2027年度改定の 「基本的な 視点」が 出た ——AIなど 介護テクの 評価を 居宅系へ、 ただし例示に 訪問看護は ない |5つの 視点を 訪問看護から 読む

Summary
厚生労働省は2026年9月30日の介護給付費分科会に、令和9年度介護報酬改定に向けた「基本的な視点(案)」を示しました。5つの視点のうち4番目で、「居宅系サービスも含めたAI等の介護テクノロジーの活用」が明記されています。これまで施設中心だった生産性向上の評価が、在宅へ広がる方向です。ただし資料に訪問看護という語はなく、8月に例示されたのは訪問介護、通所介護、居宅介護支援でした。訪問看護の立場から5つの視点を読みます。
目次7項目
2027年度の介護報酬改定の骨格が見えてきました。
厚生労働省は2026年9月30日、第268回社会保障審議会介護給付費分科会に「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」を提示しました。4月以降に9回の議論と、関係団体との3回の意見交換会を経てまとめられたものです。
改定の方向性は、5つの視点に集約されています。物価・賃金の上昇等への対応と処遇改善。人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築。地域包括ケアシステムの深化。職場環境の改善と生産性の向上を通じたサービスの質の向上及び介護人材の確保。そして制度の安定性・持続可能性の確保です。
報道で注目されたのは4番目でした。
「居宅系サービスも含めた」という一句
資料は第4の視点について、居宅系サービスも含めたAI等の介護テクノロジーの活用、業務のタスクシフト/シェアなどを通じた生産性向上を一層推進し、職員の負担軽減を図るとともに、職員が利用者への直接的な介護ケアにより注力できる環境を整備していくことが重要だとしています。
基本認識の部分にも、施設系サービスのみならず居宅系サービスも含め、という表現があります。
この一句が意味を持つのは、これまでの評価が施設に偏っていたからです。2024年度の改定で新設された生産性向上推進体制加算は、施設系、居住系、多機能系などのサービスが対象で、訪問系のサービスには設けられていません。見守り機器やインカムを導入し、委員会で業務改善を検討する事業所を評価する仕組みでした。
厚労省は8月28日の分科会で、生産性向上に取り組む在宅系サービスの事業所を加算で新たに評価することを論点として示しています。実証事業では、ケアプランデータ連携システムやAIツールの活用により、在宅領域でも業務時間を削減する効果が得られたと報告されました。9月30日の資料は、その方向を改定の視点として明文化したものです。
例示に訪問看護はない
ここで一つ、確認しておくべきことがあります。
8月の論点で、在宅系サービスの例として挙げられたのは、訪問介護、通所介護、居宅介護支援などでした。9月30日の基本的な視点(案)は、全体を通して訪問看護という語を使っていません。
これは、訪問看護が対象外になったという意味ではありません。居宅系サービスには訪問看護も含まれます。ただ、議論の中心にある像は、ヘルパーの訪問やデイサービス、ケアマネジャーの業務です。
当メディアで9月30日に扱った令和8年版厚生労働白書でも、テクノロジーによる生産性向上の先進事例6件は病院、介護施設、障害福祉で、訪問系はゼロでした。白書の翌日に在宅への拡大が示されたこと自体は前進です。ただ、訪問看護がどう評価されるかは、まだ白紙に近い状態にあります。
在宅の生産性を何で測るか
在宅に評価を広げるとき、最初に問題になるのは測り方です。
施設の生産性は、比較的測りやすい指標があります。夜間の巡視回数、職員1人当たりの利用者数、記録にかかる時間。白書もこうした指標で効果を示していました。
訪問看護には、これらが当てはまりにくい。夜間巡視はなく、職員1人当たりの利用者数は地域によって大きく変わります。当メディアで扱ったとおり、看護職員1人あたりの月間訪問回数は、都市部の3級地で122.3回、その他の地域で66.4回でした。同じ努力をしても、地理で数字が変わります。
そして、施設にはない時間があります。移動です。日本看護協会の実態調査では、最も時間がかかる利用者宅までの移動は平均29.8分、片道14.1キロメートルでした。
基本的な視点は、テクノロジーで生み出された時間を直接的な介護ケアの業務に充てるとしています。白書と同じく、業務を直接ケアとそれ以外に分ける考え方です。移動はどちらにも入りにくい。訪問看護の生産性向上を評価するなら、移動の扱いを決めないと設計できません。
記録には効く、ただし差が大きい
テクノロジーが訪問看護に効きやすい領域もあります。記録と情報共有です。
実証事業で効果が報告されたのも、ケアプランデータ連携システムやAIツールでした。2026年度の診療報酬改定で、訪問看護記録書に実際の訪問開始時刻と終了時刻の記載が求められるようになり、記録の負担は増える方向にあります。訪問先や移動の合間に記録を済ませられれば、事業所に戻ってからの作業が減ります。
ただし、導入の差は大きい。同じ実態調査で、情報共有にICTを使っていない訪問看護事業所は28.3%、看護職員3人未満の事業所では45.1%でした。
Jointの報道は、在宅系サービスは小規模な事業所が多く、テクノロジーの導入・運用や加算の取得に伴う負担を抑える制度設計が焦点になると指摘しています。8月の分科会でも、ふさわしい機器や導入コストの慎重な検討、伴走型の支援を求める意見が出ていました。
当メディアで扱ったとおり、訪問看護に初めて設けられた処遇改善加算の算定率は67.6%でした。加算を新設しても、取れる事業所と取れない事業所に分かれます。テクノロジーの加算でも同じことが起きれば、もともとICTを使っている事業所だけが評価され、差はむしろ開きます。
他の視点も訪問看護に関わる
テクノロジー以外の視点にも、訪問看護に直結する記述があります。
第1の視点は物価・賃金への対応と処遇改善です。資料は、介護サービスは公定価格であり、物価や賃金の上昇によるコストの増加を事業者自らサービス価格に反映することが困難だと明記しました。令和7年度介護事業経営概況調査で、全サービスの赤字事業者の割合は約4割とも書いています。他職種と遜色のない処遇改善を実現するという表現も入りました。9月16日の意見交換会で、訪問看護の団体は賃金改善分を本体報酬に組み込むことを求めています。
第2の視点では、中山間地域の加算のあり方の見直しが挙げられています。同じ意見交換会で、訪問看護の団体は特別地域・中山間地域加算の加算率の見直しを要望していました。実態調査では、特別地域訪問看護加算を算定している事業所は2.9%です。
第3の視点には、医療ニーズが高い方への対応や看取りへの対応を含めた医療と介護の連携が入っています。訪問看護の中核にあたる部分です。有料老人ホームのサービスの質と運営の透明性の確保も、同じ視点に書かれています。当メディアで扱った登録制の基準案や、ホスピス型住宅をめぐる報酬返還の指導と同じ流れです。
第5の視点が示す緊張
最後の視点は、制度の安定性・持続可能性の確保です。
資料は、特に現役世代を中心に保険料負担の増加への懸念が示されているとし、介護報酬の評価の適正化・重点化と、報酬体系の整理・簡素化を進めることが必要だとしています。
第1の視点で処遇改善と経営の安定を掲げ、第5の視点で適正化・重点化を掲げる。この二つは、財源が限られるなかで同時に進められます。どのサービスを手厚くし、どこを絞るのかが、10月から12月の議論で具体化します。
訪問看護の収支差率は、令和7年度の概況調査で10.3%でした。全サービスの約4割が赤字という状況のなかで、平均的には黒字の側にいます。財務省はこの数字を挙げて適正化を求めてきました。一方で、日本看護協会の実態調査では27.2%が赤字です。適正化の議論で平均値だけが使われれば、赤字の事業所ごと絞られることになります。
年内に方向が決まる
Jointの報道によれば、厚労省は講じる施策のアウトラインを年内に固める方針です。12月に基本的な考え方がとりまとめられ、12月下旬に改定率が決まり、2027年1月頃に諮問・答申という流れになります。
在宅のテクノロジー評価が、加算として新設されるのか。その要件に訪問看護が合うのか。移動をどう扱うのか。訪問看護の団体がこの点で何を求めるのかも含め、10月以降の分科会で見えてきます。
事業所として今確認できることは、記録と情報共有にどれだけ時間を使っているかです。要件がどう決まっても、評価されるのは取り組みの実績になるはずです。測っていない事業所は、加算ができたときに出発点が分かりません。
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執筆者
医療・看護・介護の多職種チーム
訪問看護・在宅医療の現場に携わる多職種チーム
HokanPress編集部は、訪問看護・在宅医療の現場に実際に携わる多職種チームで構成されています。看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)が所属。それぞれの専門分野で培った臨床経験と専門知識をもとに、医療・看護・介護従事者の実務に役立つ情報を発信しています。記事は必ず該当分野の有資格者が執筆または監修し、公的統計データや学会発表・厚生労働省の公表資料など、信頼性の高い情報源に基づいて作成しています。
保有資格: 看護師 / 理学療法士 / 作業療法士 / 言語聴覚士 / 医療ソーシャルワーカー / 管理栄養士 / 介護支援専門員
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


