介護保険の費用は、1年で2.4%増えた。介護予防を含む訪問看護は7.5%増えた。
厚生労働省が2026年9月30日に公表した令和7年度介護給付費等実態統計の数字である。介護予防サービスと介護サービスを合わせた費用額は12兆2,208億円で、過去最大になった。前年度から2,827億円の増加だ。
報道では、費用額の上位として特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、通所介護、訪問介護が挙げられた。規模の順位で見れば、訪問看護は上位に入らない。
ただ、伸び率で並べ直すと順位が入れ替わる。
統計の表から、訪問看護に関わる部分を抜き出す。
介護サービスの訪問看護は、費用額4,353億5,700万円。前年度の4,064億3,300万円から289億2,500万円、7.1%の増加である。
介護予防訪問看護は516億100万円。前年度の463億9,600万円から52億500万円、11.2%の増加だった。
両方を合わせると約4,870億円になる。前年度は約4,528億円だから、増加額は約341億円、伸び率は7.5%である。ここからの合算と比率は、統計の数字をもとにした編集部の試算になる。
費用額全体の伸びは2.4%だった。介護予防を含む訪問看護の7.5%は、その約3.1倍にあたる。介護サービスの訪問看護だけで見ても7.1%で、約3.0倍になる。どちらの範囲で数えても、全体の3倍の速さで伸びている。
規模と伸びを並べると、位置がはっきりする。
介護予防を含む訪問看護の費用額は、全体12兆2,208億円のうち約4.0%にあたる。
一方、全体の増加額2,827億円のうち、訪問看護の増加額約341億円は約12.1%を占める。費用全体に占める割合の3倍の比率で、増加に寄与していることになる。
介護サービスの訪問看護だけに絞っても、総額に占める割合は約3.6%、増加額に占める割合は約10.2%で、関係は変わらない。
比較のために他のサービスも見ておく。訪問介護は1兆2,820億円で5.6%増、増加額は679億円で、全体の増加の約24%を占めた。通所介護は1兆3,616億円で1.7%増。特別養護老人ホームにあたる介護福祉施設サービスは2兆1,925億円で1.3%増、介護老人保健施設は1兆3,990億円で0.2%増だった。
規模の大きい施設系は伸びが小さく、在宅の訪問系が増加を引っ張っている。
訪問看護だけが突出しているわけではない。伸び率の高いサービスを並べると、共通点が見える。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護が12.1%増、介護予防訪問看護が11.2%増、介護予防居宅療養管理指導が10.3%増、居宅療養管理指導が9.7%増、看護小規模多機能型居宅介護が8.1%増、そして訪問看護が7.1%増である。
看護や医師・薬剤師などの関わる在宅サービスが、上位に並んでいる。
背景は、需要の側にある。当メディアで扱った令和8年版厚生労働白書は、2040年に向けて急性期医療の需要は減る一方、在宅医療や高齢者救急、認知症対応の需要は増えると書いていた。医療と介護の複合ニーズを持つ85歳以上の人口が増えれば、在宅で医療的な関わりを必要とする人も増える。訪問看護ステーションの数が増え続けていることも、この伸びと整合する。
一つ注意がいる。
この統計は介護保険の費用である。医療保険で提供される訪問看護は含まれていない。
末期がんや難病の人、特別訪問看護指示書が出ている期間の訪問などは、医療保険の訪問看護になる。当メディアでホスピス型住宅の大手2社への報酬返還指導を扱った際、医療保険の訪問看護の利用者は約57万人、年間費用は6千億円以上と報じられていたことを書いた。
つまり、訪問看護全体の費用は、今回の約4,870億円よりかなり大きい。そして集住型の住まいでの頻回訪問が問題になったのは、主に医療保険の側である。介護保険の7.5%増は、その議論とは別の財布の数字だ。
ここを混同すると、介護保険の訪問看護の伸びを、ホスピス型住宅の問題と同じ文脈で語ってしまう。統計の中身からは、そこまでは言えない。
それでも、伸びが速いという事実は、報酬改定の議論では一つの材料になる。
9月30日の介護給付費分科会で示された2027年度改定の基本的な視点(案)は、5つ目の視点に制度の安定性・持続可能性を置き、介護報酬の評価の適正化・重点化と、報酬体系の整理・簡素化を進めるとした。現役世代の保険料負担への懸念にも触れている。
限られた財源をどこに配分し、どこを絞るか。その判断では、費用の規模とともに伸びが見られる。
訪問看護は、収支差率でもすでに目立つ位置にいる。令和7年度の介護事業経営概況調査で10.3%、全サービス平均の4.7%の2倍以上だった。財務省は2026年4月にこの数字を挙げて適正化を求めた。そこに、費用額が全体の3倍の速さで伸びているという数字が加わる。
当メディアで障害福祉の費用が1年で12.1%増えたことを扱った際、2026年6月の期中改定で、総費用に占める割合、収支差率、事業所数の伸びという三つの基準で対象サービスが選ばれ、新規事業所の報酬が引き下げられたことを書いた。介護で同じ手法が取られるかは分からない。ただ、伸びの大きいサービスに目が向くという構図は共通している。
伸びが速いことを、すぐに過剰と読むべきではない。
日本看護協会の実態調査では、2024年度に赤字だった訪問看護事業所は27.2%、看護職員3.5人以上4人未満の層では44.7%だった。同じ調査で、介護保険の利用限度額を超えて、利用者負担や事業所の持ち出しで訪問したケースがあった事業所は12.1%ある。足りないから持ち出している事業所が1割を超える。
費用の伸びは、在宅で医療的な関わりを必要とする人が増えた結果でもある。事業所の数が増え、受け入れが広がれば、費用は増える。
問題は、伸びの中身を誰が説明するかである。重度の利用者が増えたのか、看取りが増えたのか、訪問の回数が増えたのか。統計の総額だけでは区別できない。
12月に向けて、改定の議論は具体化する。訪問看護の費用が全体の3倍の速さで伸びているという数字は、使い方によって、評価の拡充の根拠にも、適正化の根拠にもなる。どちらに使われるかは、伸びの理由を数字で示せるかどうかにかかっている。