医師の往診を待たずに、看護師が動ける——特定行為研修が変える訪問看護の未来|手順書のもとで38行為を担う高度人材、修了者はまだ約6,875人、育成は経営の分かれ道に

Summary
訪問看護の現場では、医師の往診を待つあいだに、利用者の状態が悪化し、入院に至ることがあります。この「医師を待つ時間」を越える制度が、特定行為研修です。手順書に基づいて、看護師が一定の医療行為を、医師の個別の指示を待たずに行える。訪問看護の高度化の切り札になりうる仕組みです。制度の中身、訪問看護での意義、担い手不足の現実、そして経営者が向き合うべき選択を論じます。
訪問看護の現場には、こんな場面がある。
利用者が脱水を起こした。本来なら点滴が必要だが、看護師の判断だけでは、それを行えない。そこで、医師に連絡し、指示を仰ぎ、往診を待つ。しかし、その待っているあいだに、状態がさらに悪化する。あるいは、そのまま入院になってしまう。
この「医師を待つ時間」が、在宅医療の即応性を、しばしば損なってきました。医師がその場にいない在宅では、避けにくい構造的な問題です。この壁を越えるための制度が、特定行為研修です。手順書に基づいて、看護師が一定の医療行為を、医師の個別の指示を待たずに行える。訪問看護の高度化の、切り札になりうる仕組みだ。今回は、この特定行為研修を修了した看護師と、訪問看護の未来について論じたい。
特定行為研修とは何か
まず、制度の基本を押さえておく。特定行為研修は、2015年10月に始まった、看護師のための研修制度である。保健師助産師看護師法に基づいて創設されました。
その核心は、「手順書」にある。医師があらかじめ作成した手順書、いわばプロトコルに基づいて、看護師が診療の補助である特定行為を、医師の個別の指示を待たずに実施できるようにする。これが、この制度の骨格だ。特定行為は、21の区分に分かれた、38の行為が定められている。看護師は、自らが研修を修了した区分に限って、その行為を行えます。研修は、すべての区分に共通する科目が250時間、これに区分ごとの科目が加わる構成になっている。
ここで、誤解のないように強調しておきたい。これは、看護師が独断で医療行為を行うものではない。あくまで、医師があらかじめ手順書で定めた範囲の中で、患者の状態が条件に合致した場合に、実施するものだ。医師の包括的な指示のもとにある、という点が、制度の前提である。
なぜ、訪問看護で意義が大きいのか
この制度が最も生きる場は、訪問看護だと、私は考える。理由は明確だ。在宅では、医師がその場にいないからである。
病院であれば、医師がすぐそばにいて、その場で指示を出せる。しかし在宅では、そうはいかない。医師の往診を待つしかなく、その時間差が、対応の遅れを生み、状態の悪化を招き、ときに入院につながる。冒頭に挙げた脱水の例は、その典型だ。
ここに、特定行為研修を修了した看護師がいれば、状況は変わる。手順書に基づいて、その場で対応できるのだ。医師の往診を待つことなく、タイムリーに。
具体的に、訪問看護で活用が期待される行為を挙げてみよう。脱水時の点滴、すなわち輸液の実施。褥瘡の壊死した組織を取り除く処置。胃ろうや膀胱ろうのカテーテルの交換。気管カニューレの交換。インスリンの投与量の調整。こうした行為を、条件が合えば、看護師がその場で行える。
これがもたらす意味は、大きい。利用者にとっては、苦痛の軽減と、入院の回避につながる。医師にとっては、業務の負担の軽減、いわゆるタスクシフトになる。そして事業所にとっては、対応力の向上と、他との差別化になる。三者すべてにとって、意義のある仕組みなのだ。
医師の働き方改革が、追い風になる
この制度が、いま改めて注目されている背景には、もう一つ、医師の働き方改革がある。


