介護保険で訪問看護を使うとき、どの事業所に頼むかは、ケアマネジャー(介護支援専門員)と利用者が作るケアプランの中で決まります。ケアマネは、好きな事業所を自由に選んでいるわけではありません。運営基準(国が定める事業の運営のルール)に、選び方と、してはならないことが書かれています。
一方で、選ばれる側の訪問看護ステーションは増え続け、選ぶ側の居宅介護支援事業所(ケアマネが所属する事業所)は減っています。国の統計では、居宅介護支援事業所100か所あたりの訪問看護ステーションは、2022年の38.5か所から2024年の48.4か所に増えました。
この記事では、訪問看護の経営者・管理者が知っておきたい「選ばれる仕組み」を、条文と数字でまとめます。営業のやり方は扱いません。
要介護の人が訪問看護を使う場合、原則として介護保険の訪問看護になります。このとき訪問看護は、ケアマネが作るケアプラン(居宅サービス計画)に位置付けられ、訪問看護ステーションは主治の医師から指示を文書で受けて訪問します(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第69条)。
ケアマネの側にも、医療に関わる決まりがあります。利用者が訪問看護などの医療サービスを希望している場合などには、利用者の同意を得て、主治の医師等の意見を求めなければなりません(指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準 第13条第19号)。
ただし、要介護の人でも、医療保険の訪問看護になる場合があります。特別訪問看護指示書による訪問看護、厚生労働大臣が定める疾病等(いわゆる別表第七)の人への訪問看護、精神科訪問看護基本療養費が算定される訪問看護です(訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等 第四の一)。病院からの退院に合わせて始まる依頼の流れは、退院支援室と訪問看護で取り上げています。
居宅介護支援の運営基準には、事業所の選び方に関わる決まりが、主に次の4つあります。
| ルール | 中身 | 条文 |
|---|---|---|
| 公正中立 | 利用者の立場に立ち、サービスが特定の種類や特定の事業者に不当に偏らないよう、公正中立に行う | 第1条の2 第3項 |
| 地域の事業所の情報を出す | ケアプランを作り始めるとき、利用者が選べるよう、地域の事業所のサービスの内容や利用料などの情報を、利用者や家族に適正に提供する | 第13条 第5号 |
| 複数の紹介を求められると説明する | 利用者は複数の事業所の紹介を求めることができる、と最初に説明し、理解を得る | 第4条 第2項 |
| 特定の事業所を指示しない | ケアマネは利用者に、特定の事業所を使うよう指示してはならない。事業所の管理者も、ケアマネに特定の事業所を位置付けるよう指示してはならない | 第25条 第1項・第2項 |
(条文はすべて「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」)
この4つを並べると、ケアマネの役割の形が見えます。事業所を最後に選ぶのは利用者で、ケアマネはその選択に必要な情報を出し、偏りなく支える立場です。ケアマネが利用者に示す「地域の事業所の情報」に、自分の事業所のサービスの内容が正しく入っているかどうかは、選ばれる側にとって無関係ではありません。
ケアプランが特定の事業所に偏っていないかを見る仕組みは、2つあります。どちらも、対象のサービスが決まっています。
| 仕組み | 中身 | 対象のサービス |
|---|---|---|
| 割合の説明(努力義務) | 前6か月のケアプランのうち、そのサービスを入れた割合と、同じ事業者が提供した割合を、利用者に説明するよう努める(居宅介護支援の運営基準 第4条第3項) | 訪問介護・通所介護・福祉用具貸与・地域密着型通所介護 |
| 特定事業所集中減算 | 前6か月のケアプランで、同じ事業者が提供した割合が正当な理由なく80%を超えると、居宅介護支援費が減算される(厚生労働大臣が定める基準 第83号) | 訪問介護・通所介護・福祉用具貸与・地域密着型通所介護 |
訪問看護は、どちらの対象にも入っていません。制度の上では、ケアマネが同じ訪問看護ステーションに頼み続けても、割合の説明や減算の対象にはなりません。依頼先が固まりやすい構造については、ケアマネジャーと訪問看護——「選ばれる側」に立つ構造で詳しく取り上げています。
紹介の見返りについては、ケアマネの側と訪問看護の側の両方に、禁止の規定があります。
| 誰が | 何が禁止か | 条文 |
|---|---|---|
| 居宅介護支援事業者とその従業者 | 特定の事業者のサービスを利用させる見返りとして、その事業者から金品その他の財産上の利益を受け取ること | 居宅介護支援の運営基準 第25条第3項 |
| 訪問看護事業者(介護保険) | 居宅介護支援事業者やその従業者に、特定の事業者のサービスを利用させる見返りとして、金品その他の財産上の利益を渡すこと | 居宅サービスの運営基準 第35条(訪問介護の規定を第74条で訪問看護に準用) |
| 訪問看護事業者(医療保険) | 他の事業者やその従業員に、利用者を紹介する対価として金品を渡すことなどで、自分の事業所に誘引すること | 指定訪問看護の運営基準 第5条の4第2項(令和8年の省令改正で追加) |
介護保険の訪問看護では、ケアマネへの見返りは以前から禁止されていました。医療保険の側では、令和8年の改正で、紹介の対価による誘引の禁止が新たに書き込まれています。あわせて、特定の医師や事業者を利用するよう指示する見返りに利益を受け取ることも禁止されました(同 第5条の5)。改正の中身は、訪問看護の「利用者誘引規制」と紹介の対価に、金品を渡してはならないで詳しく解説しています。
国の統計(介護サービス施設・事業所調査)で、訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所の数を並べます。各年10月1日に活動していた事業所の数です。
| 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|
| 訪問看護ステーション | 14,829か所 | 16,423か所 | 18,042か所 |
| 居宅介護支援事業所 | 38,538か所 | 37,784か所 | 37,258か所 |
| 居宅介護支援100か所あたりの訪問看護ステーション | 38.5か所 | 43.5か所 | 48.4か所 |
2年で、訪問看護ステーションは3,213か所増え、居宅介護支援事業所は1,280か所減りました。居宅介護支援事業所1か所から見た訪問看護ステーションの数は、2年で約1.26倍になっています。
より新しい時点は、厚生労働省「介護サービス情報公表システム」のオープンデータで見られます。HokanPress が、掲載されている事業所の数を数えました。
| 2024年12月末 | 2025年12月末 | 2026年6月末 | |
|---|---|---|---|
| 訪問看護ステーション | 15,268か所 | 16,977か所 | 17,464か所 |
| 居宅介護支援事業所 | 36,488か所 | 36,491か所 | 36,212か所 |
2025年12月末から2026年6月末までの半年で、訪問看護ステーションは差し引き487か所増えました(新たに載った1,134か所、掲載が消えた647か所)。同じ半年で、居宅介護支援事業所は差し引き279か所減りました(新たに載った825か所、掲載が消えた1,104か所)。
公表システムの数は、国の統計より少なくなります。公表の対象にならない事業所があるためとみられます。訪問看護の増減の内訳(営利法人の割合など)は、訪問看護の新しい事業所、9割は営利法人に、都道府県ごとの数は都道府県別の訪問看護ステーション数にまとめています。
ここまでの条文と数字から、編集部は次のように読んでいます(数字そのものではなく、解釈です)。
紹介元に「何ができる事業所なのか」を伝えることがなぜ欠かせないのかは、「良い看護をしていれば利用者は集まる」は、最も危険な誤解だで論じています。
ケアマネや退院支援の担当者など、紹介元との連絡を記録しておく表は、ケアマネ・紹介元 営業先リスト(無料Excel)として配布しています。
Q. 訪問看護は、特定事業所集中減算の対象ですか。
いいえ。特定事業所集中減算の対象は、訪問介護・通所介護・福祉用具貸与・地域密着型通所介護の4つです(厚生労働大臣が定める基準 第83号)。訪問看護は入っていません。
Q. ケアマネは、利用者に訪問看護の事業所を複数示さなければならないのですか。
運営基準が求めているのは、利用者が複数の事業所の紹介を求めることができると説明すること(第4条第2項)と、地域の事業所の情報を利用者に適正に提供すること(第13条第5号)です。
Q. 紹介してくれたケアマネに、お礼の品を渡してもよいですか。
介護保険の訪問看護では、特定の事業者のサービスを利用させる見返りとして、居宅介護支援事業者やその従業者に金品その他の財産上の利益を渡すことが禁止されています(居宅サービスの運営基準 第35条を第74条で準用)。医療保険でも、紹介の対価として金品を渡して誘引することが禁止されました(指定訪問看護の運営基準 第5条の4)。個別の判断に迷う場合は、指定を受けている都道府県・市町村や地方厚生局に確認してください。