訪問看護の業界は、いま、大規模化の時代に入っている。
倒産が過去最多を更新し、人手不足と物価高が、小規模な事業所の経営を厳しく圧迫している。そうしたなかで、国は、介護事業の協働化や大規模化を促している。生き残りのために、規模を大きくする。そういう選択が、現実味を増している。
規模を拡大する、その具体的な手段として、いま改めて注目されているのが、サテライト、すなわち出張所の設置だ。指定を分割して、まったく別の事業所を新たに作るのとは違う。サテライトには、大規模化のメリットを、効率よく享受できる、いくつもの利点がある。今回は、拡大戦略としてのサテライトの実像を、メリットと注意点の両面から論じたい。
はじめに、仕組みを確認しておく。サテライトとは、主たる事業所とは別の場所に置く、出張所のことだ。
訪問看護の指定は、原則として、サービスを提供する拠点ごとに行われる。ただし、例外がある。地域の実情を踏まえ、サービス提供体制の面的な整備や、効率的な事業の実施という観点から、一定の要件を満たせば、出張所の設置が認められる。
もともとは、山間部や過疎地域で、医療ニーズのある中重度の要介護者の在宅療養を支えるために、必要とされてきた仕組みだ。近隣にサテライトを置けば、移動の時間を減らし、対応できるエリアを広げられる。この面的なカバーの発想が、いまや、大規模化の戦略へと応用されている。
サテライトの、最も大きなメリットは、本体とサテライトの実績を合算できることにある。
職員の数、利用者の数、サービスの提供件数、看取りの件数。これらを、本体とサテライトで合わせて数えられる。結果として、算定の要件が厳しい、高い報酬や加算を、取得しやすくなる。
具体例を挙げよう。機能強化型訪問看護管理療養費1は、月に1万2530円という高い管理療養費だが、その算定要件の一つに、「常勤の看護職員が7人以上」がある。小規模な事業所には、なかなか届かない要件だ。しかし、サテライトの職員数を本体に含められるため、拠点を分けて人を増やしていけば、この要件を満たせる。介護報酬の看護体制強化加算の要件となる看取りの件数なども、同じように合算できる。
職員が増えれば、24時間対応の体制も、格段に組みやすくなる。高い報酬を算定するための土台を、拠点の拡大によって築ける。ここに、サテライトを設ける最大の狙いがある。
もう一つ、見落とされがちな、しかし大きなメリットがある。報酬の単価だ。
介護報酬には地域区分があり、都市部ほど、1単位あたりの単価が高く設定されている。以前の記事で述べたとおりだ。ここで注目したいのが、サテライトが単価の低い自治体にあったとしても、報酬を算定するのは、あくまで本体の事業所だという点である。つまり、サテライトで提供したサービスにも、単価の高い本体の地域区分が適用される。
仮に、指定を分割して、別々の事業所にしていたら、どうか。それぞれの所在地の単価が適用され、このメリットは得られない。サテライトという形をとることで、都市部の高い単価を、周辺のエリアで提供するサービスにまで、及ぼせるのだ。
新しく拠点を増やそうとするとき、最大の壁になるのが、人員基準だ。ここでも、サテライトは有利に働く。
指定訪問看護ステーションは、管理者を置いたうえで、看護師を常勤換算で2.5人以上、配置しなければならない。運営が好調な事業所が、さらに出店を目指しても、この人員の配置が難しく、成長が止まってしまうことは、少なくない。
サテライトは、あくまで「出張所」という立ち位置だ。そのため、サテライト単独で、管理者を置いたり、看護師を2.5人以上そろえたりする必要はない。本体と一体で管理すれば足りる。新規の出店にあたって、人員のハードルが下がる。拡大を目指す事業所にとって、この差は、実務上、非常に大きな意味を持つ。
運営の効率という面でも、サテライトには利点がある。
請求などの事務作業を、本体に集約できる。拠点ごとに事務機能を抱えるより、はるかに効率的だ。加えて、どこかの拠点で一時的に職員が足りなくなったときに、本体とサテライトのあいだで、人員を融通しやすい。急な欠員が出ても、組織全体で、柔軟に対応できる。
メリットの大きいサテライトだが、押さえておくべき注意点も、いくつかある。
第一に、一体的な運営が、要件として厳しく問われる。利用申込みの調整や、サービス提供状況の把握、職員への技術指導が、一体的に行われること。勤務の体制や内容が一元的に管理され、必要なときに随時、相互に支援できる体制にあること。同一の運営規程を定め、人事や給与といった職員管理も、一元的に行うこと。名ばかりの一体運営では、認められない。
第二に、距離の要件だ。本体とサテライトの距離は、車での移動が20分以内など、自治体によって定められている。本体と、きちんと連携が取れる範囲でなければならない。
第三に、自治体による違いだ。サテライトの扱いは、市町村や都道府県によって条件が異なり、そもそも設置を認めていない自治体もある。原則として、他の都道府県にサテライトを置くことはできない。設置を検討するなら、まず、管轄の指定権者に確認することが欠かせない。
第四に、拠点が増えるほど、情報共有が課題になる。複数の拠点で、利用者の情報や訪問の履歴を、リアルタイムに共有する必要がある。統合された電子カルテや、クラウドのスケジュール管理の導入が、実務上、欠かせない。以前のICTの記事で述べた仕組みが、まさにここで生きてくる。
サテライトは、大規模化を、指定の分割よりも有利に進められる、優れた手段だ。高い報酬を取り、都市の単価を広げ、人員のハードルを下げ、対応するエリアを広げる。倒産が最多を更新する時代の、生き残りと成長のための、現実的な一手になる。
ただし、忘れてはならないことがある。拡大そのものは、目的ではない。規模を大きくするのは、より多くの人に、質の高い訪問看護を、安定して届け続けるためだ。拠点を増やした結果、一体的な管理が緩み、ケアの質や、職員の働きやすさが損なわれてしまっては、本末転倒である。
大規模化の波のなかで、サテライトという選択肢を、正しく理解しておく。そのうえで、自らのステーションが、なぜ、そしてどこまで大きくなるべきかを、冷静に見定める。数字と制度を味方につけながらも、拡大の先にある本来の目的を、見失わない。それが、これからの訪問看護経営に、問われている。