看護師一人の採用に100万円——訪問看護の利益を削る「人材紹介手数料」と、経営者の打開策|手数料は理論年収の2〜3割、業界全体で年1,139億円

Summary
看護師を一人採用するのに、80万円から125万円。訪問看護の経営者にとって、人材紹介会社に支払う手数料は、それほど重い負担になっています。人手が足りず、紹介会社を頼らざるをえない一方で、その手数料が、報酬で運営する事業所の利益を、静かに削っていきます。国も適正化に動き始めました。人材紹介手数料の問題の実態と、経営者が取るべき打開策を、宮木が論じます。
看護師を一人採用するのに、80万円から125万円。訪問看護の経営者にとって、人材紹介会社に支払う手数料は、それほど重い負担になっている。
人手が足りず、人員の基準を守るために、紹介会社を頼らざるをえない。けれど、その手数料が、報酬で運営する事業所の経営を、静かに、しかし確実に削っていく。この問題に、国も、ようやく適正化の動きを見せ始めた。
今回は、訪問看護の採用を巡る、人材紹介手数料の問題と、経営者が取るべき打開策を論じたい。採用難のいまだからこそ、この負担と、正面から向き合う必要がある。
手数料は、理論年収の2割超 ──「一人100万円」の現実
まず、金額の実態を確認する。看護師を人材紹介会社を通じて採用する場合、手数料は、その人の理論年収の20%から25%前後が、一つの目安とされる。
具体的な数字にしてみよう。年収400万円の看護師なら、手数料は80万〜100万円。年収500万円なら、100万〜125万円。一人採用するごとに、これだけの費用がかかる計算だ。介護職を採用する場合も、おおむね同程度の料率になる。
数人を採用すれば、あっという間に数百万円に達する。利益の薄い、小規模な訪問看護ステーションにとって、決して軽視できない金額だ。
なぜ、これほど経営に効くのか
一般の企業であれば、採用にかかったコストは、商品やサービスの価格に、ある程度は転嫁できる。しかし、訪問看護は、そうはいかない。
訪問看護の収入は、公定価格である報酬で決まっています。手数料がいくら高くても、それをサービスの価格に上乗せすることは、できません。つまり、紹介手数料は、価格転嫁のきかない、純粋な固定の負担として、利益を直接圧迫します。以前の記事で見たとおり、訪問看護の利益率は、もともと薄い。そこに、一人あたり100万円規模の負担が、重くのしかかります。
規模の面でも、事態は深刻だ。厚生労働省の報告をもとに集計すると、医師、看護、介護の三分野だけで、人材紹介の手数料の総額は、年におよそ1,139億円に達する。10年前と比べて、およそ2.4倍だ。人材紹介への支払いは、業界全体で、大きく膨れ上がっている。
手数料だけではない、二つの落とし穴
この問題には、手数料の高さのほかにも、注意すべき点がある。二つ挙げておきたい。
一つ目が、早期離職と、返金を巡る問題だ。紹介で採用した人が、早い時期に辞めてしまうことがある。返金の条項があっても、全額が戻るとは限らない。しかも、辞められれば、求人を出し直し、面接をやり直すことになる。その間、既存のスタッフに負担がかかり、現場は混乱する。実質的な損失は、請求書に記された金額より、はるかに大きいのだ。
二つ目が、定着につながりにくい、という構造的な問題だ。かつては、いわゆる「お祝い金」を渡して、転職を繰り返し勧める、といった行為も問題になった。頻繁な転職を促すビジネスの仕組みは、事業所が人材を定着させたいという願いとは、根本的に相容れない。紹介会社に頼るだけでは、採っては辞められ、また採る、という悪循環に、陥りかねません。
国も、適正化に動き出した
こうした問題に対して、国や業界も、本格的に動き始めている。


