「もしもの とき」の 話は、 縁起でもない 話ではない ——訪問看護と 進める ACP(人生会議)|最期の 場面では 約7割が 自分で 決められなくなる。 だから 元気なうちに、 何度でも 話す

Summary
「延命治療はどうされますか」。病状が急変してから初めてそう問われ、何も聞いていなかったご家族が凍りつく場面を、私は現場で何度も見てきました。人生の最終段階では約7割の人が自分で意思決定できない状態になるといわれます。だからこそ元気なうちに、大切にしたいことを繰り返し話しておく。それがACP、人生会議です。縁起でもない話ではなく、今日からの暮らしをよくする対話であることを、現場の視点でお伝えします。
「延命治療はどうされますか。ご家族で決めてください」。病状が急変した夜に初めてそう問われ、何も聞いていなかったご家族が凍りついてしまう場面を、私は現場で何度も見てきました。
本人はもう答えられない。家族は本人の気持ちが分からない。それでも決めなければならない。あの重さを知っているからこそ、お伝えしたいことがあります。
もしものときの話は、縁起でもない話ではありません。元気なうちに、大切な人と繰り返し話しておくこと。それがACP、愛称でいう人生会議です。今日はその進め方を、訪問看護の現場からお話しさせてください。
ACP(人生会議)とは何か
ACPはアドバンス・ケア・プランニングの略で、厚生労働省のガイドラインではこう定義されています。将来の変化に備え、将来の医療とケアについて、本人を主体にご家族や近しい人と医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスである、と。
2018年に「人生会議」という愛称が付けられ、11月30日は人生会議の日とされています。
大切なのは「プロセス」という言葉です。ACPは書類を一枚作って終わるものではありません。話し合いを重ねること自体に意味があります。エンディングノートが個人の記録だとすれば、人生会議は本人の思いを周りの人と共有している状態を作る営みです。書いたものより、話した時間が残るのです。
なぜ必要か ── 約7割が、自分で決められなくなる
人生の最終段階では、約7割の人が自分で意思決定できない状態になるといわれます。意識の低下、認知機能の変化、急な容体の悪化。理由はさまざまですが、いちばん大事な場面で本人の声が聞けなくなることは、決して珍しくありません。
そのとき何が起こるか。冒頭のような場面です。家族が「本人ならどう望んだか」を推し量って決めなければならない。その決断は、後々まで心に残ります。「あれでよかったのだろうか」と、何年も自分を責め続けるご家族を、私は知っています。
数字も示されています。ACPを実施した患者さんの約73%が、自分の希望に沿ったケアを受けられたと答えています。家族が代理で意思決定するときの心理的な負担も、およそ55%軽減されるという海外の報告があります。話しておくことは、本人の望みを守ると同時に、残される家族を守ることでもあるのです。


