訪問看護は、なぜ「二つの保険」をまたぐのか——医療保険と介護保険の使い分けを、やさしく整理する|要介護認定・別表第7・特別指示書で、適用される保険は変わる

Summary
訪問看護には、ほかのサービスにない大きな特徴があります。医療保険と介護保険、二つの制度をまたいで提供されることです。同じ訪問看護でも、利用者の状態によって、どちらの保険が使われるかが変わります。要介護認定の有無、別表第7の疾病、特別訪問看護指示書、精神科——「どちらの保険になるのか」を決めるルールを、整理してお届けします。訪問看護という制度のわかりにくさの、核心にある仕組みです。
訪問看護について調べていると、必ずと言っていいほど、ある「わかりにくさ」に突き当たります。「この人は、医療保険なのか、介護保険なのか」という問題です。
訪問看護には、ほかの多くのサービスにはない、大きな特徴があります。医療保険と介護保険という、二つの公的な保険制度をまたいで提供される、という点です。同じ訪問看護師が、同じように家を訪ねてケアをしても、利用する方の状態によって、使われる保険が変わる。ここが、訪問看護という制度を、少し複雑にしています。
今回は、この「二つの保険の使い分け」を、できるだけやさしく整理してお届けします。訪問看護を利用する方にとっても、この分野で働く方にとっても、押さえておきたい、制度の核心にある仕組みです。
なぜ、訪問看護は二つの保険をまたぐのでしょうか
まず、なぜこんな複雑なことになっているのか、という背景からお話しします。
訪問看護が届けるのは、在宅での医療的なケアです。しかし、その対象となる方は、実にさまざまです。介護が必要な高齢の方もいれば、末期がんや神経難病の方、精神疾患を抱える方、そして医療的ケアが必要な子どもたちもいます。
日本の公的保険制度では、高齢者の介護を支える仕組みは介護保険が、病気やけがの治療を支える仕組みは医療保険が担っています。訪問看護は、その両方の領域にまたがるサービスであるため、利用する方の状態に応じて、どちらの保険で提供するのが適切かが、変わってくるのです。この二重性こそが、訪問看護の制度をわかりにくくしている、いちばんの理由です。
基本の原則 — 要介護認定があるかどうか
複雑に見える使い分けですが、まず押さえるべき原則は、とてもシンプルです。
基本は、「要介護・要支援の認定を受けているかどうか」で決まります。
要介護・要支援の認定を受けている方は、原則として、介護保険が優先されます。一方、要介護認定を受けていない方は、医療保険の対象となります。また、そもそも介護保険の対象ではない40歳未満の方も、医療保険が適用されます。
まずは、この「認定があれば介護保険、なければ医療保険」という大原則を、頭に置いてください。多くのケースは、この原則で判断できます。
ただし、訪問看護の使い分けが少しやっかいなのは、この原則に、いくつかの重要な「例外」があるからです。要介護認定を受けていても、医療保険が優先されるケースがある。ここからは、その例外を、一つずつ見ていきます。
例外① 別表第7の疾病 — 状態が重い場合
一つ目の例外は、「別表第7」と呼ばれる疾病に該当する場合です。
別表第7とは、正式には、厚生労働大臣が定める疾病等の一覧のことです。ここには、末期の悪性腫瘍(末期がん)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、重症筋無力症、パーキンソン病関連疾患、脊髄小脳変性症など、およそ20の疾病が挙げられています。
この別表第7に該当する方は、たとえ要介護認定を受けていても、介護保険ではなく、医療保険による訪問看護が優先されます。
なぜでしょうか。これらの疾病は、いずれも医療的なケアの必要度が高く、より手厚い訪問看護が必要になるものだからです。医療保険による訪問看護では、通常は週3回までとされている訪問回数の制限が、こうした場合には緩和され、状態に応じて頻回の訪問が可能になります。制度は、医療ニーズの高い状態には、医療保険でしっかり対応できるように、設計されているのです。


