訪問看護の サテライト、 距離の 上限は 本体から 20〜30分—— 「人員は 合算で よい」とは 限らない | 移動が 長い 地域ほど 置きに くいと いう 矛盾

Summary
サテライトは、新たな指定を受けずに訪問看護の拠点を増やせる仕組みです。本体と一体で運営する出張所で、人員基準は本体と合わせて満たせばよい、と説明されることが多くあります。ただし自治体の運用を見ると、合算を認める東京都に対し、和歌山県は本体単独で基準を満たすことを求めています。距離の上限も20〜30分程度に設定されています。移動の長さを解消したい地域ほど、この距離の条件に引っかかります。
目次8項目
前回の記事で、看護職員1人あたりの月間訪問回数が、都市部の1〜3級地で91〜122回、地方では66回台にとどまることを書きました。理由の大半は移動です。
移動を減らす手段の一つに、サテライトがあります。
訪問看護ステーションの指定は、原則としてサービス提供の拠点ごとに行われます。サテライトはその例外で、地域の実情を踏まえ、すでに指定を受けた事業所の出張所として拠点を置くことが認められています。新たな指定申請は要りません。本体の事業所の一部として届け出ます。
拡大の手段として、よく使われる仕組みです。ただ、自治体の運用まで見ると、一般に説明されているほど単純ではありません。
五つの要件
厚生労働省の通知「訪問看護事業所の出張所(いわゆる「サテライト」)の設置について」は、サテライトが本体と一体であるための要件を示しています。
利用申込みの調整、サービス提供状況の把握、職員への技術指導が一体的に行われること。職員の勤務体制と勤務内容が一元的に管理され、必要なときに本体や他の出張所との間で相互支援ができること。例として、出張所の職員が急病で訪問できなくなったとき、本体から急いで代わりの職員を派遣できる体制が挙げられています。
苦情処理や損害賠償に一体的に対応できること。事業の目的、運営方針、営業日、営業時間、利用料を定めた運営規程が同じであること。人事、給与、福利厚生といった職員管理が一元的に行われていること。
要するに、場所は分かれていても、組織としては一つであることが求められます。
人員を合算できるかは、自治体次第
サテライトの利点としてよく挙げられるのが、人員基準です。看護職員を常勤換算で2.5人以上という基準を、本体とサテライトを合わせて満たせばよい。新しい事業所を立ち上げるより早く拠点を増やせる、という説明です。
東京都の基準は、実際にそうなっています。主たる事業所とその出張所全体で、看護職員の常勤換算の合計が2.5以上であること。出張所で働いた時間も、常勤換算の計算に含めます。
和歌山県は違います。主たる事業所単独で指定訪問看護ステーションの人員基準を満たしたうえで、サテライトに職員を配置すること、としています。本体だけで2.5人を確保し、そのうえでサテライトにも人を置く。合算は認めていません。
同じ「サテライト」でも、東京都なら本体とサテライトで合わせて2.5人いればよく、和歌山県なら本体に2.5人、サテライトにさらに上乗せが必要になります。拡大の手軽さが、自治体によってまったく違います。
国の通知が示すのは一体性の要件であり、人員の数え方や距離といった具体的な運用は、各都道府県が定めています。設置を考えるなら、最初に確認すべきは自事業所の指定権者の基準です。
距離の上限は20〜30分
もう一つの条件が、本体とサテライトの距離です。
埼玉県は、本体から15キロメートルの範囲内で、自動車で30分以内に到達できることとしています。到達時間の計算に高速道路は使いません。さらに、サテライトは1つの本体に対して1か所までです。
和歌山県は、通常の交通手段で概ね30分以内を目安としています。宮城県は、自動車などで概ね20分以内の近距離としています。
各県が距離を定めているのは、相互支援のためです。出張所の職員が急に休んだとき、本体から代わりの職員が駆けつけられる範囲でなければ、一体の事業所とは言えません。
最も遠い利用者まで、平均29.8分
この距離を、日本看護協会の実態調査と並べてみます。
事業所から最も時間がかかる利用者宅までの移動時間は、平均29.8分でした。距離は片道で平均14.1キロメートルです。
サテライトを置ける範囲は、本体から20〜30分。そして平均的な事業所の最も遠い利用者も、本体から30分前後のところにいます。つまりサテライトは、今の訪問エリアの外縁あたりに置く拠点になります。
その位置にサテライトがあれば、エリアの反対側にいる利用者への移動は大きく縮まります。本体から30分かかっていた家が、サテライトからなら10分で着く、ということが起こりえます。訪問エリアを二つに割り、それぞれの中心から回る形です。移動時間が長い地域ほど、この効果は大きくなります。
ただ、ここに矛盾があります。
本当に遠い地域には、置きにくい
移動が最も重い負担になっているのは、本体から30分より遠くにも利用者がいる地域です。中山間地域、離島、山あいの集落。実態調査では、最も遠い利用者まで60分以上かかる事業所が5.3%ありました。
そうした地域こそ拠点が必要ですが、距離の上限は20〜30分です。
各県もこの点は認識していて、例外を設けています。和歌山県は、設置しようとする場所が山村振興法で指定する振興山村で、30分の基準によりがたい場合は、個別に協議するとしています。宮城県は、サテライトが中山間地域等にある場合、本体との相互支援が可能と一般的に考えられる範囲、原則として通常の事業の実施地域や本体の所在する市町村に隣接する市町村であれば、個別に判断するとしています。
例外はあります。ただし個別協議です。基準を満たせば置けるのではなく、協議して認められれば置ける。移動が長い地域の事業所ほど、サテライトの設置には時間と手間がかかる構造になっています。
管理者が二つの拠点を見る
サテライトには、人と距離のほかにもう一つの負担があります。管理です。
サテライトに別の管理者は置きません。本体の管理者が、両方の拠点を一元的に管理します。東京都は、管理者が定期的に出張所を訪問し、要件を満たすよう管理を徹底することを求めています。和歌山県は、本体とサテライトの利用者情報の伝達や職員の技術指導を目的とした会議を定期的に開き、その概要を記録することを求めています。
前回の記事で、看護職員3.5人から4人の事業所で最も赤字が多いことを取り上げました。管理者が訪問に出られる件数は人数が増えても変わらず、1人あたりの訪問回数を下げる要因になる、という話です。
サテライトを置けば、管理者の仕事はさらに増えます。二つの拠点の勤務を組み、二つの場所で起きることを把握し、定期的に会議を開いて記録を残す。拠点が増えても管理者は1人です。管理者自身が訪問の中心を担っている小さな事業所では、サテライトを置いた途端に管理が回らなくなる可能性があります。
単独の事業所を増やす場合との違い
比較のために、別の指定を受けて単独の事業所を増やす場合を考えます。
単独の事業所なら、新たに指定申請が要り、その事業所にも管理者を置き、看護職員を常勤換算で2.5人以上そろえます。時間も人もかかります。その代わり、それぞれの事業所が独立して回るため、一方で欠員が出ても他方に直接は響きません。
サテライトは、指定申請が要らず、管理者も1人で済みます。自治体が合算を認めていれば、人員の確保も軽くなります。その代わり、運営規程も職員管理も一つで、本体とサテライトは一蓮托生です。本体で管理者が辞めれば、サテライトも一緒に止まります。
当メディアで扱ってきたとおり、訪問看護ステーションの廃止理由の第2位は管理職の退職でした。サテライトは、拠点を増やしながら、管理者1人への依存を強める仕組みでもあります。
設置を考える前に確認すること
サテライトが向いているかどうかは、三つの点で判断できます。
第一に、自事業所の指定権者の基準です。人員を本体と合算できるか、本体単独で満たす必要があるか。距離の上限は何分か、何キロか。設置できる数に制限はあるか。中山間地域の例外はあるか。これによって、サテライトが近道になるか、遠回りになるかが決まります。
第二に、移動がどれだけ減るかです。サテライトを置く予定の場所の周辺に、いま本体から遠くまで通っている利用者がどれだけいるか。その利用者への移動時間が、サテライトからならどれだけ縮むか。訪問エリアの地図に利用者を落とせば、見当がつきます。
第三に、管理者が二つの拠点を見られるかです。管理者が訪問にどれだけ出ているか。事務を誰が担っているか。サテライトの職員が急に休んだとき、本体から誰が行けるか。管理の余力がないまま拠点を増やせば、前回の記事で扱った規模の問題を、そのまま二つの拠点に広げることになります。
サテライトは、訪問エリアを広げ、移動を減らすための道具です。ただし、自治体の基準によって使い勝手が大きく変わり、移動が最も長い地域ほど置きにくく、管理者への依存を強めます。拡大の近道かどうかは、事業所のある場所と、管理者の余力で決まります。
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執筆者
医療・看護・介護の多職種チーム
訪問看護・在宅医療の現場に携わる多職種チーム
HokanPress編集部は、訪問看護・在宅医療の現場に実際に携わる多職種チームで構成されています。看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)が所属。それぞれの専門分野で培った臨床経験と専門知識をもとに、医療・看護・介護従事者の実務に役立つ情報を発信しています。記事は必ず該当分野の有資格者が執筆または監修し、公的統計データや学会発表・厚生労働省の公表資料など、信頼性の高い情報源に基づいて作成しています。
保有資格: 看護師 / 理学療法士 / 作業療法士 / 言語聴覚士 / 医療ソーシャルワーカー / 管理栄養士 / 介護支援専門員
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


