柔道整復、いわゆる整骨院の業界で、いま何が起きているか。訪問看護の経営者は、この動きを、隣の業界の話として片づけないほうがいい。
多部位への逓減が強化され、長期・頻回の施術は減額され、明細書の要件も厳しくなった。そして、療術業の倒産は、2025年度に過去30年で最多を記録している。
公定価格で運営する事業が、拡大の後に適正化を受け、そして淘汰へ向かう。まったく同じ構造を、訪問看護も抱えている。整骨院に起きたことを手がかりに、訪問看護のこれからを分析したい。
まず、数字を確認する。東京商工リサーチの調査によれば、2025年度に倒産した療術業は108件。整骨院や接骨院、鍼灸院などを含むこの業種の倒産は、1996年度以降の30年間で最多だった2019年度の98件を抜き、過去最多を更新した。前年度と比べて14.8%の増加になる。2025年の廃業件数も、過去最多を更新している。
倒産の中身を見ると、実態がよく分かる。2025年上半期に倒産した55件のうち、8割を超える83.6%が、売上不振を原因としていた。そして、従業員10名未満の小・零細規模が、98.1%を占める。体力のない小規模な事業所から、順に脱落しているのだ。
一方で、施術所の数は増え続けている。厚生労働省の統計では、2022年の125,853か所から、2024年には127,749か所へと増えた。増える事業所と、減る売上。競争が激化するのは、当然の帰結といえる。
売上不振の背景には、療養費の適正化がある。
柔道整復の療養費は、平成25年度の時点で、国民医療費約40兆円のうち約4千億円を占めていた。給付が膨らむなかで、国は段階的に、支給のルールを厳しくしてきた。
令和8年7月施行の改定は、その方向を鮮明に示している。初検料や後療料といった基本の料金は、引き上げられた。打撲や捻挫の後療料は、505円から550円へと45円上がっている。ところが同時に、多部位の請求に対する逓減が強化された。2部位目は80%、3部位目は60%での算定となる。
さらに、明細書の発行加算は、月1回10円だったものが、支払いのたびに10円という構造へと変わった。明細書には、新たに負傷名または施術部位の記載が必須になった。自分自身や家族への施術は、支給の対象外であることも明記された。
そして令和9年1月からは、患者ごとに償還払いへ移行する定量的な基準が動き出す。直近12か月のうち通算8か月以上通い、累積の新規負傷が合計9部位以上に達した患者が、その対象になる。長期にわたって多部位を請求し続ける形は、事実上、成り立たなくなる。
令和6年の改定でも、長期・頻回の受療については、後療料や罨法料、電療料が所定料金の50%相当額で算定される仕組みが拡大されていた。
以上の改定から読み取れる構造は、明快だ。基本の料金は引き上げる。しかし、制度が想定していない使い方には、容赦なく逓減をかける。
業界向けの解説でも、こう整理されている。1部位や2部位の患者に、適切な頻度で丁寧な施術を行う施術所には、プラスに働く。反対に、常に3部位以上の請求を前提とした運用を続けてきた施術所には、実質的な減収となる可能性が高い、と。
正しく請求する事業者は守り、逸脱した使い方をする事業者は淘汰する。国の意図が、料金表の設計そのものに埋め込まれている。
ここで、訪問看護に目を移す。両者には、驚くほど共通した構造がある。
第一に、公定価格で運営する事業であること。以前の記事で述べたとおり、報酬が国に決められているため、コストが上がっても価格に転嫁できない。
第二に、参入が相次ぎ、事業所数が増え続けていること。訪問看護ステーションも、この10年で大きく数を増やしてきた。
第三に、給付費の伸びが、国の目に留まっていること。給付が膨らめば、必ず適正化の議論が始まる。
第四に、小規模な事業所が大半を占めること。整骨院の倒産の98.1%が従業員10名未満だったように、訪問看護も小規模なステーションが多数を占め、体力の差が生死を分ける。
そして重要なのは、訪問看護における適正化が、すでに始まっているという事実だ。
2026年度の改定では、月2日目以降の訪問看護管理療養費が、単一建物に住む利用者の数と、1か月あたりの訪問日数の組み合わせで細分化された。単一建物の居住者が20人未満なら3,000円だが、50人以上で月の訪問日数が25日以上になると2,000円まで下がる。整骨院の多部位逓減と、発想はまったく同じだ。効率的に数を重ねるほど、単価が下がる。
介護保険では、リハビリ職の訪問回数が看護職員を上回る場合の減算が設けられ、事業所と同一の建物の利用者への減算も強化されてきた。
さらに、訪問の開始と終了の時刻を記録することが、算定の前提として明確化された。記録の不備は、返戻の対象になる。整骨院で明細書への負傷名記載が義務化されたのと、同じ方向を向いている。
一方で、機能強化型の管理療養費は引き上げられ、重症者や看取りへの評価は維持された。「基本は上げ、逸脱は削る」という構造まで、そっくりだ。
整骨院の歩みを前例として見るなら、訪問看護のこれからは、ある程度まで予測できる。
まず、量を前提としたモデルへの締めつけが、さらに進む。訪問回数や訪問日数、同一建物の比率といった指標で、逓減の網が細かくなっていく可能性が高い。
次に、記録とデータが、算定の前提として一層厳しく問われる。整骨院が負傷名の記載を求められたように、訪問看護でも、訪問の必要性を記録で証明できなければ、支払われない場面が増えていく。
そして、事業所の淘汰が進む。すでに介護事業者の倒産は過去最多を更新している。適正化が重なれば、体力のない小規模なステーションから、順に脱落していく。整骨院の倒産の8割超が売上不振だったという事実は、そのまま警告として受け取るべきだ。
ただし、決定的な違いもある。訪問看護の需要は、人口の構造によって、確実に増えていく。医師の指示に基づく医療であり、必要性を医学的に説明できる。ここが、整骨院との大きな差だ。裏を返せば、必要性を説明できない訪問は、これから確実に削られていく、ということでもある。
前例から学べる行動は、はっきりしている。
自事業所の請求の構造を、いますぐ点検すること。同一建物の利用者が占める比率、リハビリ職の訪問が占める比率、長期にわたって頻回に訪問している利用者の割合。整骨院の業界でも、自院の請求データの現状把握と、それに応じた施術計画の見直しが求められている。訪問看護でも、同じ点検が要る。
そして、量ではなく機能で収益を上げる体制へ、軸足を移していくこと。重症者への対応、看取り、専門性、地域との連携。以前の記事で述べたとおり、加算の設計は、明確にその方向を向いている。
適正化は、いつか来るかもしれない可能性ではない。すでに始まっている現実だ。整骨院の業界は、拡大し、適正化を受け、いま淘汰の局面に入っている。訪問看護も、同じ道の途上にある。違いがあるとすれば、需要が確実に伸びるという追い風を持っていることだ。その追い風を活かせるかどうかは、制度が何を評価し、何を削ろうとしているかを、正確に読めるかにかかっている。改定のたびに慌てて対応するのではなく、方向を先に読み、体制を先に整える。隣の業界で起きたことを、自らの備えに変えられるかどうか。そこに、これからの訪問看護経営の分岐点がある。