訪問看護ベースアップ評価料を算定しているステーションには、毎年8月に果たすべき義務があります。賃金改善の状況を、地方厚生局へ報告することです。
2026年の8月は、例年と決定的に違います。提出する報告書が、2本になりました。「今年も実績報告書を1枚出せばよい」と考えていると、確実に漏れます。期限は8月31日。残された時間はわずかです。
何が変わり、何を出すのか。順に整理してお届けします。
変更の理由は、令和8年度の診療報酬改定にあります。
従来のベースアップ評価料は、算定を始める前に「賃金改善計画書」を提出し、年度が終わった8月に「賃金改善実績報告書」で結果を報告する仕組みでした。令和8年度改定で、この事前提出の計画書が廃止されます。代わりに新設されたのが「賃金改善中間報告書」です。年度の途中で取組の状況を報告してもらう形に、組み替えられました。
結果として2026年8月は、移行期特有の状態になります。前年度(令和7年度)分の実績報告と、今年度(令和8年度)分の中間報告が、同じ月に重なるのです。継続して算定しているステーションは、両方が対象になります。
具体的に確認します。
一つ目が、令和7年度算定分の賃金改善実績報告書です。前年度に受け取った評価料と、実際に行った賃金改善の実績を報告します。使用するのは改定前の旧様式で、訪問看護ステーション用の報告書様式が用意されています。評価料による収入の実績、繰越の状況、対象職員の合計と一部職種の内訳などを記載します。
二つ目が、令和8年度算定分の賃金改善中間報告書です。今年度の取組状況を報告するもので、対象となるのは賃上げの実施時期にかかわらず令和8年度の6月と7月時点の賃上げ実績です。使用するのは改定後の新様式(令和8・9年度算定分用)になります。
要注意なのが様式の使い分けです。年度が違えば様式も違います。令和7年度分に新様式を使う、あるいはその逆をやってしまうと、手戻りが生じます。厚生労働省の特設ページで【令和7年度算定分】と【令和8・9年度算定分】に分かれていますので、必ず対応する年度のファイルをダウンロードしてください。過去に保存した古いエクセルを使い回すと、計算エラーの原因にもなります。
提出にあたって、いくつか押さえておきたい点があります。
提出先は管轄の地方厚生局です。都道府県別の専用メールアドレスが用意されており、電子メールでの提出が基本になります。ファイル名の付け方も指定がありますので、様式の記載例に従ってください。
賃金改善額の考え方も確認しておきます。実績として集計するのは、ベースアップ分に加え、賞与や時間外手当の増額分、そして社会保険料の事業主負担分です。給与台帳と評価料の収入を突き合わせ、法定福利費まで含めて集計する作業になります。
充当が不足している場合の扱いもあります。受け取った評価料の収入額に賃金改善が届いていない場合でも、報告書の提出はできます。不足分は繰越として、令和8年12月までに充当する取り扱いです。数字が合わないからと提出を先延ばしにする必要はありません。
同一法人で複数の事業所を持つ場合は、年度によって扱いが異なります。令和7年度分は事業所ごと、令和8年度分は所定の条件のもとで通算が可能とされています。通算する場合も、事業所別の収入・対象職員・改善額を追える明細を必ず残してください。
この報告は、任意の協力ではありません。届出の際に提出した誓約書に明記された義務です。
未提出のまま算定を続けることは、施設基準の前提を欠くことになりかねません。当メディアで繰り返しお伝えしてきたとおり、2026年度改定は記録と報告の厳格化を明確な方向としています。訪問の開始・終了時刻の記録が算定の前提として明確化されたこととあわせて、証明できない算定は認められないという流れの中にあります。
どうしても間に合わない事情がある場合は、放置せず、管轄の地方厚生局へ早めに相談してください。連絡なしの未提出が、最も避けるべき対応です。
準備を進めるうえで、心強い資料があります。厚生労働省保険局が、実績報告書と中間報告書の提出の手引きを解説する動画を公開し、全国訪問看護事業協会が2026年8月3日に周知しました。
様式の記載例や説明資料も、厚生労働省の特設ページにまとめられています。事務作業に不慣れな小規模ステーションほど、こうした公式の資料を先に確認したほうが、結果的に早く終わります。
事務作業として面倒に感じられるかもしれません。それでも、この報告には意味があります。
ベースアップ評価料は、看護職員の賃上げのために国が用意した原資です。受け取った額が確かに職員の賃金として支払われたことを示すのが、実績報告の役割です。当メディアでお伝えしたとおり、2026年6月からは介護保険側でも処遇改善加算の対象に訪問看護が加わりました。医療保険と介護保険の両側から賃上げの原資が入る体制が整った今、それぞれに報告の義務が伴います。事務は確かに増えました。けれど原資を受け取り、確実に職員へ届け、記録で証明する。その循環こそが、次の処遇改善の議論を支える土台になります。
期限は8月31日です。まず、自ステーションが提出すべき報告書が1本か2本かを確認してください。継続して算定しているなら、答えは2本です。そのうえで、年度に対応した最新の様式を厚生労働省のページから取得し、給与台帳と評価料の収入を突き合わせる。今日から着手すれば、間に合います。