2026年6月の診療報酬改定で、訪問看護のある分野に大きな変更が入りました。高齢者向け住まいに併設・隣接する訪問看護ステーションへの評価です。
ひとことで言えば、短時間の訪問を数多く積み重ねて収益を上げるモデルが成り立ちにくくなりました。有料老人ホーム「医心館」やサンウェルズをめぐる不正請求問題を背景に、制度がこのビジネスモデルにメスを入れた形です。
何がどう変わり、それは何を意味するのか。今回はこの改定の全容を、HokanPress編集部が整理してお届けします。
まず問題の構図から整理します。
近年、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった高齢者向け住まいが急速に増えています。そして、こうした住まいに訪問看護ステーションを併設または隣接させる形が広がってきました。
この形には際立った特徴があります。移動時間がほとんどかからないのです。一つの建物に多くの入居者がいて、そこへ一日に何度も訪問できる。効率が極めて高くなります。
ここに、制度上の隙がありました。従来の訪問看護は、訪問1回ごとに評価する出来高払いが基本です。そのため、移動のいらない短時間の訪問を数多く積み重ねれば、提供するケアの密度に見合わないほどの収益を上げる余地がありました。
この隙が、収益を目的とした「囲い込み」を生みます。全国に約120か所ある「医心館」の複数のホームで併設の訪問看護をめぐる不正が指摘され、老人ホーム大手のサンウェルズでは28億円を超える不正請求が問題となりました。ホスピス型住宅を舞台にした問題が相次いで表面化したのです。厚生労働省は1件あたりの請求額が高額なステーションへの個別指導を強め、2026年1月からは全国調査に乗り出しました。そして迎えたのが、2026年6月の改定です。
改定の中身を三つに分けて見ていきます。一つ目は「同一建物」の定義の変更です。
これまで同一建物といえば、文字どおり一つの建物を指していました。そのため、同じ敷地内にA棟・B棟と分かれて建っている老人ホームなどでは、それぞれを別々にカウントできました。
今回の改定で、この扱いが変わります。同一敷地内の建物も同一建物とみなすことになりました。同じ敷地に建つA棟とB棟は合算して数えます。建物を分けて入居者の人数を分散させるという手法が、使えなくなったわけです。
二つ目は報酬単価そのものの見直しです。ここが収益モデルの根幹に関わります。
月の2日目以降に算定する訪問看護管理療養費について、従来の管理療養費1と2が統合され、施設基準の届出も不要になりました。そのうえで、訪問した日数と、単一建物に住む利用者の人数に応じて、評価が細かく分かれることになりました。
具体的に見てみましょう。単一建物の居住利用者が20人未満であれば3,010円で、従来とほぼ同額です。しかし人数が増えると単価は下がります。20人以上50人未満の場合、月の15日目までは2,510円、16日目から24日目までは2,310円、25日目以降は2,210円へと、日数が進むほど逓減します。50人以上になると、15日目まで2,410円、その後さらに下がり、25日目以降は2,010円にまでなります。
つまり、同じ建物で多くの入居者に、長い期間、頻回に訪問するほど、1件あたりの評価は下がっていく仕組みです。数を稼ぐほど効率が悪くなるように、設計が組み替えられたと言えます。
三つ目が、今回の改定を最も象徴する包括型訪問看護療養費の新設です。
これは、高齢者向け住まいに併設・隣接する訪問看護ステーションが、その住まいに住む重症の利用者に、24時間体制で計画的かつ随時の頻回訪問を行う場合に算定する療養費です。対象は、末期がんや多発性硬化症、重症筋無力症、在宅での化学療法を受けている患者など、別表第7・第8や特別訪問看護指示に該当する、ケアの必要度が高い人に限られます。
最大のポイントは評価の考え方です。従来のように訪問1回あたりで評価するのではなく、1日の合計の訪問時間に着目します。届け出た建物を1か所指定し、その建物を単位として24時間の体制で対応します。
金額を見てみましょう。単一建物の居住利用者が20人未満の場合、1日あたり、訪問看護の時間が30分以上60分未満で7,000円、60分以上90分未満で11,000円、90分以上で14,000円です。ここでも人数が増えれば単価は下がります。
この仕組みが意味することは、はっきりしています。何回訪問しても、評価されるのは1日の合計時間です。短い訪問の回数を稼ぐことに、報酬上の意味がなくなります。回数ではなく、その日に提供したケアの総量を時間で評価する。それが包括型の考え方です。
ここで、誤解しやすい点を正確に押さえておきたいと思います。
国は、頻回の訪問看護そのものを否定しているわけではありません。併設モデルには、移動の時間なく、密度の高いケアを24時間提供できるという利点が確かにあります。本当に重症の人にとって、この体制には大きな価値があります。
だからこそ、重症者への良質な24時間ケアは、包括型できちんと評価する設計になっています。否定されているのは、必要性の乏しい、数を稼ぐための頻回訪問であって、必要な頻回訪問ではありません。
現場に引きつけて言えば、問われているのはケアの中身が良いか悪いかではありません。その訪問の必要性を、記録と根拠をもって説明できるかどうかです。今回の適正化の焦点は、請求と記録と運営の整合性にあります。必要な看護を、なぜ必要なのかを示せる運営が、これから求められます。
「うちは施設に併設していないから関係のない話だ」。そう考えるのは早計かもしれません。
サービス付き高齢者向け住宅や集合住宅に訪問しているステーションは、包括型を算定しない場合でも影響を受けます。今回の改定では、包括型を使わないケースでも、基本療養費や管理療養費が、訪問日数と人数に応じて細かく減算される形に見直されたからです。
知らないうちに、同一建物の居住者に対する単価が下がっていた。そうした事態を避けるためにも、人数と日数によるカウントのルールは正確に把握しておく必要があります。
全国調査は2026年1月から進み、6月には報酬の見直しが施行されました。ホスピス型住宅を舞台にした一連の適正化は、いまも動いています。
この改定が示しているのは、訪問看護の必要性を否定することではありません。必要なケアを、必要な人に、説明できる形で届ける。そこへの回帰です。
まじめに必要な人へ必要なケアを届けてきたステーションにとって、今回の見直しはむしろ公正な評価に近づく変化とも言えます。囲い込みや数稼ぎで収益を得ていた事業者が退場すれば、健全に運営する事業所が正当に評価される余地は、その分だけ広がるからです。
大切なのは、目先の単価の増減に一喜一憂することではありません。自らが行う訪問の一つひとつについて、なぜそれが必要なのかを記録で示せる運営を、日頃から整えておくこと。制度がどう変わっても揺らがない足場は、そこにあります。