タブレット1台の 紛失が、 事業所の 信頼を 壊す——訪問看護の 個人情報管理と いう 第3の リスク|利用者情報は 「要配慮個人情報」、 漏えいは 1件でも 報告義務。 車上荒らしの 判例が 示す現実

Summary
訪問看護は個人情報を持って外を歩く事業です。タブレット、スマートフォン、紙の記録。利用者の病歴を含むそれらの情報は、法律上最も厳格に扱うべき「要配慮個人情報」にあたります。2022年施行の改正個人情報保護法により、漏えいすれば件数を問わず国への報告と本人への通知が義務になりました。車上荒らしでPCを盗まれた病院が過失責任を問われた判例もあります。労務・車両に続く第3の経営リスクである情報管理を、宮木が解説します。
オンコールの労務管理で990万円の支払い命令。スタッフの交通事故で事業所が負う賠償責任。これまで2回にわたり、訪問看護が見落としがちな経営リスクを論じてきた。今回はその第3のピースである。個人情報の管理だ。
訪問看護は、個人情報を持って外を歩く事業である。タブレット、スマートフォン、紙の訪問記録。利用者の氏名と病歴が詰まったそれらを携えて、スタッフは毎日、車や自転車で地域を回る。病院のように情報が建物の中にとどまる業態ではない。持ち出しが業務の前提なのだ。
その前提の重さを、法律と判例から確認していきたい。
訪問看護の情報は「要配慮個人情報」である
はじめに押さえるべきは、扱っている情報の格だ。
個人情報保護法は、病歴や診療の記録など、不当な差別や偏見につながりうる情報を「要配慮個人情報」として、最も厳格な区分に置いている。訪問看護の記録は、氏名と病名、心身の状態、家族の状況までを含む。つまり事業所が日々扱う情報のほぼすべてが、この最上位の区分にあたる。
ここから重大な帰結が生じる。2022年4月施行の改正個人情報保護法により、個人データの漏えい等で個人の権利利益を害するおそれが大きい場合、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務化された。そして要配慮個人情報の漏えいは、件数を問わず報告の対象になる。1,000人分の流出でなくてよい。利用者1人分の記録が入ったタブレット1台の紛失でも、報告義務が生じうるのだ。
法が事業所と個人に課すもの
義務の構造も確認しておく。個人情報保護法は事業者に対し、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じること、そして従業者に個人データを扱わせる際に必要かつ適切な監督を行うことを求めている。漏えいが起きれば、事業所はこの義務への違反を問われうる。
個人の責任も軽くない。従業者やその立場にあった者が、業務で扱った個人情報データベースを自己や第三者の不正な利益を図る目的で提供・盗用した場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という刑事罰の対象になる。退職者が利用者名簿を持ち出して転職先で使う。あってはならないが、想定すべき事態である。
判例が示す現実 ── 車上荒らしと、事業所の過失
抽象論ではない。実際の裁判を見てみよう。
ある病院の医師が、患者の個人情報をパソコンに複製し、院内の規定に従わずに外へ持ち出した。そのパソコンを自動車に置いたまま離れたところ、車上荒らしに遭い、情報ごと盗まれた。裁判所は、患者の個人情報を適切に管理しなかった病院の過失を認め、慰謝料の支払いを命じた。解説した弁護士は、持ち出した医師本人が訴えられていれば、病院と連帯して賠償責任を負った可能性が高いとも指摘している。


