2026年10月1日から、いくつかの制度が変わりました。
厚生労働省が公表した制度変更のうち、訪問看護ステーションの運営に関わるものを整理します。カスハラ対策の義務化、社会保険の適用拡大、最低賃金の改定、そして同一労働同一賃金ガイドラインの改正です。
順に見ていきます。
改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメントを防止するために必要な雇用管理上の措置が、すべての事業主に義務付けられました。あわせて、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策も義務になります。
重要なのは適用範囲です。労働者を1人でも雇用していれば対象で、企業規模、業種、法人形態による除外はありません。パワハラ防止法のときにあった中小企業向けの経過措置も、今回は設けられていません。
指針が定める措置は10項目あります。方針を明確にして労働者に周知すること。相談窓口を定めて周知し、担当者が適切に対応できるようにすること。事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者への配慮と再発防止の措置を講じること。相談者のプライバシーを保護し、相談を理由とする不利益な取扱いを禁止すること。
対処の内容の例として挙げられているものに、管理監督者に対応方針の指示を仰ぐこと、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報すること、本社・本部へ情報共有して指示を仰ぐことがあります。
訪問看護にとって、可能な限り労働者を一人で対応させないという項目は重い意味を持ちます。訪問看護は、一人で他人の家に入る仕事だからです。
当メディアで9月末に扱ったとおり、訪問介護と訪問看護には、暴力行為などが認められる場合に利用者や家族の同意を得たうえで複数名で訪問すれば算定できる加算があります。制度上の手段はあります。ただし看護職員が1事業所あたり平均5.4人という規模で、2人を同じ訪問に充てれば、その時間は他の訪問ができません。
就業規則に、外部からのハラスメントに対する措置という項目を新設する必要があるという指摘もあります。相談したことや会社の方針に従って対応を打ち切ったことを理由に、人事評価を下げたり懲戒処分を行ったりしない旨を明記するものです。
なお、カスハラを理由にサービスの提供を拒否できるかという論点は、別の議論です。当メディアで扱ったとおり、運営基準上の正当な理由の明確化は、2027年度の介護報酬改定に向けた検討課題になっています。今回施行されたのは労働法上の義務であり、利用者との契約をどうするかとは別の話です。
短時間労働者が社会保険に加入する要件のうち、月額賃金8.8万円以上、いわゆる106万円の壁が撤廃されました。
背景は最低賃金の上昇です。全都道府県で最低賃金が時給1,016円を超え、週20時間働けば自動的に賃金要件を満たす状態になったため、要件そのものが意味を失いました。
ただし、撤廃されたのは賃金要件だけです。週の所定労働時間20時間以上、雇用期間2か月超の見込み、学生でないこと、そして厚生年金保険の被保険者数51人以上の企業等に勤務していること。これらの要件は変わりません。
企業規模要件が引き下げられるのは2027年10月で、36人以上になります。以後段階的に縮小され、2035年10月に撤廃される予定とされています。
つまり、被保険者数51人未満の法人では、今回の改正による直接の対応は生じません。訪問看護ステーションは1事業所あたりの職員数が少なく、単独で運営している法人の多くは51人に届かないはずです。
影響を受けるのは、複数の事業所を展開している法人や、他の事業と併せて運営している法人です。日本看護協会の実態調査では、同一法人が医療・介護の施設や事業所を持つ訪問看護事業所が73.7%でした。法人全体で51人以上になるケースは少なくありません。
該当する場合、確認すべきは週20時間以上勤務するパート職員です。これまで月額8.8万円に届かず適用外だった人が、新たに対象になる可能性があります。
あわせて、事業主が労使折半を超えて保険料を負担し、本人負担を軽減できる保険料調整の措置も施行されました。3年間の時限措置です。
当メディアで訪問看護師の年収を扱った際、パート看護師の比率が高いことに触れました。訪問看護は、子育てや介護と両立しながら働く看護師を多く抱える業態です。社会保険の適用が広がれば、本人の手取りと事業所の負担の両方が変わります。
地域別最低賃金が10月1日以降、順次改定されています。
全都道府県で時間額54円から65円の引き上げとなり、全国加重平均は1,177円です。前年度から56円の増加になります。
最高額は東京都の1,280円、最低額は宮崎県などの1,085円です。大阪府は1,231円、神奈川県は1,225円、愛知県は1,195円。これらは10月1日の施行ですが、福岡県の1,114円は10月4日の施行です。
発効日は都道府県ごとに異なり、10月1日から12月2日にかけて順次適用されます。全国一律ではありません。
訪問看護ステーションで最低賃金が直接問題になるのは、主に事務職員やパートの非資格職です。看護職員の時給が最低賃金を下回ることは通常ありません。
ただし、間接的な影響はあります。最低賃金が上がれば、他業種のパート職との賃金差が縮まります。当メディアで基本給が12年で5,868円しか上がっていないことを扱った際、看護師が自分の給与を同年代の他業種と比べているという調査結果を紹介しました。賃金に不満と答えた看護職員は64%で、不満の内容に他業種も含めた同年代・同性の平均給与額との比較が挙がっています。
最低賃金の上昇は、その比較の基準を押し上げます。
雇用・労働関係の制度変更には、同一労働同一賃金ガイドライン等の改正も含まれています。労働者派遣法の改正とあわせて施行されました。
訪問看護ステーションでは、常勤と非常勤、正職員とパートが同じ訪問業務を担うことが珍しくありません。訪問1件あたりの手当、オンコールの待機手当、交通費の扱い。これらに常勤と非常勤で差があるなら、その理由を説明できるかが問われます。
当メディアでオンコールの待機時間が労働時間と認められた裁判例を扱った際、手当が何の対価として支払われているかを就業規則や労働条件通知書に明記していなければ、割増賃金の趣旨とは認められないと判断された点を紹介しました。同じ話が、常勤と非常勤の待遇差についても当てはまります。
4つの変更について、確認する順番を整理します。
カスハラ対策は、全事業所が対象です。方針を文書にしているか、相談窓口を定めて職員に周知しているか、就業規則に規定があるか。履行は企業名の公表という形で担保されるとされています。本日から義務であり、猶予はありません。
社会保険は、まず法人全体の厚生年金保険の被保険者数が51人以上かを確認します。該当するなら、週20時間以上勤務するパート職員を全員リストアップします。
最低賃金は、自事業所が所在する都道府県の金額と発効日を確認します。事務職員やパート職員の時給が新しい金額を下回らないか、確認が必要です。
同一労働同一賃金は、常勤と非常勤で手当に差があるなら、その理由を説明できるかを点検します。
当メディアで補助金を扱った際にも書きましたが、誰がいつ制度の情報を確認するかを決めていない事業所は、毎回同じ対応に追われます。10月と4月は制度変更が集中する時期です。
最後に、全体の構図を書きます。
カスハラ対策には規程と窓口の整備が要ります。社会保険の適用拡大は、該当する法人では保険料負担が増えます。最低賃金の上昇は、人件費の底上げにつながります。
いずれも、小規模な事業所ほど対応の負担が重くなります。看護職員が平均5.4人で、管理者が請求も労務も届出も抱えている事業所では、これらを同時に処理することになります。
当メディアで処遇改善加算の算定率が訪問看護で67.6%にとどまることを扱いました。3割超が、初めて設けられた加算を取っていません。制度に乗るための事務処理が追いついていない事業所が一定数あるという状況は、今回の制度変更でも同じ形で現れる可能性があります。