2024年度の障害福祉サービス等の総費用額は、約4.2兆円でした。前年度と比べて12.1%の増加です。
厚生労働省は2025年10月の社会保障審議会障害者部会でこのデータを報告し、「急伸」と位置づけたうえで、制度の持続可能性を確保する観点から検討が必要だという認識を示しました。
訪問看護は、この4.2兆円には含まれません。医療保険の訪問看護も、介護保険の訪問看護も、障害福祉サービスとは別の制度です。それでもこの数字を扱うのは、費用が伸びたときに国が何をしたかが、訪問看護にとって参考になるからです。
12.1%という伸びを分解すると、利用者1人あたりの費用が6.0%増、利用者数が5.8%増でした。
1人あたりの費用が6.0%伸びたことには意味があります。2024年度の障害福祉サービス等報酬改定の改定率はプラス1.12%でした。報酬の単価を1.12%上げたのに、1人あたりの費用は6.0%増えた。単価の引き上げでは説明がつかない伸びです。
サービス別に見ると、伸び幅が最も大きかったのは就労継続支援B型で、前年度比プラス1,052億円、20.1%の増加でした。放課後等デイサービスやグループホームも伸び幅が大きかったと指摘されています。
予算額の推移も示されています。障害福祉サービス関係の予算額は2013年度の0.9兆円から2026年度には約2.3兆円へ増えました。障害者自立支援法の施行時からは、約4倍です。
この状況に対して、2026年6月に期中の報酬改定が行われました。
対象を絞る基準が明確でした。年間総費用額全体に占める割合が1%以上であること。2024年度の収支差率が5%以上であること。過去3年間に事業所数が5%以上の伸びを続けていること。この三つを満たすサービスが選ばれています。
具体的には、就労継続支援B型、共同生活援助のうち介護サービス包括型と日中サービス支援型、児童発達支援、放課後等デイサービスです。
そして、これらのサービスについて、2026年6月1日以降に新たに指定を受ける事業所に限り、一定程度引き下げた基本報酬を適用することとされました。既存の事業所の基本報酬は下げていません。
背景として、総費用額の急伸に加えて、営利法人を中心とする新規参入の増加が挙げられています。人材確保が一層厳しくなっている状況を踏まえ、制度の持続可能性を確保する観点からの緊急的な見直しという説明です。
同じ改定では、処遇改善加算の拡充も行われました。費用を抑える措置と、賃上げの措置が同時に入っています。
この三つの基準は、サービスを名指しするためのものです。訪問看護を同じ物差しで測ると、どうなるか。
収支差率5%以上という基準。訪問看護の収支差率は、令和7年度介護事業経営概況調査で10.3%でした。全介護サービスの平均4.7%の2倍を超えます。当メディアで扱ったとおり、財務省は2026年4月にこの数字を挙げ、報酬の適正化を求めています。
事業所数が伸びているという基準。訪問看護ステーションの指定数は2025年4月時点で19,314か所で、増加が続いています。新規開設は毎年2,000件を超える水準にあります。
営利法人を中心とする新規参入という指摘。日本看護協会の実態調査では、訪問看護事業所の開設主体は営利法人が49.0%でした。開設年で見ると、2020年から2024年が33.6%を占めます。3分の1が直近5年の開設です。
三つとも当てはまります。年間総費用額に占める割合は制度が違うため単純に比較できませんが、それ以外の基準では、訪問看護は障害福祉で対象になったサービスと同じ側にいます。
ここで注意すべきなのは、判断に使われたのが収支差率の平均値だという点です。
日本看護協会の実態調査では、2024年度の収支差率が赤字だった訪問看護事業所は27.2%でした。看護職員3.5人以上4人未満の層では44.7%が赤字です。当メディアで扱ったとおり、地域区分別に見ても、その他地域の収支差率は4.6%で、全介護サービスの平均を下回ります。
平均10.3%という数字の中に、赤字の事業所が3割近くいます。それでも、サービス種別を選ぶ段階で使われるのは平均値です。
9月10日の介護給付費分科会では、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の団体が、概況調査の収支差率13.4%について実態と乖離していると感じる会員が多いと訴えました。訪問看護も同じ立場にあります。
障害福祉で使われたやり方で、もう一つ注目すべき点があります。既存の事業所と新規の事業所を分けたことです。
既存事業所の基本報酬を下げれば、いま運営している事業所の収入が直接減ります。反発も大きい。新規の事業所に限れば、いま運営している事業所は影響を受けません。費用の伸びを抑えながら、既存事業者の理解を得やすい形です。
一方で、この手法には副作用があります。新規と既存で異なる報酬が適用されるため、同じサービスを提供していても収入が違う状態が生まれます。新規参入の抑制が目的である以上、意図された効果ではありますが、これから開業する人にとっては条件が変わります。
当メディアで開業のロードマップを扱った際、準備には採用も含めて9か月以上かかると書きました。仮に訪問看護で同様の措置が検討されるとすれば、準備を始めた時点の条件と、指定を受ける時点の条件が変わる可能性があるということになります。
制度としては別でも、訪問看護と障害福祉には実際の接点があります。
グループホーム、制度上は共同生活援助です。障害福祉で費用の伸び幅が大きいサービスの一つに挙げられ、2026年6月の期中改定で新規事業所の基本報酬引き下げの対象にもなりました。日本看護協会の実態調査では、グループホームへの訪問看護について、実施していない事業所が63.9%、医療保険で実施しているが10.4%、同一法人以外からの業務委託で実施しているが8.1%でした。
精神科訪問看護の利用者や、医療的ケア児も、障害福祉サービスの利用者と重なります。同じ人を、別の制度で支えている形です。障害福祉の側で報酬や基準が動けば、その人の生活を支える組み合わせが変わります。
障害福祉サービス等の2027年度報酬改定に向けた議論は、2026年4月28日に始まっています。介護報酬改定と同じ年度です。
当メディアで追ってきたとおり、介護の側では9月16日に関係団体との意見交換会が終わり、10月から12月にかけて個別のサービスごとの議論に入ります。12月に報酬と基準の基本的な考え方が整理され、12月下旬に改定率が決まり、2027年1月に諮問と答申という流れです。
障害福祉と介護は、別の財布で、別の審議会で議論されます。ただ、費用が伸びたときに国が取る手段には共通するものがあります。収支差率の高いサービスを名指しする。新規参入の多さを理由に挙げる。既存と新規を分けて適用する。
障害福祉で先に使われた手法が、介護でも検討される可能性はあります。訪問看護が名指しされるかどうかは分かりませんが、名指しされる条件の多くを満たしていることは確かです。
自事業所の収支差率が平均の10.3%のどちら側にあるか。それを把握している事業所と、平均の数字だけを見ている事業所では、議論が進んだときの備えが変わります。