厚生労働省保険局医療課が、訪問看護ステーションの経営状況を調べる仕組みづくりに乗り出しました。全国から無作為に選んだ約300事業所を対象に、「訪問看護経営実態等調査検証事業(令和8年9月調査)」を行っています。回答の期限は10月9日(金)です。
対象に選ばれた事業所はごく一部です。それでもこの調査は、選ばれなかった事業所にも関係があります。医療保険の訪問看護療養費の水準を、これから先どんなデータをもとに議論するのかが、この調査の設計で決まっていくからです。
厚労省保険局医療課は、全国訪問看護事業協会あてに9月2日付で事務連絡を出しました。協会はそれを9月9日に会員向けに掲載し、10月7日には「再度のお願い」として改めて協力を呼びかけています。事務連絡に書かれている内容は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査名 | 訪問看護経営実態等調査検証事業(令和8年9月調査) |
| 目的 | 訪問看護事業所の経営状況等を把握するための具体的方法を検討するため、調査設計を行う |
| 対象 | 全国の訪問看護事業所から無作為に抽出した約300か所 |
| 調査の実施 | エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社 |
| 回収・集計 | 株式会社サーベイリサーチセンター |
| 回答方法 | 電子調査票(Excel)をダウンロードして記入し、調査専用サイトからアップロード |
| 提出期限 | 令和8年10月9日(金) |
調査の結果は、今後の本格調査に向けて調査や集計の手法を検証するための基礎資料にするとされています。今回の調査は、本番の前に行う試行という位置づけです。
具体的な調査項目は調査専用サイトの資料に載っていて、事務連絡の本文には書かれていません。本格調査をいつ行うか、今回の結果を公表するかどうかも、事務連絡には書かれていません。
事務連絡は、調査の背景として令和8年度診療報酬改定の附帯意見を挙げています。
2026年2月13日に中医協がまとめた答申には、改定後に引き続き検討すべき事項を並べた附帯意見がついています。そのうち訪問看護についての項目は、4月8日の中医協総会の資料では15番として整理されています。内容は次の3点です。
4月8日の資料では、この項目を検討する場は診療報酬改定結果検証部会とされています。
附帯意見の「1日あたりで包括的に評価する仕組み」とは、2026年6月に始まった包括型訪問看護療養費のことです。高齢者向け住まい等に併設・隣接するステーションが、居住者のうち別表第7・第8に該当する人や特別訪問看護指示書の対象になっている人に、24時間体制で頻回の訪問看護を行った場合に、1日単位で算定します。区分は、同じ建物に住む利用者の数と、1日の訪問時間の合計で分かれます。
訪問看護療養費には、もともと1回ごとの訪問を積み上げて算定する仕組みがあります。そこに、1日単位の包括払いが加わりました。包括払いの額が適切かどうかは、事業所にどれだけの費用がかかっているかが分からなければ判断できません。附帯意見が「経営状況等の把握」を求めたのは、この事情によるものと読めます。
診療報酬の改定では、中医協が行う医療経済実態調査が、医療機関の経営状況を示す基本の資料になります。ところが、第25回調査の要綱で調査の対象とされているのは「病院、一般診療所、歯科診療所及び保険薬局」です。訪問看護ステーションは入っていません。
医療保険の訪問看護については、国の統計として訪問看護療養費実態調査があります。2年に1回、6月審査分のレセプトを集計して、請求の中身を調べるものです。厚労省の調査概要には請求に関する事項が書かれていて、事業所の収入や費用を調べる項目は見当たりません。
ステーションの収支を調べている国の調査としては、介護事業経営実態調査があります。訪問看護も調査の対象サービスの一つです。ただしこの調査は、介護保険制度の改正と介護報酬の改定に必要な基礎資料を得るためのもので、中医協の調査ではありません。
附帯意見は経営状況の「把握」を求めました。それを受けて保険局は、把握の「具体的方法を検討する」ための調査設計から始めています。この順番から、医療保険の側にはステーションの経営を測る決まった仕組みがまだないことが分かります。
業界紙じほうの報道によると、中医協は6月24日、2026年度と2027年度に行う改定結果検証の特別調査で、在宅医療と訪問看護を2年続けて調査対象にすることを決めました。これは改定の影響を見るための検証調査で、今回の経営調査の検証事業とは別のものです。
訪問看護については、2つの調査が並んで進んでいることになります。
診療報酬の改定は2年ごとなので、次は通常どおりなら2028年度です。ただ、本格調査をいつ行い、その結果をどの改定に使うかは、現時点では示されていません。
調査票が届いている場合、提出期限は10月9日(金)です。事務連絡によると、調査対象者ID(6桁)とパスワード(5桁)で調査専用サイトにログインし、Excelの調査票をダウンロードして記入したうえで、アップロードします。
今回は本格調査に向けた検証です。どの項目が答えにくかったか、医療保険と介護保険の費用を分けて書けたかといった点も、調査の設計を見直す材料になると考えられます。答えにくい項目があった場合は、調査の問い合わせ窓口に伝えておくと、本格調査の設計に生かされる可能性があります。
本格調査がいつ、どんな項目で行われるかは分かっていません。ただ、医療保険と介護保険の両方を扱うステーションの経営を測るのであれば、収入や費用を保険の種類ごとに分けて示せるかどうかが前提になります。特に人件費を医療保険分と介護保険分に分けるのは、多くの事業所にとって難しいはずです。
これらの数字は、調査に答えるためだけのものではありません。自分の事業所が、どの保険のどの利用者で利益を出しているのかを知る材料にもなります。
※本稿は、厚生労働省保険局医療課の事務連絡(令和8年9月2日)と中医協の公表資料をもとに整理しました。調査項目と本格調査の時期は、事務連絡に記載がないため確認できていません。