訪問先で、いちばんよく相談されることの一つが排便のことです。「三日も出ていないんです」「浣腸しないと出なくて」。ご本人からもご家族からも、切実な声を聞きます。
在宅で療養されている方の多くが、便秘を抱えています。加齢による腸の働きの低下、筋力の低下、食事や水分の摂取量の減少、そして薬の影響。原因はいくつも重なります。
ただ、排便のケアで大切なのは、回数を数えることではありません。今日は在宅の排便コントロールについて、現場からお話しさせてください。恥ずかしくて相談しづらいことだからこそ、知っていただきたいことがあります。
はじめにお伝えしたいのが、便秘を軽く見てはいけないということです。
いつものことだからと下剤の調整だけで済ませてしまうと、見落とすものがあります。便秘の訴えの中に、イレウスなど緊急性の高い病態が隠れていることがあるのです。腹部の張りが強い、嘔吐がある、腹痛が続く。そうしたときは、すぐに医師へ連絡します。
緊急でなくても、便秘は生活の質を大きく下げます。おなかが張って食欲がなくなる。腹痛が続いて眠れない。以前の記事でお伝えしたとおり、認知症のある方では、便秘の不快さが落ち着きのなさや行動の変化として現れることもあります。ご本人が言葉で伝えられない不調が、実は便秘だったという場面を、私は何度も見てきました。
排便の状態を知ることは、その人の全身の状態を知ることでもあります。
ここが、いちばんお伝えしたいことです。排便コントロールとは、便の性状のコントロールです。
専門医の解説によれば、いちばん簡単で大切な方法は、便の形を記録することだといいます。便は大腸を移動する時間が長いほど水分が吸収され、硬くパサパサになります。逆に水分の吸収がうまくいかないと、水様便になります。
そしてこう指摘されています。たとえ排便の周期が長くても、適度な硬さの普通便が出ていれば問題ありません。何日か出なくて下剤を飲んだ結果、水様便が出たとすれば、下剤の量は減らすべきだ、と。
「三日出ていないから下剤を増やす」という発想では、うまくいかないのです。三日目に適度な硬さの便が出ているなら、その人にとってはそれが自然なリズムかもしれません。逆に毎日出ていても、水様便が続いているなら下剤が効きすぎています。
量については、多い・中くらい・少ないの3段階を簡単に記録するだけでかまわないとされています。ご家族にお願いするのは、この程度の記録です。それだけで、下剤の調整の精度がまったく変わります。
記録と並んで大切なのが、おなかを触ることです。
同じ専門医は、腹部の触診を勧めています。毎日その人と接している中で、今日はいつもより張っているな、ゴロゴロいう音がいつもより少ないな、という日々の違いを感じてみてほしい、と。関心を持って触っているうちに、経験からさまざまなことが分かってくるといいます。
私たち訪問看護師も、訪問のたびにおなかの音を聴き、触れて確かめます。以前の記事でお伝えした観察の力が、ここでも働きます。そして最近は、ポータブルエコーを使って直腸の中を見る取り組みも広がってきました。便が硬いのか泥状なのかが画像で分かるため、必要のない処置を避けられます。技術は、苦痛を減らす方向にも使えるのです。
排便のトラブルで、誤解されやすい状態があります。便秘なのに便が漏れる、という状況です。
直腸に硬い便の塊が詰まると、肛門が緩んだ状態になります。そこに下剤が効くと、緩い便が塊の隙間から漏れ出てきます。おむつを開けるたびに便が付いている。ご家族は下痢だと思って下剤を止めようとしますが、実際には便秘が原因です。
こうした状態では、詰まった便の塊を取り除くことで改善します。下痢に見えても便秘。この見分けは難しく、だからこそ専門職の判断が必要になります。「便が緩いのに、おなかが張っている」と感じたら、ぜひ相談してください。
排便のケアで、摘便を思い浮かべる方も多いと思います。指で便をかき出す処置です。
必要な場面は確かにあります。硬い便が直腸に詰まって自力では出せないとき、摘便で取り除くことが最も確実な方法になります。実際、パーキンソン病の方や、出口で便が詰まる直腸性の便秘の方に対しては、訪問時に浣腸と摘便を組み合わせて対応することが少なくありません。訪問看護師を対象とした研究でも、そうした実態が報告されています。
ただ、摘便は苦痛を伴う処置です。羞恥心も生じます。腸を傷つけるおそれもあります。そして何より、ご本人が自分でできることではありません。
だからこそ、私たちは服薬の調整を大切にします。便を柔らかくする薬と、腸の動きを促す薬では、働き方が違います。便が硬いのか、腸の動きが弱いのか。原因に合った薬を選べば、摘便に頼らずに済む方が確実にいらっしゃいます。処方するのは医師ですが、日々の排便の様子を知っているのは、訪問する私たちとご家族です。その情報を届けることが、薬の調整につながります。
摘便を減らせることは、苦痛が減るだけではありません。ご自分でコントロールできるという実感が戻ります。それが自立を支えることになります。
薬の調整と並んで、生活の中でできることもあります。
水分と食事です。ただし、心臓や腎臓の病気で水分を制限されている方、飲み込む力が弱くなっている方もいます。だから一律に「水をたくさん飲みましょう」とは言えません。その方の状態に合わせて、どの程度の水分を、どんな形の食物繊維を摂るのがよいかを、医師や管理栄養士と一緒に考えます。
体を動かすことも助けになります。ベッドの上でできる腹部のマッサージや、簡単な運動をお伝えします。
そして環境です。おむつの中で排泄することと、トイレやポータブルトイレに座って排泄することでは、体の使い方がまったく違います。座って重力を使えるだけで、出やすくなる方がいます。安全に座れる環境を整えることも、立派な排便ケアです。毎日同じ時間にトイレへ誘導することも、リズムを作る助けになります。
最後に、いちばん大切なことをお伝えします。
排泄は、誰にとっても人に見られたくないことです。他人に下の世話をされることを、申し訳ないと感じる方は本当に多い。だから「大丈夫です」と我慢して、悪化してから分かることもあります。
私たちが心がけているのは、当たり前のこととして淡々と行うことです。カーテンを引き、必要以上に肌を出さず、においにも配慮する。そして、恥ずかしいことではないと態度で示すこと。ご家族にも、排泄の介助は特別なことではないとお伝えしています。
排便のケアは、地味で、話題にしにくい領域です。それでも、おなかがすっきりすれば食欲が戻り、夜眠れるようになり、気持ちまで明るくなります。生活の質に、これほど直結するケアはそう多くありません。
「何日も出ていない」と感じたら、回数だけでなく便の形を見てみてください。そして、恥ずかしがらずに私たちに教えてください。下剤を増やすことだけが答えではありません。原因を見極め、薬を調整し、姿勢と環境を整えれば、苦痛の少ない方法が見つかることがあります。おなかのことは、遠慮なく相談していただきたいのです。