訪問看護の収益は、看護師の勤務時間のうちどれだけを訪問に充てられるかで決まります。以前の記事では、稼働率という数字を「見る」ことの大切さをお伝えしました。
今回はその実践編です。見えた数字を、どう上げるか。稼働率を蝕む三つの穴——移動・キャンセル・記録——の塞ぎ方を、明日から着手できる手順に沿って整理してお届けします。
改善は測定から始まります。稼働率の計算式はシンプルです。1か月のサービス提供時間数を、看護職員の勤務延時間数で割ります。
たとえば月160時間勤務する看護師が、80時間を訪問に充てていれば稼働率は50%です。移動、記録、会議、待機。売上に直結しない時間が、残りの半分を占めていることになります。安定した運営のためには、60%以上が一つの目標とされます。
以前お伝えした「看護師一人あたり月70〜80件」という件数の指標と、この時間ベースの稼働率を並べて見てください。件数が伸びないのか、1件あたりの周辺時間が重いのか。どちらが自事業所の課題かで、打ち手が変わります。
最初に取り組むべきは移動です。理由は明快で、移動時間は一円も生まないからです。
第一歩は、利用者宅を地図に落とすことです。紙の地図でも地図アプリでも構いません。全利用者の位置をプロットすると、訪問先の散らばり方が一目で分かります。多くの事業所で、担当の経緯だけで組まれた非効率なルートが見つかります。
そのうえで、方面ごとに訪問を束ねます。同じ日に同じ方面をまとめて回る。同じマンションや団地の中に複数の利用者がいるなら、連続して訪問できるよう時間を調整する。往復を減らすだけで、1日1件分の枠が生まれることも珍しくありません。
新規の受け入れにも、この地図が生きます。既存のルートの近くから優先して受ける。対応エリアの端に一人だけ利用者を持つことが、どれだけ移動を膨らませるかは、地図を見れば説得力をもって共有できます。エリアの絞り込みは断る勇気を伴いますが、以前の記事でお伝えした立地戦略の実践そのものです。
朝一番と夕方に訪問希望が集中する問題もあります。時間帯に幅を持たせられないか、利用者とケアマネジャーに丁寧に相談する。30分の柔軟性が、ルート全体を滑らかにします。
あわせて、直行直帰の活用です。自宅から最初の訪問先へ、最後の訪問先から自宅へ。事務所への立ち寄りをなくせば、その分が訪問に回ります。勤怠と情報共有の仕組みが前提になりますから、以前の労務の記事でお伝えした移動時間の扱いと、ICTでの打刻・記録の環境を整えたうえで進めてください。
二つ目の穴がキャンセルです。利用者の体調不良、急な入院、家族の都合。訪問看護でキャンセルはゼロにできません。だからこそ「出る前提」で仕組みを作ります。
まず、記録です。いつ、誰が、どんな理由でキャンセルしたかを必ず残し、月ごとに傾向を見ます。入院を繰り返す方、特定の曜日に集中する時間帯。傾向が見えれば、その枠に代替の予定を仮置きできるようになります。
次に、空いた枠の埋め方を、優先順位つきで決めておくことです。翌日以降の訪問を前倒しできる利用者はいないか。様子が気になっていた方への電話や臨時の訪問はどうか。それも難しければ、たまっている記録や計画書の作成、ケアマネジャーへの挨拶回りに充てる。当日その場で考えるのではなく、「空いたらこの順で埋める」という共通ルールを先に作っておく。これだけで空白の1時間が意味のある1時間に変わります。
スケジュールの組み方も、キャンセル前提に寄せます。月間・週間で大まかに組み、1日単位で細かく詰めるという二段構えが基本です。あえて週に数枠、予定を入れない緩衝の枠を設けておくと、キャンセルの逆——急な依頼や退院に伴う新規、緊急訪問——を受け止められます。空き枠は無駄ではなく、機会を受け取るための投資です。
三つ目が記録と事務です。夕方に事務所へ戻り、まとめて記録を書く。この習慣が、残業と稼働率低下の温床になります。
原則は「その場で、または移動の合間に書き終える」です。訪問直後の記憶が新しいうちに、タブレットやスマートフォンで入力する。音声入力やテンプレートを使えば、1件あたりの記録時間は確実に縮みます。以前お伝えした記録の効率化とICTの活用が、稼働率の文脈でも効いてくるのです。
会議や申し送りも見直しの対象です。全員が集まる時間を短くし、共有はICT上で済ませる。削った時間は、訪問か、定時の退勤に回します。
効率を考えるとき、見落とされがちなのが担当制の設計です。
利用者ごとの担当制は、信頼関係を築きやすい半面、スケジュールが固定化して柔軟な調整が利かなくなる欠点があります。担当者が休めば訪問が止まり、キャンセルの穴も他の人では埋められません。主担当・副担当の複数担当制にして、記録と情報共有で誰でも一定の対応ができる状態を作っておく。柔軟性は、稼働率の土台でもあります。
最後に、進め方の要点を二つ。
一つは、管理者が一人で抱えないことです。ルートの無駄も、キャンセルの傾向も、いちばん知っているのは現場を回るスタッフです。地図と数字を見せながら全員で話し合い、共通認識を作る。以前の記事でお伝えしたとおり、数字はチームの共通言語にしてこそ動きます。
もう一つは、詰め込みすぎないことです。移動の余裕を削りすぎれば焦りが生まれ、焦りは事故を呼びます。車両管理の記事でお伝えしたとおり、安全のための余白は削ってはならないコストです。稼働率の目標は、スタッフの疲弊やケアの質と引き換えにするものではありません。
移動を地図から組み直し、キャンセルを記録して埋める順番を決め、記録を合間に終わらせ、担当を複数化し、チームで数字を見る。どれも一つひとつは地味な工夫です。けれど積み重なれば、同じ人数のまま訪問件数が増え、残業が減り、売上と働きやすさが同時に改善します。人を増やす前に、まず時間の使い方を整える。稼働率の改善は、いまいる仲間の力を最大限に生かすための経営です。今週の地図とキャンセル記録から、始めてみてください。