訪問看護の 番が 来た ——9月16日、 三団体が 求めたのは 「賃金改善分を 本体報酬へ」 |2027年度改定の 意見交換会が 終了、 次は 12月

Summary
2026年9月16日、第267回介護給付費分科会が開かれ、3回にわたる関係団体等意見交換会が終わりました。最終回のテーマは医療系サービスと中山間・人口減少地域。日本訪問看護財団と全国訪問看護事業協会は、全地域で24時間365日の訪問看護を提供する基盤の強化を要望しています。柱は、賃金改善分を本体報酬に組み込むこと、特別地域・中山間地域加算の加算率の見直し、そして初回の夜間帯の緊急訪問が算定対象外となる要件の見直しでした。
目次7項目
訪問看護の番が来ました。
2026年9月16日に開かれた第267回社会保障審議会介護給付費分科会で、日本訪問看護財団と全国訪問看護事業協会が意見を述べています。3回にわたって行われた関係団体等意見交換会の、最終回にあたります。
当メディアでは9月11日に、意見交換会の1回目が開かれたことと、訪問看護は医療系サービスに含まれるため第2回か第3回になることを書きました。第2回は9月14日に居住系・施設系サービスをテーマに開かれ、訪問看護は第3回に登場しました。
この日のテーマは医療系サービスと中山間・人口減少地域です。提出された資料は12本。訪問看護の団体のほか、全国リハビリテーション医療関連団体協議会、全日本病院協会、日本栄養士会、日本医療法人協会、リハビリテーション専門職団体協議会、そして島根県、島根県川本町、長崎県西海市などの自治体と事業者が並びました。
何が求められたのかを確認します。
柱は「本体報酬に組み込む」
両団体の要望は、全地域で24時間365日の訪問看護を提供する基盤の強化を軸としています。具体的な要望として報じられているのは三つです。
一つ目が、病院との賃金格差や地域による賃上げの差への対応として、賃金改善分を本体報酬に組み込むことです。
この表現には意味があります。当メディアで基本給が12年で5,868円しか上がっていないことを扱った際、日本看護協会の調査でベースアップ評価料を原資とした引き上げの多くが毎月の手当として配られ、基本給を上げた事業所は3割弱にとどまることを紹介しました。
加算として原資が来る限り、事業所は手当で配る判断をしやすくなります。加算は要件を満たさなくなれば消えるため、基本給に入れると戻せないからです。本体報酬に組み込めば、その構造が変わります。三団体が求めているのは、加算率の上積みではなく、報酬の土台そのものを動かすことです。
日本看護協会は7月13日、日本訪問看護財団と全国訪問看護事業協会との連名で、黒田秀郎老健局長に令和9年度介護報酬改定に関する要望書を提出しています。当メディアでも触れたとおり、要望は二点でした。すべての訪問看護師の処遇改善と、訪問看護事業所の安定的な運営を支える介護報酬の確保です。今回の意見表明は、その二点を分科会の場で具体化したものと読めます。
特別地域・中山間地域加算の加算率
二つ目が、特別地域加算と中山間地域等における小規模事業所加算の加算率の見直しです。
この日のテーマが中山間・人口減少地域と組み合わされていたことが、要望の背景を示しています。同じ日には島根県、島根県川本町、島根県邑智郡、長崎県西海市といった自治体と現地の事業者が資料を提出しました。
移動コストの問題は、第1回の意見交換会でも訪問介護の側から提起されていました。船での移動で2日間拘束されるケースがあるという報告もあります。
当メディアで訪問看護の移動手段を扱った際、燃料費の上昇が収支に与える影響は0.13%程度で、重いのは車両の固定費と事故リスクだと試算しました。ただしこの試算は、訪問先が半径数キロメートルに収まる地域を前提としています。離島や中山間地域では、移動時間そのものが訪問件数の上限を決めます。1日に回れる件数が3件と5件では、同じ単価でも事業として成立するかどうかが変わります。
イギリスの地域看護師を扱った記事では、ニーズ調整後の人口10万人あたりで北西部13.7人に対し東部2.8人という地域差を紹介しました。日本にも同種の偏在があり、それを埋める手段が地域加算です。加算率の見直しという要望は、現在の率では埋まっていないという認識の表明でもあります。
初回の夜間帯の緊急訪問
三つ目が、実務に最も近い要望です。初回の夜間帯等の緊急訪問が算定対象外となる要件の見直しを求めました。
緊急時訪問看護加算は、利用者の求めに応じて24時間連絡を受け、必要に応じて緊急訪問を行う体制を評価するものです。当メディアで24時間対応の構造を論じた際、加算を届け出ることと、実際に夜間の電話と訪問を回せる体制があることは別だと書きました。
今回の要望は、その運用の細部に関わります。報道されている範囲では詳細な条件までは分かりませんが、夜間帯の緊急訪問が算定できない場面が実務上生じており、それが体制の維持を難しくしているという主張です。
オンコールの待機手当は1回平均2,233円。当メディアで訪問看護師の年収を扱った際に紹介した数字です。待機しても呼ばれなければ手当だけ、呼ばれて訪問しても算定できない場面があるとすれば、24時間体制を維持する事業所ほど負担を抱えることになります。
看多機についての提案
看護小規模多機能型居宅介護についても提案がありました。短期利用の評価の見直しと、認知症看護の専門研修を修了した看護師による介入の評価です。
後者は、当メディアで特定行為研修の修了者が11,840人にとどまることを扱った際の論点と重なります。研修を修了した看護師の専門性を、どう報酬で評価するか。特定行為については専門管理加算がありますが、算定には医師による手順書の交付が必要です。認知症看護の専門研修についても、修了者を評価する仕組みが求められている形です。
同じ場で出た、もう一つの論点
意見交換会全体を通して、訪問看護に関わる指摘がもう一つありました。
第2回の9月14日、全国介護事業者連盟の斉藤正行氏が、訪問介護の同一建物減算を避けるために法人を分割する事業者に対して、規制の厳格化を求めたと報じられています。
訪問看護の話ではありません。ただ、構造は共通しています。当メディアでは2026年度改定における同一建物の扱いを繰り返し扱ってきました。精神科訪問看護の同一建物区分が5段階に細分化され、10人以上では日数の数え方が週から月に変わったこと。同一敷地内の建物も同一建物として扱われるようになったこと。高齢者向け住まいに併設・隣接するステーションを対象とする包括型訪問看護療養費が新設されたこと。
いずれも、集住する利用者を効率的に回る収益構造への対応です。法人分割による回避が介護の側で問題視されているのであれば、訪問看護でも同じ議論が起こりうると考えておくべきでしょう。
ここから12月まで
意見交換会は、これで3回すべてが終わりました。
当メディアで9月11日に整理したとおり、10月から12月にかけてが第2ラウンドにあたります。個別のサービスごとに、単位数、要件、基準について具体的な議論が行われる期間です。
12月中に報酬と基準に関する基本的な考え方が整理され、とりまとめられます。基準については、地方自治体が条例を制定・改正する期間を確保するため、先行してとりまとめが行われます。12月下旬に政府の予算編成で改定率が決まり、2027年1月頃に諮問と答申という流れです。
つまり、訪問看護の団体が何を求めたかは分かりました。それが通るかどうかが見えてくるのは12月です。
事業所が見ておくこと
分科会の議論を、事業所が直接動かすことはできません。それでも確認できることはあります。
一つは、要望の根拠になっているデータです。日本看護協会は令和9年度介護報酬改定等に向けた訪問看護実態調査を実施し、報告書を公表しています。2025年度時点の訪問看護事業所の実態を明らかにし、要望活動と政策提言のエビデンスとなる基礎データを集める目的で行われたものです。
自事業所の実感と、この調査が示す数字が一致しているか。ずれているなら、そのずれ自体が現場の情報になります。当メディアで世界情勢と訪問看護の関係を整理した際、団体が何を持っていくかは事業所が日頃どんな数字を記録しているかに左右されると書きました。
もう一つは、第267回の資料そのものです。厚生労働省のサイトで公開されており、日本訪問看護財団と全国訪問看護事業協会の資料は2.3メガバイトのPDFとして掲載されています。報道の要約ではなく、団体が何をどのデータで主張したかを直接読むことができます。
賃金改善分を本体報酬へ。地域加算の率の見直し。夜間帯の緊急訪問の算定要件。この三つが、2027年度改定に向けて訪問看護の側から出された要望です。12月のとりまとめで、どこまで残るかを見ることになります。
執筆者
医療・看護・介護の多職種チーム
訪問看護・在宅医療の現場に携わる多職種チーム
HokanPress編集部は、訪問看護・在宅医療の現場に実際に携わる多職種チームで構成されています。看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)が所属。それぞれの専門分野で培った臨床経験と専門知識をもとに、医療・看護・介護従事者の実務に役立つ情報を発信しています。記事は必ず該当分野の有資格者が執筆または監修し、公的統計データや学会発表・厚生労働省の公表資料など、信頼性の高い情報源に基づいて作成しています。
保有資格: 看護師 / 理学療法士 / 作業療法士 / 言語聴覚士 / 医療ソーシャルワーカー / 管理栄養士 / 介護支援専門員
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


