収支差率10%でも潰れる——訪問看護を黒字で続ける「数字で経営する」技術|稼働率・人件費率・加算算定率を管理し、スタッフと共有する

Summary
訪問看護の収支差率は、令和6年度で10.3%と、介護サービスのなかでも高い水準にあります。数字だけを見れば経営は容易に見えますが、現実には廃止や休止に至る事業所が後を絶ちません。収益性が高くても、経営が続くとは限らない。その分かれ目にあるのが「数字で経営できているか」です。稼働率、人件費率、加算算定率。看護師出身の経営者が避けがちな数字と向き合い、黒字で事業を続ける技術を、宮木が論じます。
訪問看護の収支差率は、令和6年度で10.3%と、介護サービスのなかでも高い水準にある。数字だけを見れば、経営は容易に思えるかもしれない。
だが、現実には、廃止や休止に追い込まれる事業所が、後を絶たない。収益性が高いことと、経営が続くことは、別の話なのだ。その分かれ目にあるのが、「数字で経営できているか」という一点だ。
看護師出身の経営者ほど、数字を苦手とし、遠ざけがちだ。しかし、稼働率や人件費率といった数字を把握し、管理することなしに、健全な経営は成り立たない。今回は、訪問看護を黒字で続けるための、数字による経営を論じたい。
「看護に数字はいらない」という思い込みが、経営を蝕む
まず、向き合うべき前提がある。訪問看護の経営者の多くは、看護師だ。以前の記事でも述べたとおり、看護のプロが、経営の訓練を受けないまま、経営者になる。
そのなかで、しばしば見られるのが、「看護に数字は必要ない」という思い込みだ。数字を、冷たいもの、看護になじまないものとして、遠ざけてしまう。
だが、数字を避けることは、経営を目隠しで運転するようなものだ。人件費率、訪問件数、加算の算定率、稼働率。これらの数字を把握し、スタッフとも共有できること。それが、健全な経営の、最低限の土台になる。数字は、看護と対立しない。むしろ、良い看護を続けるための、羅針盤だ。
収益の土台 ──「稼働率」を見る
訪問看護の経営で、最も重要な数字の一つが、稼働率だ。
稼働率とは、簡単に言えば、看護師が、その勤務時間のなかで、どれだけ訪問に充てられているか、という割合を指す。訪問看護の収入は、訪問した件数で決まる。だから、一人の看護師が、一日に、そして一月に、何件訪問できているかが、収益を直接左右する。
目安として、看護師一人あたり、常勤換算で月に70件から80件の訪問が、一つの水準とされる。自事業所が、この数字を満たせているか。満たせていないなら、なぜ満たせないのか。そこを、感覚ではなく、数字で把握する。
稼働率を下げる要因は、いくつもある。移動時間の長さ、訪問のキャンセル、記録や事務にかかる時間、そして、そもそも利用者が少ないこと。要因の一つひとつを、数字で見て、手を打っていく。
稼働率を下げる「三つの穴」
稼働率を蝕む、代表的な三つの穴を挙げておきたい。
一つ目が、移動時間だ。訪問先が広く散らばっていれば、移動だけで時間が消えていく。訪問のルートを工夫し、近いエリアの利用者をまとめて回る。対応する地域を絞る。以前の記事で述べた、都心と地方で移動の負担が違うという話も、ここに関わってくる。
二つ目が、キャンセルだ。利用者の急な体調不良や入院で、訪問がキャンセルになることがある。空いた枠を埋められなければ、その時間は、一円も収入を生まない。キャンセルの発生を記録し、傾向を把握して、代わりの訪問を組めるようにしておく。
三つ目が、記録と事務の時間だ。訪問以外の作業に時間を取られれば、その分、訪問に充てられる時間が減る。以前の記事で述べたICTの活用が、ここで効いてくる。記録を効率化し、そこで生まれた時間を、訪問と看護に戻していく。


