月商347万円で、 残る 利益は 36万円——訪問看護の 38.2%が 赤字に なる 構造と、 抜け出すための 3つの 診断|立ち上げ期の 赤字か、 構造赤字か、 流出赤字か

Summary
厚生労働省の調査によれば、訪問看護ステーションの1事業所あたり月間収入は約347万6,000円、収支差率は10.3%です。残る利益は月におよそ36万円。そして同じ調査で、38.2%が赤字と報告されました。なぜこれほど薄いのか、そしてどう抜け出すのか。赤字には3つの型があり、型によって打つべき手が変わります。自己診断の方法と、撤退の判断基準まで論じます。
目次9項目
厚生労働省が公表した令和7年度介護事業経営概況調査に、訪問看護ステーションの平均的な姿が示されている。1事業所あたりの月間収入は、およそ347万6,000円。
同じ調査で、訪問看護の収支差率は10.3%と報告された。税引前で、物価高騰対策の補助金を含まない数字である。二つを掛け合わせれば、月に残る利益はおよそ36万円になる。なお赤字の割合は調査によって異なり、日本看護協会が651事業所に聞いた調査では27.2%だった。調査主体も対象も違うため、単純には比べられない。
看護職員が常勤換算で5人前後の事業所。その全員が1か月働いて、手元に残る金額だ。
そして同じ調査は、訪問看護ステーションの38.2%が赤字であることも示している。今回は赤字の構造と、そこから抜け出すための考え方を論じたい。
訪問1回あたりに置き換えると
月36万円という利益を、訪問1回あたりに直してみる。
訪問1回の単価を8,200円から8,500円とすれば、月商347万6,000円に届くには410回から425回の訪問が要る。利益36万円をその回数で割ると、1回あたりおよそ840円から870円。編集部による試算だが、公表値から導ける水準としてはこのあたりになる。
看護師が家を訪ね、1時間近くをかけてケアを提供し、記録を書く。その一連から事業所に残るのが1,000円に届かない。
薄利であることは、経営者なら肌で知っているはずだ。それでも数字にすると、意味が変わって見えてくる。キャンセルが1件出れば、10回分の訪問で積み上げた利益が消える計算になる。
平均値そのものが、下がっている
収支差率10.3%という数字は、全介護サービス平均の4.7%と比べれば高い。当メディアでもその点はお伝えしてきた。
ただし前年度、つまり令和5年度決算では11.9%だったと報じられている。1年で1.6ポイントの低下。訪問系サービス全体で収支の悪化が目立つとの指摘もある。
平均値が悪化の途上にある以上、今年の10.3%を前提に組んだ計画が来年も成り立つとは限らない。
なお、この調査で訪問看護から有効回答を寄せたのは254事業所である。全国に2万を超えるステーションがあることを踏まえれば、あくまで抽出調査の結果として受け取るべき数字ではある。
赤字には、三つの型がある
赤字対策の記事は世に多い。原因が列挙され、対策が並ぶ。だが実際の経営でつまずくのは、自事業所がどの種類の赤字なのかを見極めないまま、手当たり次第に動くときだ。
私の整理では、訪問看護の赤字は三つに分かれる。立ち上げ期の赤字、構造赤字、流出赤字。どれに当てはまるかで、処方箋がまったく違ってくる。
型① 立ち上げ期の赤字 ── 問われるのは資金の厚み
開業から間もない事業所の赤字は、多くの場合、想定の範囲内である。
看護師3名体制を想定すると、月額の固定費はおよそ170万円。人件費130万円に、家賃や車両費、通信費が乗る。一方で利用者はゼロから積み上げるため、売上が固定費に追いつくまで時間がかかる。ある試算では単月黒字が8か月目、そこまでの累積赤字が約470万円とされている。
この型で問われるのは収益力ではなく、資金の厚みだ。黒字化までの月数を手元資金で耐えきれるか。当メディアで開業資金を検証した際にも述べたが、1年目の廃業の多くは赤字そのものではなく資金切れで起こる。
打つべき手も明快になる。営業を前倒しして黒字化までの月数を縮めること、そして資金の枠を厚く確保しておくこと。焦って人を増やせば固定費だけが先に立ち上がり、傷が深くなる。
型② 構造赤字 ── 単価と件数が届いていない
開業から1年以上が経ち、それでも赤字が続いている。ここは立ち上げ期と分けて考える必要がある。
損益分岐の目安はこうだ。月額固定費170万円、訪問1件あたり8,500円とすると、月におよそ200件で収支が釣り合う。看護師2.5人で稼働日22日なら、1人1日あたり3.6件という計算になる。
黒字を確保するなら、もう一段上が要る。常勤換算1人あたり月60万から80万円の売上、訪問件数でいえば月80件から100件が一つの水準とされる。この線を下回り続けているなら、構造赤字と判断してよい。
原因は三つに絞られる。利用者が足りないか、訪問件数が伸びないか、単価が低いか。
利用者が足りないなら営業の問題だ。当メディアで論じたとおり、利用者はケアマネジャーと病院の退院支援室から来る。そこに名前が挙がっていない事業所は、待っていても増えない。
件数が伸びないなら稼働の問題になる。訪問エリアが広すぎて移動に時間を奪われていないか。最低でも5件回れる範囲に絞れているか。
単価が低いなら、利用者の構成を見直す余地がある。医療依存度の高い方を受け入れれば単価は上がるが、スタッフの負担も増す。何をどこまで受けるかという設計の問題だ。
型③ 流出赤字 ── 稼いだ分が漏れている
三つ目が、売上は立っているのに利益が残らない型である。自覚しにくいのが厄介なところだ。
漏れの経路はいくつもある。加算の算定漏れ、返戻、キャンセルによる空白、記録や事務にかかる時間、そして採用コスト。
当メディアで人材紹介の手数料を扱った際に述べたとおり、紹介で看護師を一人採用すると、厚生労働省の集計で平均72万5千円の手数料がかかる(令和6年度実績)。年に2人採用すれば145万円。訪問1回の利益を850円とすれば、その穴を埋めるのに1,700回を超える訪問が要る計算になる。
人件費率にも注意が要る。訪問看護の給与費の割合は70.1%(令和6年度決算)と高い。同じ人件費でも稼働率が上がれば率は下がるのだから、人件費の管理とは突き詰めれば稼働の管理でもある。
診断は、五つの数字で足りる
では自事業所がどの型なのか。次の五つを出せば判定できる。
一つ、月の売上と固定費。差額が損益分岐との距離になる。二つ、看護師1人あたりの月間訪問件数。80件を切っていれば稼働に問題がある。三つ、人件費率。80%を超えていれば警戒域だ。四つ、収支差率。全国平均の10.3%が比較の基準になる。五つ、加算の算定率とキャンセル率、返戻率。
開業1年未満で損益分岐に届かないなら型①。1年以上経って件数が水準に届かないなら型②。件数は足りているのに利益が薄いなら型③である。
診断ができれば、打つべき手は絞られる。逆にいえば、診断せずに営業も効率化もコスト削減も同時に始めれば、どれも中途半端に終わる。
赤字でも続く事業所、黒字でも潰れる事業所
赤字という言葉の扱いについて、一言添えておきたい。
赤字と倒産は同じではない。手元資金が厚ければ赤字でも事業は続くし、帳簿上は黒字でも現金が尽きれば止まる。いわゆる黒字倒産だ。
訪問看護でこれが起こりやすいのは成長期である。利用者が増えて看護師を採用する。給与は翌月から出ていくが、その売上が入金されるのは2か月後。伸びている最中ほど、現金は薄くなる。
だから見るべきは損益計算書だけではない。手元資金が固定費の何か月分あるか。この一つを月次で追うだけでも、判断の精度は変わってくる。当メディアが伝えたセーフティネット保証の業種指定も、資金の枠を確保する材料として使える。
どこで見切るか
最後に、他ではあまり書かれない話をしておきたい。撤退の判断である。
赤字が続くとき、経営者は「あと少し」と考える。スタッフへの責任があり、利用者への責任がある。だからこそ判断が遅れる。
一つの目安を挙げるなら、こうなる。診断で型を特定し、必要な手を打った。それでも6か月から1年、損益分岐に近づく気配がない。手元資金は固定費の3か月分を切った。この状態なら、選択肢を広げるべき時期だと考える。
選択肢は廃業だけではない。当メディアで論じたとおり、事業を譲るという道がある。訪問看護は買い手のつく事業であり、譲渡できればスタッフの雇用も利用者のケアも続く。ぎりぎりまで粘って資金が尽きれば、その選択肢さえ消えてしまう。
月商347万円で残る利益が36万円。訪問1回あたりに直せば1,000円に届かない。この事業の性質を、数字は正直に語っている。一件一件の積み重ねでしか利益は生まれず、少しの非効率がすぐに赤字へ傾く。
赤字は恥ずべきものではない。4割近くが同じ状態にあり、平均値も下がり続けている。問題なのは、どの型の赤字なのか分からないまま時間だけが過ぎることだ。五つの数字を出すのに、そう時間はかからないはずである。
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執筆者
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


