共同通信が2026年9月30日に報じました。
末期がんや難病患者向けのホスピス型有料老人ホームを運営する東証プライム上場の大手2社に対し、厚生労働省が入居者への訪問看護で不適切な診療報酬の請求があったとして、健康保険法に基づき報酬を返還するよう指導したことが、関係者への取材で分かったという内容です。
厚労省は2社の社長を7月に呼び、自主点検して報酬を返還するよう求めたとされています。
2社は、医心館を運営する最大手のアンビスホールディングスと、PDハウスを運営するサンウェルズです。
取材に対し、アンビスホールディングスは指導が続いており厚労省の許可なく内容を公表することはできない、指導には真摯に対応しているとコメントしています。サンウェルズは個別の行政対応に関する事実関係については回答を差し控える、開示すべき事項が生じた場合には適時適切に公表するとしています。
当メディアでは、ホスピス型住宅をめぐる制度の動きを継続して扱ってきました。今回の報道が、その流れのどこに位置するのかを整理します。
この指導は、突然出てきたものではありません。
2025年12月、共同通信が厚労省の方針を報じました。ホスピス型の有料老人ホーム入居者や、精神障害者を対象にした訪問看護ステーションに対し、健康保険法に基づき2026年1月から全国一斉の調査を始めるという内容です。
訪問看護をめぐっては、不正・過剰な診療報酬請求が横行していると指摘され、医療・介護業界で問題になっていました。厚労省は不適切な事業者には報酬の返還を指導する考えだとされていました。
医療機関などに対する全国一斉調査は、訪問看護では初めてでした。
当時の報道では、医療保険の訪問看護の利用者は約57万人で、年間費用は6千億円以上とされています。
今回の返還指導は、その調査の結果として出てきたものです。共同通信は、2社のほかにも報酬返還を求めているとみられると報じています。
制度上、ホスピス型住宅という区分はありません。
末期がんや難病の人を対象とした住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅で、訪問看護を手厚く提供する形態を指す呼び方です。近年、各地で急増してきました。
構造を確認します。医療保険の訪問看護は、厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合、介護保険の区分支給限度基準額の枠外で提供できます。末期の悪性腫瘍や、指定された難病がこれに当たります。
訪問の回数にも、通常とは異なる扱いがあります。週4日以上の訪問や、1日に複数回の訪問が可能になる場合があります。
つまり、対象となる利用者を集めた住まいに訪問看護ステーションを併設すれば、1か所で多数の訪問を効率的に行えます。移動時間がほぼゼロになるためです。当メディアで訪問看護の移動を扱った際、事業所から最も遠い利用者までの移動が平均29.8分という日本看護協会の調査を紹介しました。同じ建物の中であれば、この時間が不要になります。
この構造自体は、違法ではありません。問題になるのは、実際に提供していない訪問を請求した場合や、必要性のない頻回の訪問を行った場合です。
厚労省は調査と並行して、報酬の仕組みを変えてきました。
2026年度の診療報酬改定では、高齢者向け住まいに併設・隣接する訪問看護ステーションを対象に、1日単位で評価する包括型訪問看護療養費が新設されました。訪問の回数に応じて積み上がる出来高から、1日いくらという包括に変えるものです。
同じ改定で、高齢者向け住まいへの有料職業紹介が禁止されました。入居者を紹介して手数料を受け取る形を禁じるものです。
精神科訪問看護についても、同一建物の区分が5段階に細分化され、10人以上の建物では日数の数え方が週から月に変わりました。
2025年9月には、医療保険の個別指導について、訪問看護レセプト1件当たりの平均額が高い事業所を高い順に選定する仕組みが導入されています。都道府県の平均額を超え、かつステーション総数の上位おおむね1%に入る事業所が対象です。複数の都道府県にまたがる事業者を対象とした共同指導の枠組みも新設されました。
そして2026年9月18日の検討会では、住宅型有料老人ホームに導入する登録制の基準案が示されました。併設・隣接する関連法人の事業所によるサービスの利用を入居の条件とすること、かかりつけ医やケアマネジャーの変更を強要すること、特定の事業所のサービスを利用した場合に家賃を安くすることを、いずれも認めない案です。
報酬、指導、そして住まいの基準。三方向から規制が進んできました。今回の返還指導は、そのうち指導の側の結果です。
この報道が、訪問看護の業界全体にどう影響するかを考えます。
第一に、調査対象が広いことです。共同通信は、2社のほかにも報酬返還を求めているとみられると報じています。2025年12月の報道では、精神科訪問看護の最大手の拠点も調査対象に含まれるとみられるとされていました。
第二に、訪問看護全体の見られ方です。当メディアで扱ったとおり、訪問看護ステーションの収支差率は令和7年度の概況調査で10.3%で、全介護サービス平均の4.7%を大きく上回ります。財務省は2026年4月にこの数字を挙げ、報酬の適正化を求めました。
不正請求の報道は、この議論に材料を与えます。訪問看護は儲かりすぎている、という主張を補強する形になりかねません。
ただし、日本看護協会の実態調査では、訪問看護事業所の27.2%が赤字でした。看護職員3.5人以上4人未満の層では44.7%です。全国19,000か所を超える事業所の大半は、集住型のモデルとは無関係に運営しています。
平均値と、一部の事業形態の問題を混同しないことが、この後の議論では重要になります。
第三に、2027年度の介護報酬改定への影響です。10月から12月にかけて個別のサービスごとの議論が行われ、12月に基本的な考え方がとりまとめられます。今回の報道は、その議論の最中に出てきました。
自事業所が集住型のモデルと無関係であっても、確認しておく価値がある項目があります。
訪問看護レセプト1件当たりの平均額を把握しているか。個別指導の選定基準に関わる数字です。都道府県の平均額は公表されていませんが、自分の数字を知らなければ、高いか低いかの見当もつきません。
医療保険の利用者について、別表第七や第八に該当する人が何人いるか。特別訪問看護指示書が交付されている人は何人か。単価が高い理由が利用者の重症度にあるなら、その構成そのものが説明材料になります。
そして記録です。当メディアで運営指導を扱った際、確認されるのは計画ではなく記録だと書きました。2026年度改定では、訪問看護記録書に実際の訪問開始時刻と終了時刻を記載することが求められるようになりました。20分を下回る訪問は算定できず、前回訪問から2時間未満の短時間訪問は合算されます。
記録の要件が細かくなったのは、今回のような問題への対応という側面があります。
最後に、当メディアの見方を書きます。
ホスピス型住宅というモデルが生まれた背景には、需要があります。末期がんや難病で、自宅での療養が難しく、病院にも長く入院できない。そういう人が行く場所が足りていませんでした。
そこに事業として参入した企業が、看取りの場を用意したこと自体は、制度の隙間を埋める機能を果たしてきた面があります。
問題は、その収益構造が訪問看護の出来高に依存していたことです。入居者を集め、医療保険で頻回に訪問する。この形が成立する限り、訪問の回数を増やす圧力がかかり続けます。
包括型訪問看護療養費は、その圧力を制度の側から止めようとするものです。1日いくらであれば、回数を増やしても収入は増えません。
ただ、制度が変わっても、需要は残ります。看取りの場をどこに用意するのかという問題は、解決していません。
今回の報道は、訪問看護という制度が何のためにあるのかを、改めて問うものだと受け止めています。