訪問看護の加算は、改定のたびにその姿を変えてきました。
新しく設けられる加算があり、点数が引き上げられる加算があり、その一方で、要件が厳しくなり、減算が導入されるものもあります。一つひとつの変更には、国が訪問看護に何を期待しているのかという、明確なメッセージが込められています。
加算の推移を追うことは、国の政策の方向を読むことでもあります。今回は、ここ数年の加算の変化から読み取れる五つの傾向と、これから訪問看護がどこへ向かうのかを、分析してお届けします。
最も一貫している流れが、重症で、医療への依存度が高い利用者を支える事業所を、手厚く評価するという方向です。
背景には、利用者像の変化があります。介護保険で訪問看護を使う人のなかにも、悪性新生物や循環器系の疾患といった重い病を抱える人が増え、褥瘡の処置や人工肛門の管理、終末期の緩和ケアが、在宅で行われるようになりました。
2024年度の改定では、医療保険の訪問看護管理療養費が2区分に再編され、重症度の高い利用者の割合などが、要件に組み込まれました。精神科の分野でも、GAF尺度が40以下の利用者数が、管理療養費1の要件に加えられています。単なる算定ルールの変更ではなく、重い精神障害のある人を地域で支えるステーションを増やしたい、という政策の意図が読み取れます。
2026年度の改定では、この方向がさらに明確になりました。重症の難病や、精神科の訪問看護への対応力が高い事業所を評価する、機能強化型訪問看護管理療養費4が新設されたのです。月の初日で9,030円。常勤の看護師4名以上、24時間の対応体制、重症者や精神障害のある人への実績などが要件になります。
二つ目が、看護師の専門性そのものを評価する流れです。
2022年度の改定で新設された専門管理加算が、その象徴といえます。緩和ケアや褥瘡ケアなどに関する専門的な研修を受けた看護師や、特定行為研修を修了した看護師による、計画的な管理を評価するものです。介護保険では、2024年度の改定で、250単位の専門管理加算が設けられました。
機能強化型の要件にも、専門性の高い研修を修了した看護師の配置が求められています。以前の記事で取り上げた特定行為研修が、報酬の面でも、着実に位置づけを得つつあるのです。経験と専門性を積んだ看護師を育てることが、そのまま収益にもつながる。そういう構造が、少しずつ形になってきました。
三つ目が、在宅での看取りと、24時間の対応体制に対する評価の強化です。
2024年度の介護報酬改定では、ターミナルケア加算が2,500単位に引き上げられました。緊急時訪問看護加算にも(Ⅰ)と(Ⅱ)の2区分が設けられ、より高度な24時間の体制を持つステーションが、手厚く評価される形になりました。退院した当日の訪問を評価する初回加算(Ⅰ)350単位も、新たに設けられています。
2026年度の改定では、24時間対応体制加算、特別管理加算、ターミナルケア療養費、緊急訪問看護加算といった主要な加算が、単位数も要件も、そのまま継続されました。看取りと24時間対応を、訪問看護の中核的な機能として位置づける姿勢は、揺らいでいません。
四つ目は、評価の引き上げとは逆の流れ、適正化です。
2026年度の改定で、月の2日目以降の訪問看護管理療養費が、大きく組み替えられました。単一の建物に住む利用者の数と、1か月あたりの訪問日数の組み合わせによって、評価が細分化されたのです。単一建物の居住者が20人未満なら3,000円ですが、50人以上で、月の訪問日数が25日以上になると、2,000円まで下がります。同じ管理業務でも、集合住宅で効率的に多数を回るほど、単価が下がる仕組みになりました。
介護保険の側でも、事業所と同一の建物の利用者への減算や、理学療法士などリハビリ職の訪問回数が看護職員を上回る場合の減算が、設けられています。以前の記事で述べたとおり、「看護の一環としてのリハビリ」という原点が、制度に反映された形です。
そして2026年度には、訪問の開始と終了の時刻を記録することが、算定の前提として明確化されました。記録に不備があれば、既存の加算までもが、返戻の対象になります。加算は、取るだけでなく、記録で守るものになったのです。
そして、最も大きな地殻変動といえるのが、評価する軸そのものの変化です。
象徴的なのが、2026年度に新設された包括型訪問看護療養費です。高齢者向けの住まいに併設・隣接するステーションが、その住まいの利用者に、24時間体制で計画的または随時の頻回な訪問看護を行った場合を、1日単位の包括的な費用として評価します。従来の「1回の訪問につきいくら」という出来高払いから、「1日の合算した訪問時間」へと、評価の軸が動きました。
同じ2026年度、医療保険側の特別地域訪問看護加算にも、変化がありました。従来の移動時間に着目した評価に加えて、移動と訪問看護の提供を合わせた時間にも着目する評価が導入されたのです。
機能強化型4の考え方も、示唆的です。人員の規模ではなく、退院の支援や、医療機関との連携、地域での活動といった実績が重視されます。常勤4名以上という要件のため、中規模の事業所でも、専門性を強みに算定を狙えます。規模ではなく機能で評価する。その姿勢が、はっきりと表れています。
以上の五つの傾向から、これからの方向を、いくつか想定できます。
第一に、出来高払いから、包括的な評価や実績に基づく評価への移行が、さらに進む可能性です。訪問の回数を積み上げるモデルは、評価されにくくなっていきます。
第二に、事業所の二極化です。重症者を受け入れ、看取りを担い、専門性と連携の実績を持つ事業所と、軽度の利用者を効率よく回る事業所とで、単価の差が広がっていきます。
第三に、記録とデータが、経営の生死を分けるようになることです。訪問時刻の記録、重症度の評価、実績の証明。いずれも、記録として残せなければ、算定できません。以前の記事で述べたICTの導入は、もはや効率化のためだけの投資ではなく、収益を守るための基盤になりました。
では、経営者は何を準備すべきか。重症者や、看取り、精神科など、医療ニーズの高い利用者を受け入れる体制を整えること。特定行為研修などを通じて、スタッフの専門性に投資すること。24時間の対応体制を維持し、その負担を分散する仕組みを持つこと。そして、記録とデータの基盤を整え、算定の根拠を確実に残すこと。以前の記事で述べた、数字で経営する姿勢が、ここでも問われます。
加算の推移は、国が訪問看護に何を求めているかを、静かに、しかし明確に語っています。重症者を支え、専門性を磨き、看取りに向き合い、地域と連携する。そうした機能を果たす事業所を、手厚く評価する。逆に、効率だけを追う運営には、締めつけが強まる。方向は、はっきりしています。改定のたびに変わる点数に、その都度、対応するだけでは追いつきません。数年間の流れを読み、自らのステーションがどの機能を担うのかを定め、そのための体制を、いまから積み上げていく。制度の変化に振り回されるのではなく、その方向を先に読んで備えること。それが、これからの訪問看護経営を支える、確かな力になります。