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看護師が足りないのは、実は都市部——人口比2.1倍の地域格差が、在宅医療のアクセスを左右する|最多の高知と最少の埼玉で2.1倍、「地方が不足」の常識を覆すデータ

宮木 · 2026年8月2日
「地方は看護師が足りない」。多くの人がそう思っています。けれど、データは少し違う姿を映します。人口あたりの看護師数が最も多いのは高知県、最も少ないのは埼玉県。その差は2.1倍で、人口比で多いのは、意外にも地方でした。この看護師の地域偏在は、訪問看護と、地域で暮らす人が受けられる在宅医療に、深く影響します。偏在の実像と、経営への影響を、宮木がデータから読み解きます。

「地方は看護師が足りない」。多くの人が、そう思っている。だが、データは、少し違う姿を映し出す。

人口あたりの看護師数を見ると、最も多いのは高知県、最も少ないのは埼玉県。その差は、2.1倍にのぼる。そして意外なことに、人口比で看護師が多いのは、都市部ではなく、地方なのだ。

この看護師の地域偏在は、訪問看護に、そして、地域で暮らす人が受けられる在宅医療に、静かに、しかし深く影響している。本稿では、この偏在の実像を、データから読み解いていきたい。数字は、私たちの思い込みを、しばしば裏切る。

データが示す、看護師の地域偏在

まず、事実を確認する。2024年末の衛生行政報告例によれば、人口10万人あたりの就業看護師数は、最も多い高知県で1757.8人、最も少ない埼玉県で827.0人だった。その差は、およそ2.1倍にのぼる。

多い地域を見ていくと、高知県に続いて、鹿児島県が1575.9人、長崎県が1528.0人。一方、少ない地域は、埼玉県に続いて、神奈川県が836.7人、千葉県が837.0人となっている。

ここに、一つの、意外な傾向が見て取れる。人口比で看護師が多いのは、高知や鹿児島、長崎といった、地方なのだ。逆に少ないのは、埼玉や千葉、神奈川といった、東京圏の都市部である。「都市が豊かで、地方が不足している」という私たちの直感とは、まったく逆の姿だ。しかも、この顔ぶれは、2年前も、4年前も、ほとんど変わっていない。偏在は、固定化しているのである。

なぜ、都市部で人口比の看護師が少ないのか

では、なぜ都市部で、人口あたりの看護師が少ないのか。理由は、分母である人口の大きさにある。

埼玉、千葉、神奈川は、人口が非常に多く、そしていま、高齢者が最も急激に増えている地域だ。看護師の絶対数そのものは、決して少なくない。実際、就業する看護師の実数で見れば、東京都が全国で最も多い。しかし、その絶対数を上回る速さで、人口が、そして高齢者が増えている。だから、人口比で割ると、看護師が薄くなってしまう。

これは、在宅医療にとって、深刻な意味を持つ。高齢者が急増する都市部で、その需要を支える看護師が、人口比では足りていない。訪問看護の需要が爆発的に増えていくのに、担い手が、その増加に追いつかない。都市部の偏在とは、この「量的な不足」の問題なのだ。

地方の偏在は、「量」ではなく「分散」の問題

一方、地方はどうか。人口比では、看護師は多い。では、地方の在宅医療は安泰なのかというと、そう単純ではない。

地方が抱える問題は、量ではなく、分散だ。人口の少ない中山間地域や過疎地では、そもそも住む人が少なく、訪問看護ステーションが経営的に成り立ちにくい。以前の記事でも取り上げたとおり、こうした地域は、訪問看護の空白地帯になりやすい。

看護師がいても、広い地域に散らばって暮らしているため、一軒の利用者を訪ねるのに、長い距離を移動しなければならない。移動の時間がかさめば、一人の看護師が一日に回れる件数は限られる。人口比の数字がいくら高くても、実際に在宅医療を届けるという点では、都市部よりかえって難しい場合すらあるのだ。

つまり、地方の偏在は、「看護師の数が少ない」という問題ではない。「担い手が広く薄く分散していて、事業として成り立たせにくく、届けにくい」という、都市部とはまったく別の形の問題なのである。

二つの異なる偏在が、在宅医療の格差を生む

ここまでを整理すると、看護師の地域偏在には、二つの異なる顔があることが分かる。

一つは、都市部の「量的な不足」。人口と高齢者の急増に、看護師の数が追いつかない。もう一つは、地方の「分散とアクセスの困難」。人口比では足りていても、事業所が成り立たず、届けにくい。

そして、この二つが合わさって、結果として、どこに住むかによって、受けられる在宅医療に差が生まれる。同じ国の中で、住む場所によって、住み慣れた家で最期まで療養できるかどうかが、変わってくる。これは、突き詰めれば、医療の公平性そのものに関わる問題だ。

国も動き出す ——「確保」から「偏在対策」へ

こうした偏在に対して、国も、ようやく目を向け始めている。

これまで、看護師をめぐる政策の中心は、「確保」だった。つまり、いかにして看護師の数を増やすか、という点に力が注がれてきた。だが、数を増やすだけでは、偏在は解消しない。新たに増えた看護師が、需要のある地域に行くとは、限らないからだ。むしろ、条件のよい都市部に集まる可能性さえある。

そこで、いま議論の俎上に載っているのが、「偏在対策」である。医療関係者からは、医師と同じように、看護師にも卒業後の一定期間の臨床研修を課し、その配置を通じて偏在を是正してはどうか、という構想も示されている。新たな地域医療構想を策定・実現していくなかでも、看護職員の適正な配置、すなわち偏在の是正に、しっかり目を向ける必要があると指摘されている。確保から、偏在対策へ。看護師をめぐる政策の焦点は、いま、移りつつある。

訪問看護事業者は、これをどう捉えるか

では、訪問看護の事業者は、この偏在を、経営の観点からどう捉えるべきか。立地によって、取るべき戦略は異なる。

都市部の事業者にとって、これは人材の獲得競争がこれからますます激しくなる、ということを意味する。需要は増えるが、人口比では看護師が薄い。だからこそ、これまで論じてきた、採用・育成・定着のマネジメントと、賃上げの原資の設計が、いっそう重要になる。ICTを活用して、少ない人手で効率を上げる工夫も、避けては通れない。

地方の事業者にとっては、広い地域を、限られた人数で、いかに効率よくカバーするかが問われる。訪問ルートの最適化、ICTの活用、そして、以前紹介した特定の地域を対象とする加算など、使える制度を最大限に活用していく必要がある。

そして、これから開業を考える人にとっては、この偏在のデータが、重要な判断材料になる。自らが事業を始めようとするエリアが、都市部の「競合過多」なのか、それとも地方の「空白地帯」なのか。それを、感覚ではなく、データで見極めること。参入の成否は、その見極めに、大きく左右される。

看護師の地域偏在は、単なる統計上の数字の話ではない。それは、この国のどこに住む人が、家で最期まで療養できるのか、という、極めて現実的な問題に、直結している。都市部の量的な不足と、地方の分散。この二つの異なる偏在が、在宅医療の地域格差を生んでいる。この構造を正確に理解し、そのうえで、自らのステーションを、どの地域で、どのように成り立たせるかを考える。偏在は、一朝一夕に解消するものではない。だからこそ、その現実から目をそらさず、データに基づいて自らの立ち位置と戦略を定めることが、これからの訪問看護経営に、強く求められている。

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