全国370事業所の 学研グループが 訪問看護に 参入—— 「エリアホスピス」は、 併設型が 締め付けられる 時代に どう 成立するか

Summary
学研ホールディングスのグループ会社で、全国370以上の介護事業所を運営するメディカル・ケア・サービスが、2026年2月に初の訪問看護ステーションを東京・大森に開いた。掲げたのは「エリアホスピス」。自宅での看取りを支え、難しくなれば近隣の自社の介護付有料老人ホームへ移ってもらい、同じ職員が最後まで関わる。高齢者住宅に訪問看護を併設するモデルへの規制が強まるなかで、大手はどんな形で入ってきたのか。
学研グループが訪問看護を始めた。
2026年2月1日、東京都大田区大森西に「愛の家みらい訪問看護ステーション大森」が開設された。運営するのはメディカル・ケア・サービス。学研ホールディングスのグループ会社で、全国に370以上の介護事業所を持つ。認知症グループホームの「愛の家」、介護付有料老人ホームの「アンサンブル」「ファミニュー」。20年以上、施設を中心に介護を手がけてきた会社にとって、初めての訪問看護である。
親会社の学研ホールディングスは東証プライム上場で、2025年9月期の売上高は1,991億円。訪問看護ステーションの多くが看護職員5人前後で運営されているこの業界に、その規模の資本が入ってきた。
1月30日の発表から8か月が経つ。この間に、訪問看護をめぐる制度は大きく動いた。いま読み直す意味がある。
「エリアホスピス」とは何か
リリースは、大森拠点を看取りに注力した旗艦モデルと位置づけている。
中心にあるのが「エリアホスピス」という考え方だ。施設ではなく、地域全体を一つの看取りの場と捉える。24時間365日の常駐体制で、夜間も休日も対応する。
もう一つが「ホスピスプラン」。自宅での暮らしが難しくなった人には、近隣にある自社の施設「ファミニュー大森南」へ移ってもらう。そして同じ職員が最後まで支え続ける。リリースはこれを、施設と在宅を融合させた新しい看取りの形だと説明している。
背景として挙げているのは、在宅での療養を希望する世帯が約7割にのぼるという厚生労働省の調査だ。多死社会を見据えた看取りの選択肢を確保する、とも書いている。
言葉だけを追うと、ここ数年で広がったホスピス型住宅によく似て見える。自宅から住まいへ移り、同じ法人の看護が入り、そこで看取る。
だが、制度の上での位置はかなり違う。
移行先が「介護付」であること
ホスピス型住宅として問題になってきたのは、多くが住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に訪問看護ステーションを併設し、入居者に医療保険の訪問看護を頻回に提供するモデルだった。当メディアで繰り返し扱ってきたとおり、2026年度改定で併設・隣接するステーションを1日単位で評価する包括型訪問看護療養費が新設され、有料紹介は禁止された。住宅型有料老人ホームには登録制が導入される。
学研系の移行先であるファミニューは、介護付有料老人ホームだ。
介護付有料老人ホームは、特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設で、介護は施設が包括的に提供する。原則として、入居者に介護保険の訪問看護を算定することはできない。訪問看護が医療保険で入れるのは、末期がんなど厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合や、特別訪問看護指示書が交付された場合などに限られる。
つまり、入居者を住まいに集めて訪問看護の件数を積み上げる、という収益の作り方はしにくい構造にある。
さらにリリースは、ファミニュー大森南を「近隣の運営施設」と書いている。併設や隣接とは書いていない。包括型訪問看護療養費の対象は、高齢者向け住まいに併設・隣接するステーションである。
規制が強まった形とは、別の場所に立っている。意図まで断定はできないが、制度上の位置から見ればそう読める。
同じ職員が「最後」までの難しさ
とはいえ、このモデルが簡単に回るわけではない。
リリースが強調するのは、自宅から施設へ移っても同じメンバーが最後まで支えるという点だ。利用者と家族にとっては、これが最大の価値になる。住む場所が変わるたびに担当が変わる、というのは在宅療養の大きな負担だからだ。
ただ、介護付有料老人ホームに移った後、訪問看護ステーションの看護師がどこまで関われるかは、先に書いた制度の制約を受ける。医療保険で入れる状態であれば訪問できる。そうでなければ、施設の看護職員と介護職員が支えることになる。
同じ職員が最後まで、という約束を実際に守るには、ステーションと施設の間で人と情報がどう行き来するかが要になる。リリースはそこまでは書いていない。
大手が入ってくる意味
学研系の参入は、単独の出来事として見るより、業界の流れの中で見たほうが分かりやすい。
日本看護協会の実態調査では、同一法人が医療・介護の施設や事業所を持つ訪問看護事業所が73.7%あり、そのうち同一敷地内または隣接する施設があるのが72.5%だった。掛け合わせると全体のおよそ半分になる。訪問看護は、すでに多くが施設を持つ法人の一部門として運営されている。
介護施設を大量に持つ事業者から見れば、訪問看護はそこに足りないピースだった。施設で看取れない人がいる。自宅で最期を迎えたい人がいる。その両方をつなぐ手段として、看護を自社で持つ。
メディカル・ケア・サービスは2025年7月にも、千葉県八千代市のグループホーム2事業所の営業権を譲り受けている。施設網を広げながら、そこに看護機能を足していく。訪問看護への参入はその延長にある。
当メディアで扱った査読論文では、看護師が自ら起業して管理者になったとき、資金、事務管理、組織づくりが困難のカテゴリとして抽出された。大手の参入組は、その三つを最初から持っている。資金があり、請求と労務の事務部門があり、採用の仕組みがある。
採用だけは別かもしれない。訪問看護ステーションの求人倍率は4.54倍で、全施設種別で最も高い。資本があっても、看護師は同じ市場から採るしかない。24時間365日の常駐体制を組むには、相応の人数が要る。
1拠点目で見るべきこと
大森は第一弾であり、今後は地域特性に合わせて展開するとリリースは書いている。
いま外から判断できることは多くない。見るべき点を挙げておく。
一つは、ステーションが施設の外の利用者をどれだけ持つかだ。エリアホスピスという名前のとおり地域全体を対象にするなら、自社施設とは関係のない在宅の利用者が相当数いるはずである。逆に、自社施設への移行を前提にした利用者ばかりであれば、看板と実態は少し違う。
もう一つは、介護保険と医療保険の比率。在宅の看取りでは末期がんの利用者が多く、医療保険の訪問看護が中心になる。介護付有料老人ホームに移った後に訪問看護が入れる範囲も、医療保険の対象に限られる。その比率は、このモデルが何に依存しているかを示す。
三つ目は、2拠点目がどこにできるかだ。自社の介護付有料老人ホームの近くを選ぶのか、施設のない地域に出るのか。それで、訪問看護を施設の付属品と見ているのか、独立した事業と見ているのかが分かる。
規制の外側から
ここ数年の制度改正は、高齢者向け住まいに訪問看護を併設して回数を積むモデルを狙ってきた。包括型訪問看護療養費、有料紹介の禁止、登録制、そして当メディアで扱った高額を理由とする個別指導。いずれもその方向を向いている。
学研系のエリアホスピスは、その標的とは違う位置から入ってきた。在宅を先に置き、施設は移行先として後ろに控える。移行先は介護付で、訪問看護が入れる範囲は制度で絞られている。
それがうまくいくかは、まだ分からない。ただ、併設型が締め付けられるなかで大手が選んだ入り方として、記録しておく価値はある。
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執筆者
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています


