オンコール待機に、 残業代990万円の 支払い 命令——訪問看護の 労務管理が 抱える 最大の リスク|手当を 払っていれば 足りるとは 限らない、 三つの 判断要素

Summary
訪問看護ステーションの看護師がオンコール待機の時間を労働時間だと主張した裁判で、裁判所は残業代約990万円と付加金約783万円の支払いを命じました。オンコール手当を支給していれば足りる、という理解は危うい。待機中の拘束の度合いによっては、割増賃金の支払い義務が生じます。移動時間や記録の時間も同様です。訪問看護の労務管理が抱える最大のリスクを、判例と厚生労働省の判断要素から分析します。
訪問看護ステーションに勤務していた看護師が、オンコールの待機時間は労働時間にあたると主張して、割増賃金を求めた裁判がある。横浜地方裁判所は令和3年2月18日、待機時間の労働時間性を認め、残業代として約990万円、さらに付加金として約783万円の支払いを命じた。付加金とは、支払うべき賃金を支払わなかった使用者に対し、裁判所が悪質性などを考慮して課す制裁的な性質を持つものだ。
多くの経営者は、オンコール手当を支給していれば足りると考えている。だが、この理解は危うい。待機中の拘束の度合いによっては、手当とは別に、割増賃金の支払い義務が生じうる。
訪問看護の労務管理が抱える最大のリスクを、判例と行政の判断要素から分析したい。人材の確保が最重要課題であるいま、労務の不備は、金銭的な損失にとどまらず、事業の存続そのものを脅かす。
そもそも、労働時間とは何か
出発点となる定義を確認する。労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指す。明示的な指示があった場合はもちろん、黙示的であっても指示があったとみなされる時間は、労働時間にあたる。
賃金が発生するかどうかは、この一点で決まる。事業所で事務作業をしている時間も、訪問に向かう時間も、会社の指揮命令のもとで行われている以上、労働時間だ。
問題は、自宅でのオンコール待機がここに含まれるのかという点にある。
原則と、覆される場合
一般論としては、自宅などでの待機は使用者の指揮監督下にあるとは言えず、原則として労働時間には該当しない。多くの社会保険労務士も、この見解を示している。
ただし「原則として」という留保が重要だ。実態によっては、労働時間と判断される。冒頭の裁判は、まさにその例だった。
厚生労働省が示す判断の要素は、三つある。第一に、呼び出しの頻度がどの程度か。第二に、呼び出された場合にどの程度迅速に到着することが義務づけられているか。第三に、呼び出しに備えて待機中の活動がどの程度制限されているか。これらを総合して、個別具体的に判断される。
判例は、統一されていない
ここで、経営者が知っておくべき厄介な事実がある。裁判所の判断は、必ずしも一貫していない。
先の訪問看護の事案では、待機中に実際に呼び出される頻度は16.4回に1回だった。それでも労働時間性は認められた。一方、病院の形成外科に勤務する後期研修医の事案では、呼び出しの頻度が5.6回に1回と、はるかに高かったにもかかわらず、待機時間の労働時間性は否定されている。


