訪問看護の業界に、どんな企業がいて、それぞれどれくらいの規模なのか。働く看護師にとっても、経営者にとっても、意外と知られていません。
売上を公表している企業の数字を並べ、業界全体のステーション数と重ねてみると、この業界の独特な構図が見えてきます。巨大な最大手が市場を握っているようでいて、実は業界の主役は今も中小事業所です。
公表されているデータをもとに、訪問看護業界の企業と規模の全体像を整理してお届けします。
企業の話に入る前に、市場全体の規模を押さえます。
全国訪問看護事業協会の令和7年度調査によれば、2025年4月1日現在で稼働している訪問看護ステーションは全国に18,754か所あります。指定数では19,314か所。前年から1,425か所の純増で、1年間に2,487か所が新規開設され、886か所が廃止、355か所が休止しました。
都道府県別では大阪の2,222か所が最も多く、東京1,768、愛知1,262、神奈川1,161、福岡1,051と続きます。1993年にわずか277か所だったステーションは、30年あまりで67倍に増えました。
従事者の規模も確認しておきます。全国の就業看護師はおよそ131万人。このうち訪問看護ステーションで働くのは全体の6.7%前後で、訪問看護師は15万人程度とされます。
そのうえで、売上を公表している上場企業と主要企業を見ていきます。訪問看護を中核事業とする公表企業の数字を並べました。
| 企業名 | 売上(公表値) | 拠点数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| アンビスHD(医心館) | 363億円(2025年9月期3Q累計) | 全国120か所超 | 医療施設型ホスピス |
| ソフィアメディ(CUCグループ) | 非上場・CUC傘下 | 98事業所(2025年3月末) | 訪問看護専業の最大手級 |
| リカバリーインターナショナル | 25.3億円(2025年12月期計画) | 38拠点 | 訪問看護専業で上場 |
| セントケアHD(ミレニア等) | グループで介護全般 | 訪問看護は一部門 | 介護大手の一部門型 |
| ソンポケア | グループで介護全般 | 訪問看護24事業所(2023年時点) | 同上 |
※売上の決算期・範囲は企業により異なります。訪問看護事業単体の売上を開示していない企業も多く、単純比較はできません。
順に見ていきます。
公表売上で群を抜くのがアンビスホールディングスです。2025年9月期第3四半期の累計売上高は363億円で、前年同期比18.4%の増収でした。
ただし注意が必要です。同社の中核は「医心館」という医療施設型ホスピスで、末期がんや神経難病など医療依存度の高い方を施設に受け入れ、そこに訪問看護を提供するモデルです。収益は訪問看護による医療保険売上、居宅療養管理指導などの介護保険売上、入居者からの家賃・管理費という三階建て構造になっています。地域の家々を回る従来型の訪問看護とは、事業の性格が異なります。
以前の記事でお伝えしたとおり、このホスピス型のモデルは現在、全国一斉調査の対象にもなっており、同社は急拡大路線から持続可能な成長へと方針を転換しています。
従来型の訪問看護で最大手級といえるのがソフィアメディです。2002年創業で、北海道・関東・東海・北陸・関西・九州に98事業所を展開しています(2025年3月末時点)。24時間365日体制を基盤とした「医療インフラとしての訪問看護」を掲げています。
同社は医療系企業グループCUCの傘下にあり、単体の売上は公表されていません。それでも事業所数では、訪問看護専業として国内最大級の存在です。
訪問看護専業の上場企業として注目されるのがリカバリーインターナショナルです。2022年2月に東証グロース市場へ上場しました。
2025年12月期は売上高25億3,200万円、11.4%の営業増益を計画し、上場以来ほぼ一貫して二桁の増収を続けています。拠点数は38か所で、都内を中心に年6〜10か所ペースの新規出店を掲げています。1都3県への集中出店という戦略で、以前の記事で述べた都心型の高密度モデルを体現する企業といえます。
セントケア・ホールディングやソンポケア、ソラストといった介護大手も訪問看護を手がけています。セントケア傘下のミレニアは11事業所、ソンポケアは24事業所(いずれも2023年時点)など、グループの一部門として展開する形です。
これらの企業は訪問介護や有料老人ホームが主力で、訪問看護単体の売上は開示されていません。訪問看護をやっている上場企業は30法人ほどあるとされますが、大半がこの「一部門型」です。
ここまでの数字を重ねると、この業界の最も重要な構図が見えてきます。
事業所数で最大手級のソフィアメディが98事業所。全国のステーションは18,754か所。つまり最大手でもシェアは0.5%程度にすぎません。上場企業30社の事業所をすべて足しても、市場全体から見ればごく一部です。
売上で見ても同じです。訪問看護の市場規模は療養費と介護給付費を合わせて1兆円を超える水準まで成長していますが、公表売上首位のアンビスでも数%にとどまります。
コンビニや調剤薬局のように大手チェーンが市場を握る業界とは、構造がまったく違うのです。訪問看護の主役は、今も一つひとつの地域に根ざした中小のステーションです。以前の記事で述べたとおり、平均的なステーションは看護師5人前後の小規模事業所であり、その集合体がこの1兆円市場を支えています。
では、この「中小の海」はこのまま続くのでしょうか。変化の兆しは確かにあります。
国は経営の協働化・大規模化を促し、2026年度改定では機能強化型の評価を引き上げました。倒産と廃業は過去最多を更新し、M&Aは活発化しています。以前の記事で述べたサテライト展開のように、規模を求める動きは強まっています。上場企業の出店ペースも衰えていません。
一方で、訪問看護は地域密着の事業です。利用者との関係、地域の医師やケアマネジャーとの連携は、資本の論理だけでは築けません。大手が全国を覆い尽くす未来は、少なくとも当面は考えにくいでしょう。
むしろ現実的なのは、二層構造の進行です。都市部では企業型の大規模事業者が拠点を増やし、地方や地域密着の領域では中小が残る。その中間で、体力のない事業所が淘汰されていく。企業ランキングの数字は、その入口を映しています。
売上を公表している企業を並べて見えたのは、意外にも「大手がいない業界」の姿でした。363億円のアンビスも、98事業所のソフィアメディも、18,754か所という市場全体の前では一角にすぎません。この業界の強さも、もろさも、中小事業所の集合体であるという構造から生まれています。だからこそ、一つひとつのステーションの経営の質が、業界全体の未来を左右します。企業の動向は今後も定期的に追い、数字の変化をお伝えしていきます。