訪問看護の 個別指導、 対象は 1件当たり平均額の 上位1%——単価が 高い こと自体が 選定理由に なる

Summary
訪問看護療養費請求書の1件当たり平均額が高い事業所を、高い順に選んで個別指導する。そういう仕組みが2025年度から動いている。選定基準は二つで、都道府県の平均額を超えていること、そしてステーション総数の上位おおむね1%に入っていること。不正を疑われたからではなく、単価が高いという理由で指導の対象になる。広域展開する事業者には共同指導という別の枠組みもある。
レセプト1件当たりの平均額が高い。それだけで個別指導の対象になる。
2025年4月3日に訪問看護ステーションの指導要綱が一部改正され、そういう仕組みが作られた。同年9月16日には、具体的な選定と実施の取扱いを示す通知と事務連絡が出ている。保険局医療課長通知が保医発0916第9号、医療指導監査室長の事務連絡がもう一本。日本医師会が9月22日付で都道府県医師会に周知している。
指導の理由が「不正が疑われる」ではなく「単価が高い」であることに、この仕組みの特徴がある。
上位1%という線
高額を理由とする都道府県個別指導の対象は、二つの条件を両方満たす事業所とされている。
訪問看護レセプト1件当たりの平均額が、その都道府県の平均額を超えていること。そして、都道府県内のステーション総数の上位おおむね1%の範囲に位置していること。
1%である。ある県に500か所のステーションがあるなら、5か所。その5か所が、1件当たり平均額の高い順に並べられる。
除外もある。前年度までの4年間に都道府県個別指導を受けた事業所は外れる。1か月当たりの請求件数が、社保・国保・後期を合わせて30件未満の事業所も外れる。件数が少なければ平均額は振れやすいから、当然の措置だ。
算出に使うデータは、当面、社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会からのもの。各都道府県が、その県のステーションの特性や療養費の実態も勘案するとされている。
何を見られるか
指導で確認されるのは、単価が高い理由である。
重度の利用者が多いために高くなっているのか。それとも、不適切に頻回な訪問によって高くなっているのか。この二つを分けることが目的だと説明されている。
前者なら問題はない。別表第七や第八に該当する利用者、医療的ケアの多い利用者を抱えていれば、単価は上がる。難病や末期がんの利用者を受け入れている事業所ほど、1件当たり平均額は高くなる。
問題は、それを説明できるかだ。
指導は、原則として指導月以前の連続した2か月分の訪問看護療養費請求書に基づいて行われる。関係書類を閲覧し、管理者などとの面接懇談という形式をとる。つまり、2か月分の請求と、それに対応する記録を突き合わせられる。
2026年度改定で、訪問看護記録書に実際の訪問開始時刻と終了時刻を記載することが求められるようになった。20分を下回る訪問は算定できない。前回訪問から2時間未満の短時間訪問は合算する。当メディアでも扱ったが、これらのルールが入ったことで、記録から訪問の実態を読み取れるようになっている。
単価が高い事業所が指導を受けたとき、その高さの根拠は記録にしかない。
実施日は1週間から10日前に通知される
指導そのものは、抜き打ちではない。実施日は1週間から10日前に通知される。準備の時間はある。
ただし例外が用意されている。悪質と判断されたケースについては、監査の当日に通知を持参する形での抜き打ち監査があり得るとされている。
指導と監査は別のものだ。指導は教育的な性格を持ち、周知徹底を図ることを主眼とする。監査は不正または著しい不当が疑われる場合に行われ、結果によっては指定の取消しに至る。
高額を理由とする個別指導は、前者である。選ばれたこと自体が、不正を疑われたことを意味するわけではない。
共同指導という、もう一つの枠
同じ改正で、共同指導という仕組みも新設された。
対象は、同一の指定訪問看護事業者が複数の都道府県にステーションを持っている場合。そのほか、特に共同指導が必要と認められるステーションも含まれる。候補の中から、厚生労働省・地方厚生局・都道府県が協議して選定する。
担当するのは、地方厚生局長が指名する事務官と非常勤の看護師。必要に応じて技官や非常勤の医師も加わる。都道府県が適当と認める者、そして厚生労働省保険局医療課の医療指導監査担当官も入る。
本省の担当官が来る指導である。
背景は明らかだ。複数県にまたがって展開する事業者を、一つの県の担当だけで見ても全体像がつかめない。当メディアで包括型訪問看護療養費や有料老人ホームの登録制を追ってきたが、高齢者向け住まいに併設したステーションを広域で展開する事業モデルが、この数年で拡大した。その事業者を対象にした指導の枠組みだと読める。
自事業所は、どのあたりにいるか
経営者として確認すべきことは、それほど多くない。
自事業所の訪問看護療養費請求書の1件当たり平均額がいくらか。これは請求データから出せる。都道府県の平均額は公表されていないため比較はできないが、自分の数字を把握していなければ、高いか低いかの見当もつかない。
医療保険の利用者構成も見ておきたい。別表第七・第八に該当する利用者が何人いるか。特別訪問看護指示書が交付されている利用者は何人か。難病等複数回訪問加算や特別管理加算をどれだけ算定しているか。単価が高い理由が利用者の重症度にあるなら、その構成そのものが説明材料になる。
そして記録だ。訪問の開始時刻と終了時刻、実施した内容、計画との対応。2か月分を抜き出して読んだときに、請求と整合するか。
日本看護協会の実態調査では、認定看護師も専門看護師もいない事業所が88.5%だった。医療ニーズの高い利用者を多く受けている事業所ほど単価は上がるが、その根拠を記録で示せなければ、指導の場で説明が難しくなる。
選定基準が公表されている意味
この仕組みで注目すべきは、選定基準が明示されたことだ。
従来、個別指導の選定は不透明だった。情報提供があった、という理由で選ばれることが多く、事業所側からは予測できなかった。上位1%という基準が示されたことで、自分が対象になり得るかを、事業所が自分で判断できるようになった。
もっとも、これは裏返せば、1%に入る事業所は遅かれ早かれ対象になるということでもある。単価が高い状態が続けば、いずれ順番が回ってくる。
単価を下げることが目的ではない。重度の利用者を受け入れることは、制度が訪問看護に求めている役割そのものだ。6月の介護給付費分科会で厚生労働省が示した論点も、24時間の看護と医療処置を担う事業所を評価する方向だった。
求められているのは、単価が高い理由を説明できる状態を作っておくことである。それは指導のためというより、経営の実態を把握しているかという話に近い。
自事業所の1件当たり平均額を知らない経営者は、少なくない。
執筆者
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


