理事件だ。
自宅での待機については、否定された例もある。外出の制限がなく自由に過ごせる場合には、高度に労働から解放されているとして労働時間性が否定されてきた。医師のオンコールをめぐる裁判でも、電話対応の回数が待機時間の長さに比して多いとはいえないことなどを理由に、労働時間性が否定された例がある。
アルデバラン事件で判断を分けたのは、頻度と対応時間である。
報じられているところでは、看護師2名に1号機と2号機の携帯電話を渡し、1号機の所持者に速やかな対応を求めていた。実際の緊急看護対応業務は、電話を持った8回につき1回程度発生し、その際の対応時間は30分から1時間程度だった。待機場所を明確に指示していたわけではないが、実質的に直ちに駆けつけられる場所にいることを余儀なくされていた。
これらから、労働からの解放が保障されていないと判断された。
介護施設や訪問看護に従事する看護師の緊急対応のための待機時間が労働時間にあたると判断された、初めての事例だとされている。
手当の名目も争点になった
この判決には、もう一つ経営上重要な論点がある。手当の扱いだ。
被告は管理者手当を支払っていた。これが割増賃金の代わりだったという主張である。
裁判所は、ある手当が時間外労働等の対価として支払われているかどうかは、契約書等の記載内容のほか、手当や割増賃金に関する説明の内容、実際の勤務状況などを考慮して判断するとした。日本ケミカル事件の最高裁判決を踏まえた枠組みである。
そのうえで、労働条件通知書に管理者手当を時間外労働等の対価として支払う旨の記載が一切なく、就業規則にも手当の性質に関する記載がないことから、割増賃金の趣旨で支払われたものとは認められないとした。
結果として、管理者手当の分も上乗せして残業代を支払う必要があるとされている。
オンコール手当についても、同じ論点が当てはまる。就業規則に「オンコールを担当する者に1日あたり6,000円を支給する」とだけ書いてある場合、その6,000円が何の対価なのかが明確でない。時間外労働の対価として支払っているつもりでも、記載がなければそう認められない可能性がある。
自事業所はどちら側か
この判決が出たからといって、すべての訪問看護のオンコールが労働時間になるわけではない。判断は事案ごとである。
ただ、判断の材料は判決から読み取れる。自事業所の運用を、次の点で確認できる。
呼び出しの頻度はどれくらいか。待機1回あたり平均で何件の電話が来ているか。アルデバラン事件では8回に1回程度だった。これより多ければ、労働時間性が認められる方向に働く。
呼び出しを受けたときの対応時間はどれくらいか。同事件では30分から1時間程度だった。電話で済むのか、訪問まで行くのか。訪問に行くなら移動時間も含めてどれくらいか。
待機中の行動にどの程度の制限があるか。飲酒を禁じているか。外出を制限しているか。何分以内に駆けつけることを求めているか。明示していなくても、実質的に直ちに駆けつけられる場所にいることを余儀なくされていれば、同じ評価になりうる。
そして、手当の趣旨が書面に明記されているか。就業規則や労働条件通知書に、オンコール手当が何に対する対価かが書かれているか。
記録がないと、争えない
経営上の問題は、これらを記録していない事業所が多いことにある。
呼び出しの電話が月に何件来て、そのうち何件が訪問に至り、何分かかったか。これを集計している事業所は少ない。記録がなければ、頻度が低いことも対応時間が短いことも主張できない。
実際に対応した時間は、待機時間の労働時間性とは別に、当然に労働時間である。夜間であれば深夜割増もつく。当メディアで直行直帰を扱った際、移動時間の労働時間該当性を整理しないまま運用している事業所が多いと書いた。オンコールも同じ構造にある。
記録は、労務リスクへの備えであると同時に、体制を見直す材料にもなる。呼び出しが特定の看護師に偏っていないか。特定の利用者に集中していないか。集計しなければ分からない。
24時間体制をどう維持するか
訪問看護にとって、24時間対応は看板である。緊急時訪問看護加算も24時間対応体制加算も、その体制を評価するものだ。9月16日の介護給付費分科会で訪問看護の団体が出した要望にも、夜間の緊急訪問に関する算定要件の見直しが含まれていた。
一方で、その体制を支えているのは、夜間に携帯電話を持っている看護師である。当メディアで離職の構造を論じた際、辞める理由の共通項の一つがオンコールの孤独だと整理した。
2024年度の診療報酬改定では、緊急時訪問看護加算に、夜間対応する看護師の勤務環境に配慮した取組を行っている場合の区分が設けられた。制度の側も、待機の負担を評価の対象にし始めている。
待機を労働時間として扱うかどうかは、コストの問題として語られがちだ。ただ、待機の実態を把握していない事業所は、コストの計算もできていない。1回2,233円の手当が、実態に対して高いのか安いのかを判断する材料を持っていないということである。
まず数えること。呼び出しの件数、対応時間、担当の偏り。そこからしか始まらない。
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執筆者
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


