「私は訪問看護に向いているでしょうか」。転職を考えている看護師さんから、いちばん多く聞かれる問いです。
求人サイトの記事を読むと、たいてい前向きな答えで終わっています。誰にでもできます、サポートがあります、と。もちろん嘘ではありません。けれど正直にお伝えすると、この仕事には合う合わないが確かにあります。私自身、病院から移ってきた当初は戸惑いの連続でした。
今日は向いている人と向いていない人の条件を、できるだけ率直にお話しします。そのうえで、「向いていない」と思われがちな要素の多くが、実は環境と訓練で変わることもお伝えさせてください。
まず挙げたいのが、コミュニケーションを負担に感じない人です。
訪問看護では、限られた訪問時間の会話から、利用者さんの心身の状態とご家族の思いを読み取ります。何を望んでいるのかを掴めなければ、その人に合ったケアは組み立てられません。加えて医師、ケアマネジャー、ヘルパー、薬剤師と、関わる職種は病院より広くなります。
話し上手である必要はありません。むしろ大切なのは聴く力です。世間話の中に大事な情報が混じっていることを面白いと思える人は、この仕事に向いています。
病棟で業務に追われ、ゆっくり話を聞けないもどかしさを抱えてきた人。訪問看護では、1回の訪問時間をまるごと一人の方のために使えます。
その方の家に上がり、暮らしぶりを知り、家族に会い、人生観に触れながらケアをする。生活を支える一部になりたいという気持ちを持てる人には、深いやりがいのある仕事です。
訪問先には、基本的に一人で入ります。その場で観察し、判断し、必要なら医師へ連絡する。指示を待って動く働き方とは、根本的に違います。
以前の記事でお伝えしたとおり、訪問看護の核心は観察と判断です。だからこそ、指示待ちの傾向が強い人にとっては、最初のうち苦しさを感じやすい仕事といえます。ただしこれは、後ほど述べるように訓練で確実に変わる部分でもあります。
訪問看護が扱う範囲は、介護予防から高度な医療的ケアまで、驚くほど広いものです。認知症、難病、精神疾患、小児、看取り。目の前に来た方に合わせて、その都度学び直すことになります。
医療の知識も日々更新されます。勉強会に出る、調べる、先輩に聞く。その積み重ねを面倒に感じない人が伸びていきます。
夜勤がなく、土日が休みになりやすい。プライベートとの両立を望む人にとって、大きな利点です。オンコールの当番はありますが、多くは自宅で待機する形になります。
ここからは、求人記事があまり書かないことをお伝えします。
第一に、重度の潔癖症の方です。訪問看護は、他人の家に上がる仕事です。家の状況はさまざまで、病院のように整った環境ばかりではありません。清潔さの感覚が強すぎると、日々の訪問そのものが負担になります。
第二に、動物アレルギーのある方です。ペットを飼っているお宅は少なくありません。症状の程度によっては、体調そのものが続きません。
この二つは、気持ちの持ちようではどうにもならない部分があります。自分がどの程度まで大丈夫かを、見学や同行の機会に確かめてください。
第三に、心配性が強すぎる方です。オンコールの当番の日、電話が鳴るかもしれないという緊張が続きます。以前の記事でお伝えしたとおり、実際の出動は月0〜2回が大半で、多くは電話で解決します。それでも「何かあったらどうしよう」と考え続けてしまう性格の方には、この緊張が重くのしかかります。
第四に、一人で判断することへの不安が極端に強い方です。搬送が必要かどうかを、その場で決める場面があります。経験の浅い看護師が一人で抱え込めば、精神的な消耗は大きく、燃え尽きにつながることもあります。
ここが今日いちばんお伝えしたいことです。いま挙げた向いていない条件のうち、後半の二つは、職場の体制でかなり変わります。
一人で判断する不安について。まず知っていただきたいのは、新人がいきなり一人で訪問することはない、という事実です。多くのステーションでは同行訪問と研修が用意され、段階を踏んで独り立ちしていきます。判断に迷ったときに電話で先輩に相談できる体制があるかどうか。週に一度、症例を持ち寄って判断の根拠を共有する場があるかどうか。そうした環境があれば、一人で抱え込まずに経験を積めます。
オンコールの緊張についても同じです。当番を2名体制にして、電話を受ける人と実際に出動する人を分けている事業所があります。当番の回数を分散させ、翌日の勤務に配慮する事業所もあります。負担は個人の性格だけでなく、体制の設計で大きく変わるのです。
つまり「向いていないかもしれない」と感じる部分の多くは、あなたの性格の問題ではなく、職場選びの問題でもあるのです。
「病棟経験が浅いから」「何年も現場を離れていたから」と迷う方も多いと思います。
もちろん経験があるに越したことはありません。ただ、大切なのはこれまでの看護経験を生かしながら、その人の生活に寄り添う姿勢を持てるかどうかです。急性期で培った技術を生かしたいなら、重症の方や難病の方を受け入れるステーションを選ぶ道もあります。じっくり関わりたいなら、慢性期や看取りに力を入れる事業所もあります。
自分に合う場所は、必ずあります。
適性を職場選びの問題として捉えるなら、面接で確かめるべきことがはっきりします。
独り立ちまでの同行訪問の期間はどれくらいか。判断に迷ったとき、誰に、どうやって相談できるのか。症例を検討する場はあるか。オンコールの当番は月に何回で、1人体制か2人体制か。実際に鳴る頻度と出動の頻度はどれくらいか。入職から何か月目でオンコールを担当することになるか。
聞きにくいと感じるかもしれません。けれど、これらを丁寧に答えてくれる事業所は、それ自体が育てる姿勢のある職場だという証拠になります。
「向いているかどうか」を、性格の問題だけで決めないでください。潔癖症や動物アレルギーのように、正直に見極めたほうがよい条件は確かにあります。けれど一人での判断も、オンコールの緊張も、支える体制があれば乗り越えられるものです。私自身、最初の数か月は不安で仕方ありませんでした。それでも先輩に相談できる環境と、目の前の方との時間が、少しずつ自信を作ってくれました。大切なのは、自分に向いた場所を選ぶこと。そして選ぶために、遠慮なく確かめること。あなたが力を発揮できる場所は、きっとどこかにあります。