【速報】令和8年版厚生労働白書、 テーマは 「現場で 働く こと」——先進事例6件に 訪問系は ゼロ|介護の 赤字は 37.5%、 病院は 58.0%

Summary
2026年9月29日、令和8年版厚生労働白書が公表されました。第1部のテーマは「これからの医療・介護・福祉の現場で働くことを考える」。人材と生産性向上が主題です。2024年度の赤字割合は病院58.0%、介護サービス37.5%、障害福祉43.6%。ただし紹介された先進事例6件は病院と施設のみで、訪問系サービスは含まれていません。白書が書いたことと、書かなかったことを整理します。
目次8項目
令和8年版の厚生労働白書が、2026年9月29日に公表されました。2001年の発刊から25冊目です。
第1部のテーマは「これからの医療・介護・福祉の現場で働くことを考える」。人材の確保と、テクノロジーによる生産性向上が主題になっています。
厚生労働白書がこのテーマを扱うのは、訪問看護にとって重要です。当メディアでは離職率、求人倍率、賃金、収支といったデータを追ってきました。国がそれをどう整理したのかを確認します。
そのうえで、読んで最初に気づいたことを先に書きます。白書には、訪問看護がほとんど出てきません。
白書が示した数字
まず、白書が第1章で提示した現状です。
医療サービスは約18万施設で、医師約33万人、看護職員約175万人をはじめとする多様な専門職が支えている。介護サービスは約1.4万施設のほか、訪問系や通所系を中心に多数存在し、約213万人の職員が支えている。障害福祉サービスも約132万人の職員が支えている。
2024年度の赤字割合も並んでいます。病院が経常利益ベースで58.0%、介護サービス施設・事業所が37.5%、障害福祉サービス等施設・事業所が43.6%。出典はそれぞれ第25回医療経済実態調査、令和7年度介護事業経営概況調査、令和7年度障害福祉サービス等経営概況調査です。
当メディアで扱ったとおり、訪問看護の収支差率は令和7年度概況調査で10.3%、全介護サービス平均の4.7%の2倍以上でした。介護全体の37.5%が赤字というなかで、訪問看護は平均的には収益が出ている側にいます。ただし日本看護協会の実態調査では27.2%が赤字で、看護職員3.5人以上4人未満の層では44.7%が赤字でした。
白書はまた、医療・介護・福祉分野に共通する特徴として、診療報酬・介護報酬等の公定価格に基づいて提供されており、公平性や安定性が担保される一方、価格調整の柔軟性に乏しく、賃金上昇や物価高騰の影響を受けやすいと記しています。
当メディアが物価対応料や世界情勢の記事で書いてきた構造が、そのまま国の文書に入っています。
2040年に向けた需要と供給
第3節は、2040年の姿を扱っています。
85歳以上の人口は2025年から2040年で約300万人増える一方、生産年齢人口は約1,100万人減ります。需要の量が拡大するだけでなく、質も変化します。白書は、急性期医療の需要は減少し、在宅医療、高齢者救急、認知症対応は増加すると書いています。
在宅医療の需要が増えるという点が、訪問看護に直接関わります。
人口構造の変化に地域差があることも明記されています。都市部は高齢者数が増加し、地方部は高齢者も含めて人口が減少する。需要量の増減やピークの時期は地域によって異なる。
当メディアで訪問看護の訪問回数が地域によって大きく違うことを扱いましたが、その差は今後さらに開くことになります。
そして、生産年齢人口の減少により他産業との人材獲得競争が激化し、担い手の確保が一層困難になると整理されています。
先進事例6件に、訪問系はない
第2章が白書の中心です。テクノロジーによる生産性向上を扱っています。
紹介されている先進事例は6件です。
医療分野は、社会医療法人石川記念会HITO病院と横浜市立大学附属病院。介護分野は、社会福祉法人善光会と社会福祉法人大翔会。障害福祉分野は、株式会社パパゲーノと社会福祉法人フラット。
病院が2件、介護施設が2件、障害福祉が2件です。訪問系サービスはありません。
示された効果指標も、施設を前提にしたものが並びます。看護師の移動距離を4から5キロメートル削減。夜間巡視ゼロ。職員1人当たりの利用者数が約2.8人で全国平均の約2.0人を上回る。抱え上げゼロ。
これらは、建物の中で完結するサービスの指標です。
訪問看護には当てはまりません。看護師の移動距離は建物内の話ではなく、利用者宅までの距離です。日本看護協会の実態調査では、最も時間がかかる利用者宅までの移動が平均29.8分、片道14.1キロメートルでした。見守りセンサーで夜間巡視をなくすという発想も、他人の家では成立しません。
職員1人当たりの利用者数という指標も、訪問看護では意味が変わります。当メディアで扱ったとおり、看護職員1人あたりの月間訪問回数は全国平均77.9回ですが、都市部の3級地は122.3回、その他地域は66.4回です。同じ努力をしても、地理によって数字が変わります。
「移動」という論点が抜けている
白書は、生産性向上について明確な定義を与えています。単なる効率化・省力化が目的ではなく、業務の進め方や役割分担を見直し、創出された時間や人的資源を直接的なケアや支援に再配分することだとしています。
そして業務を、直接ケアと間接業務・周辺業務に分けています。間接業務として挙げられているのは、記録、情報共有、物品管理、調整業務です。
訪問看護には、このどちらにも分類しにくい業務があります。移動です。
移動中は、直接ケアをしていません。記録も情報共有もしていません。しかし、移動しなければ訪問できません。訪問看護の業務時間のうち相当な割合を、この分類に入らない時間が占めています。
白書の枠組みでは、移動時間をどう扱うかが見えません。テクノロジーで削減できる間接業務として扱うのか、直接ケアに不可欠な時間として扱うのか。訪問系サービスの生産性を論じるなら、ここが最大の論点になるはずです。
当メディアでサテライト事業所を扱った際、移動を減らす手段として拠点の配置を検討しました。訪問看護における生産性向上は、多くの場合ソフトウェアではなく地理の問題です。
記録と情報共有には効く
とはいえ、白書が挙げた間接業務のうち、記録と情報共有は訪問看護にも当てはまります。
介護分野のテクノロジー導入状況について、白書は見守り、記録、情報共有を中心に導入が進展しているとしつつ、事業所やサービス類型で差が大きいと記しています。課題として、導入分野と事業所間の導入差、導入と運営の費用負担、人材育成、都道府県ごとの支援体制・財政支援の差異を挙げました。
日本看護協会の実態調査では、情報共有にICTを使っていない訪問看護事業所が28.3%ありました。看護職員3人未満の事業所では45.1%です。白書が指摘する事業所間の導入差が、訪問看護のなかにも存在します。
音声入力機能付きのソフトウェアによる事務処理負担の軽減は、白書が活用例として挙げているものの一つです。訪問先での記録や、移動中の記録に使える可能性があります。当メディアで実施時間の記録が2026年度改定で求められるようになったことを扱いましたが、記録の負担は増える方向にあります。
国民の7割が不安と答えている
白書には、厚生労働省が実施したアンケート調査の結果も載っています。
医療・介護・福祉分野における将来の担い手不足に不安を感じる国民は7割を超えました。一方で、テクノロジー導入への受容度も高く、医療・介護のいずれについても7割以上が肯定的です。期待としては、従事者の負担軽減が大きいとされています。
担い手が足りなくなることへの不安と、テクノロジーへの期待が、同じ水準で並んでいます。
白書をどう使うか
厚生労働白書は、制度を変える文書ではありません。現状を整理し、方向性を示すものです。
ただ、2027年度の介護報酬改定に向けた議論と時期が重なっています。当メディアで扱ったとおり、10月から12月にかけて個別のサービスごとの検討が行われ、12月に基本的な考え方がとりまとめられます。白書が示した方向性は、その議論の背景になります。
生産性向上、テクノロジー、タスク・シフト/シェア。これらが評価の対象になる可能性があります。6月の介護給付費分科会で厚生労働省が示した訪問看護の論点は、質の高い訪問看護を効果的・効率的に提供する事業所を適切に評価する方策でした。効率的という言葉が入っています。
事業所として確認できることは限られていますが、記録と情報共有にどれだけ時間を使っているかを把握しておく価値はあります。白書の枠組みでいう間接業務です。それが減れば、直接ケアか、移動か、どちらかに時間が回ります。
書かれなかったことを、誰が書くか
白書が訪問系サービスの事例を載せなかった理由は分かりません。施設型のほうが効果を数字で示しやすい、という事情はあるでしょう。夜間巡視の回数や抱え上げの件数は数えられますが、訪問看護の生産性を何で測るかは定まっていません。
当メディアでは、訪問看護には離職率の全国統計がないこと、質を評価する共通の指標を持たない事業所が41.8%あることを扱ってきました。測る仕組みがないものは、白書にも載りません。
在宅医療の需要が増えると白書自身が書いている以上、訪問系の生産性をどう考えるかは避けて通れない論点です。次の白書に載るかどうかは、その間に何が測られたかで決まります。
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執筆者
医療・看護・介護の多職種チーム
訪問看護・在宅医療の現場に携わる多職種チーム
HokanPress編集部は、訪問看護・在宅医療の現場に実際に携わる多職種チームで構成されています。看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)が所属。それぞれの専門分野で培った臨床経験と専門知識をもとに、医療・看護・介護従事者の実務に役立つ情報を発信しています。記事は必ず該当分野の有資格者が執筆または監修し、公的統計データや学会発表・厚生労働省の公表資料など、信頼性の高い情報源に基づいて作成しています。
保有資格: 看護師 / 理学療法士 / 作業療法士 / 言語聴覚士 / 医療ソーシャルワーカー / 管理栄養士 / 介護支援専門員
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


