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ICTを入れても、使う人が育っていない——国が無料で養成する「デジタル中核人材」とは|訪問看護師も対象、9月開始、補助金の要件にもなる研修の中身

2026年8月16日(更新: 2026年8月16日)·約5分で読めます
ICTを入れても、使う人が育っていない——国が無料で養成する「デジタル中核人材」とは|訪問看護師も対象、9月開始、補助金の要件にもなる研修の中身

Summary

記録ソフト、電子カルテ、データ連携システム。訪問看護のデジタル化を支える道具は、この数年で一気に揃ってきました。それなのに「導入したが使われない」という声が現場から絶えません。失敗の本質は機器ではなく、推進する人の不在にあります。厚生労働省が無料で実施する「デジタル中核人材養成研修」は、その推進役を育てる仕組みです。訪問看護師も対象で、2026年9月から始まります。研修の中身と、事業所としての活かし方を整理します。

記録のソフト、電子カルテ、ケアプランのデータ連携。訪問看護のデジタル化を支える道具は、この数年で一気に揃ってきました。当メディアでも、記録の効率化や電子カルテの義務化、ICTを評価する新しい加算を、繰り返しお伝えしてきたとおりです。

それなのに、現場からはこんな声が絶えません。「システムを入れたのに、結局使われていない」「一部の人しか操作できず、かえって仕事が増えた」。

失敗の本質は、機器ではありません。導入を現場で進める「人」の不在です。厚生労働省は7月31日、その推進役を育てる「デジタル中核人材養成研修」の受講勧奨を通知しました。全国訪問看護事業協会も案内を出しています。無料で、訪問看護師も対象です。研修の中身と、事業所としての活かし方を整理してお届けします。

デジタル中核人材とは、何者か

デジタル中核人材とは、介護テクノロジーの導入や活用を含む業務の変革を通じて、現場の業務効率化とケアの質の向上を実現する人材を指します。厚生労働省が手引きで定義し、養成を進めている存在です。

ポイントは、いわゆる「パソコンに詳しい人」ではないという点にあります。国が示す人材像の中心は、現場と制度の基礎的な理解、テクノロジーとその費用への理解、そして組織を動かす力です。修了者は名簿に登録され、デジタル庁のダッシュボードでは都道府県ごとの養成状況も公開されます。国は、機器の補助と並ぶもう一つの柱として、人の養成を本気で進め始めています。

研修で学ぶのは、ITスキルではない

研修のカリキュラムを見ると、その狙いがよく分かります。習得を目指すのは、三つのスキルです。

一つ目が、課題解決のスキル。現場の課題を捉え、解決への道筋を描き、計画に落とし込む力です。

二つ目が、ファシリテーションとリーダーシップ。チームをまとめ、心理的安全性の高い環境をつくり、変革への合意形成を図る力です。

三つ目が、プロセスマネジメント。取り組みの進捗を管理し、PDCAを回して成果を分析する力です。

お気づきでしょうか。三つとも、ITの技術ではありません。求められているのは、現場の課題を整理し、職員を巻き込んで業務改善を指揮するリーダーシップです。「業者に言われるがまま機器を導入し、現場が混乱する」。そんな失敗を繰り返さないための、組織を動かす技術こそが研修の中身なのです。

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訪問看護師も対象 ── 要件はシンプル

対象の要件は、シンプルです。介護サービス施設・事業所等での勤務経験が3年以上あること。そして、勤務先で業務改善や介護テクノロジーの導入・活用を推進する意向があること。この二つを満たせば応募できます。

職種や役職は問われません。介護職だけでなく、看護職、リハビリテーション専門職、相談職、事務職、管理職、法人本部の職員まで、幅広く対象と明記されています。介護保険の訪問看護に携わる看護師も、当然その中に含まれます。

令和8年度の研修は、2026年9月から2027年1月にかけて実施されます。全国向けが9セット(うち1セットは短縮版)、地域向けが1セットの計10セット。すべてオンラインで、費用は無料です。前年度は応募者が多く、急きょ増設された経緯もあります。関心があるなら、早めの応募をおすすめします。

補助金の「要件」になり始めている

経営の視点で、見逃せない動きがあります。この研修の受講が、補助金の要件に組み込まれ始めているのです。

厚生労働省の令和8年度概算要求では、介護テクノロジーの大型の設備導入補助金(パッケージ型)の要件として、この研修の受講が明記されました。機器の補助を受けたければ、まず人を育てよ。国の姿勢は、はっきりしています。

以前の記事で、ICT導入を支える補助の数々をお伝えしました。その入口に、これからは「推進役の存在」が置かれていきます。無料の研修を受けておくことが、将来の設備投資の選択肢を広げる。受講はもはや自己研鑽ではなく、事業所の投資と考えるべき段階に来ています。

なぜ「人」が、DXの成否を分けるのか

ここで、そもそもの話に立ち返ります。なぜ機器ではなく、人が成否を分けるのでしょうか。

デジタル化は、道具の入れ替えではなく、仕事のやり方の変更だからです。記録の書き方が変わり、情報の流れが変わり、長年の習慣が変わる。人は、慣れたやり方を変えることに抵抗を感じるものです。その抵抗に向き合い、不安を聞き、小さな成功を積んで納得を広げていく。この人間くさい仕事を担う人がいなければ、どれほど優れたシステムも定着しません。

以前の記事で、事業所の運営が管理者一人に集中する構造をお伝えしました。デジタル化の推進まで管理者が抱え込めば、確実に潰れます。だからこそ、管理者とは別に推進役を育てる意味があります。役職を問わないこの研修の設計は、若手や事務職にその役割を託す道を開いています。

事業所として、どう活かすか

最後に、活かし方を整理します。

まず、誰を送り出すかです。機器に詳しい人より、現場の信頼が厚く、人を巻き込める人が向いています。研修の中身がリーダーシップと合意形成である以上、その素地のある人にこそ投資価値があります。意欲のある若手にとっては、キャリアの節目にもなるでしょう。

次に、一人にしないことです。可能なら複数名の受講や、受講者を支える体制を整えたい。推進役が孤立すれば、抱え込みの構造が場所を変えて再現されるだけです。

そして、学びを仕組みに変えることです。受講者が持ち帰った課題整理やPDCAの手法を、その事業所の業務改善の型として根づかせる。研修は入口であり、成果は日々の運用の中で生まれます。

道具は揃いました。加算も補助も整いつつあります。残る問いは、それを現場で動かす人を育てているか、です。無料で受けられる国の研修は、その最初の一歩として十分に価値があります。9月の開始を前に、自分たちの事業所から誰を送り出すか。この夏のうちに、考えてみてはいかがでしょうか。

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執筆者

HokanPress編集部

医療・看護・介護の多職種チーム

訪問看護・在宅医療の現場に携わる多職種チーム

HokanPress編集部は、訪問看護・在宅医療の現場に実際に携わる多職種チームで構成されています。看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)が所属。それぞれの専門分野で培った臨床経験と専門知識をもとに、医療・看護・介護従事者の実務に役立つ情報を発信しています。記事は必ず該当分野の有資格者が執筆または監修し、公的統計データや学会発表・厚生労働省の公表資料など、信頼性の高い情報源に基づいて作成しています。

保有資格: 看護師 / 理学療法士 / 作業療法士 / 言語聴覚士 / 医療ソーシャルワーカー / 管理栄養士 / 介護支援専門員

※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています

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