介護報酬は 3年に 1度しか 動かない ——17団体が 「毎年の 物価・賃金対応」を 要望|医療保険の 訪問看護には、 すでに 2段階の 設計が ある

Summary
介護の事業者・専門職17団体が2026年10月6日、木原稔官房長官に要望書を提出した。基本報酬の十分な引き上げに加え、毎年の賃金改善と、物価動向を踏まえた毎年の対応を求めている。介護報酬は原則3年に1度の改定だが、2026年6月には期中改定が行われ、3年サイクルはすでに一度崩れた。一方、医療保険の訪問看護には、物価対応料を2027年6月に倍額にする段階設計が先に入っている。訪問看護は、二つの改定サイクルの両方に乗っている。
目次7項目
介護報酬を毎年動かしてほしい。介護の団体が、そう求めた。
2026年10月6日、介護サービスを担う事業者や専門職で組織する17団体が、来年度の介護報酬改定に向けた要望書を木原稔官房長官に提出した。報道によれば、要望は3点である。
安定的・継続的にサービスを提供できる経営基盤を確保するため、基本報酬を十分に引き上げること。全産業と遜色のない賃金水準の実現に向けて、介護従事者の毎年の賃金改善を図ること。物価動向を踏まえた毎年の対応と、前回改定以降の物価上昇によるコスト増への対応・支援を行うこと。
要望書は、公定価格のもとで運営される介護事業者では環境変化への対応に限界があると訴えた。手交後、全国老人保健施設協会の東憲太郎会長は、既に一部で介護崩壊が起こっていると述べている。
なお、17団体の名称は報道では示されておらず、訪問看護の団体が含まれているかは確認できていない。
要望の中身で注目すべきは、二つ目と三つ目に「毎年」という言葉が入っていることだ。
3年に1度という前提
介護報酬は、原則として3年に1度改定される。介護保険事業計画の期間が3年であり、保険料もそれに合わせて3年ごとに見直されるからだ。
この仕組みは、物価と賃金がほとんど動かない時代には問題にならなかった。改定時点の水準で単価を決め、3年間据え置く。その間にコストがあまり変わらなければ、事業者は困らない。
前提が崩れたのは、物価と賃金が毎年上がるようになってからである。
9月30日の介護給付費分科会で示された2027年度改定の基本的な視点(案)は、この点をはっきり書いている。介護サービスは公定価格であり、物価や賃金の上昇によるコストの増加を事業者自らサービス価格に反映することが困難である。そして第1の視点として、物価や賃金の上昇等を介護報酬に適切に反映することを掲げた。
問題は、どの頻度で反映するかだ。3年に1度の改定で反映するなら、3年分のコスト増を事業者が先に負担することになる。
3年サイクルはすでに崩れている
実は、介護報酬はこの3年サイクルをすでに一度外れている。
2024年度の改定の後、2026年6月に期中改定が行われた。改定率はプラス2.03%。処遇改善加算の対象が介護職員から介護従事者全体に広げられ、それまで対象外だった訪問看護にも、加算率1.8%で処遇改善加算が新設された。
次の定期改定である2027年度を待たずに、報酬を動かしたということである。物価と賃金の上昇に、3年の周期では間に合わないと判断されたことになる。
17団体の要望は、この臨時の対応を、毎年の仕組みに変えてほしいというものだと読める。
医療保険は、すでに段階を組んでいる
ここで、訪問看護に固有の事情がある。
訪問看護は、介護保険と医療保険の両方で提供される。医療保険の診療報酬は、原則2年に1度の改定だ。そして2026年度の診療報酬改定では、2年の期間の中に、あらかじめ2段階の引き上げが組み込まれた。
改定率は全体でプラス3.09%だが、2026年度がプラス2.41%、2027年度がプラス3.77%と、2年目のほうが高い。
訪問看護にも、その設計が具体的に入っている。2026年度改定で新設された訪問看護物価対応料は、月の初日の訪問で60円、2日目以降の訪問で20円。これが2027年6月以降、所定額の200%、つまり倍額になる。当メディアで扱ったとおり、金額は小さいが、改定の間に物価が上がり続けることを前提に、2年目に自動的に上がる仕組みを最初から入れた。
賃金についても同じ構造がある。訪問看護ベースアップ評価料は、賃上げの目標を令和8年に3.2%、令和9年に3.2%の累積6.4%としている。
医療保険では、改定と改定の間に動く仕組みが、すでに制度の中にある。
同じ事業所で、二つの時計が動いている
訪問看護ステーションから見ると、これは二つの時計が同時に動いているということだ。
医療保険の利用者については、2027年6月に物価対応料が倍になり、ベースアップ評価料も2年目の水準に移る。介護保険の利用者については、2027年4月の定期改定で何が決まるかを待つことになる。
日本看護協会の実態調査や厚生労働省の統計を見ても、訪問看護の利用者は介護保険と医療保険が混在している。どちらの比率が高いかは事業所によって違う。医療保険の比率が高い事業所は段階的な引き上げの恩恵を受けやすく、介護保険の比率が高い事業所は3年の周期の影響を受けやすい。
当メディアで扱ったとおり、2026年6月に新設された介護保険側の処遇改善加算は、訪問看護での算定率が67.6%にとどまった。医療保険と介護保険の両方に関わるサービスほど算定率が低いという並びも見えた。一つの事業所の中で、制度の仕組みが違う二つの報酬を扱うこと自体が、負担になっている。
毎年動かすことの代償
では、介護報酬を毎年動かせばよいのか。そう単純ではない。
第一に、財源の問題がある。介護報酬は保険料と公費と利用者負担で賄われる。報酬を毎年上げれば、保険料も毎年上がる圧力がかかる。9月30日の基本的な視点(案)は、第5の視点として制度の持続可能性を置き、特に現役世代を中心に保険料負担の増加への懸念が示されていると書いた。毎年の引き上げを求める声と、保険料を抑えたい声は、同じ制度の中でぶつかる。
第二に、事務の問題がある。報酬が毎年変われば、請求の設定も、利用者への説明も、契約の見直しも毎年発生する。小規模な事業所ほど負担が重い。処遇改善加算の算定率が67.6%にとどまった理由の一つも、届出と計画書の事務だったと考えられる。
第三に、何に連動させるかという問題がある。Jointに掲載されたコラムは、介護報酬に賃金・物価の自動スライドを導入すべきだと主張している。自動スライドにするなら、どの物価指数、どの賃金統計に連動させるかを決めなければならない。医療保険の物価対応料は、2年目の倍額という固定の設計であって、指数に連動しているわけではない。
要望の行き先
17団体の要望は、官房長官に出された。厚生労働省ではなく、首相官邸である。
改定率は年末の予算編成で決まる。介護給付費分科会での議論は、報酬の配分と要件を決めるものであり、全体の財源の大きさは政府の判断になる。要望の宛先が官邸であることは、勝負どころが予算であることを示している。
9月16日の意見交換会では、訪問看護の団体が賃金改善分を本体報酬に組み込むことを求めた。加算として配るのではなく、本体として配る。17団体の要望も、基本報酬の十分な引き上げを一つ目に置いている。方向は同じである。
ただ、本体報酬を上げることと、毎年上げることは別の話だ。本体報酬が上がっても、次の改定まで3年据え置かれれば、その間のコスト増はまた事業者が負う。
2027年度改定で問われること
12月に、2027年度改定の基本的な考え方がとりまとめられる。12月下旬には改定率が決まる。
そこで見るべき点は、改定率の大きさだけではない。介護報酬にも、医療保険の物価対応料のような段階的な仕組みが入るのか。3年の期間の中で、2年目や3年目に自動的に動く項目が設けられるのか。
2026年6月の期中改定は、3年サイクルが現実に合わなくなっていることを示した。それを臨時の対応で終わらせるのか、仕組みに組み込むのか。訪問看護は、医療保険の側で先にその仕組みを経験している。その経験が、介護保険の議論にどう生かされるかを見ておきたい。
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執筆者
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


