電子カルテ100%時代に、訪問看護は「医療機関ではない」——それでも、この流れの外にはいられない|2030年へ進む標準型電子カルテと情報共有基盤で、訪問看護は最大の受益者にも、取り残される側にもなる

Summary
2025年12月の医療法改正で、2030年末までに電子カルテの普及率をほぼ100%にすることが法律に明記されました。国は標準型電子カルテを2026年度中に完成させ、全国の医療情報を一つの基盤でつなごうとしています。これは病院・診療所の話であり、訪問看護ステーションは「医療機関」ではありません。しかし、訪問看護はこの流れの外にはいられない——最大の受益者にも、取り残される側にもなりうるのです。その理由と、経営者が備えるべきことを論じます。
2025年12月5日、医療法などの一部を改正する法律が成立した。その中に、医療DXの推進として、注目すべき一文が盛り込まれている。2030年12月31日までに、電子カルテの普及率を、ほぼ100%にする。この目標が、法律に明記されたのだ。
国は、この目標に向けて、「標準型電子カルテ」を2026年度中に完成させ、全国の医療情報を、一つの基盤の上でつなごうとしている。医療のあり方を根本から変える、大きな地殻変動が始まっている。
ただし、これは病院や診療所の話だ。訪問看護ステーションは、法律上、「医療機関」ではない。だから、この電子カルテの普及目標や、標準型電子カルテの、直接の対象ではない。「では、訪問看護には関係のない話か」と言えば、まったくそうではない。むしろ訪問看護は、この流れの中で、最も大きな恩恵を受けられる立場であると同時に、最も取り残されやすい立場でもある。本稿では、その理由と、経営者がいま備えるべきことを論じたい。
国が法律で決めた「2030年、電子カルテほぼ100%」
まず、いま国が進めていることを、正確に押さえておく。
前述のとおり、2025年12月に成立した改正法で、2030年末までに電子カルテの普及率をほぼ100%にすることが、明記された。関連する資料では、診療所で8割以上、医療機関全体で9割以上、といった目標も示されている。これは、単に紙のカルテを電子に置き換える、という話ではない。全国の医療情報を共有できる基盤を築くための、その土台としての電子カルテ、という位置づけである。
この普及を後押しする中核が、「標準型電子カルテ」だ。これは、国が機能やセキュリティの要件、そして共通のデータ形式を定めた、統一仕様の電子カルテである。仕様がばらばらでは、システム同士で情報を交換できない。だから、規格を揃える。標準型電子カルテは、そのための取り組みだ。
具体的な動きも進んでいる。標準型電子カルテのα版は、2025年3月から、電子カルテを導入していない医科診療所を対象に、モデル事業が始まっている。2026年3月31日には、厚生労働省が、中小病院向けと医科診療所向けの標準仕様書の1.0版を公表した。病院については標準仕様に民間製品が準拠する形で、診療所については国が用意する標準型電子カルテで、それぞれ標準化を進める。医療DXは、「制度を検討する段階」から、「実際に製品を選び、導入する段階」へと移りつつある。
目的は、「情報がつながる」ことにある
ここで、医療DXの核心を押さえておきたい。それは、電子化そのものではなく、情報がつながることにある。
これまで、患者の医療に関する情報は、医療機関、薬局、介護事業所、自治体などが、それぞれ個別に保存・管理してきた。いわば、情報が、あちこちに孤立して存在する「データのサイロ化」の状態だった。国が構築しようとしている「全国医療情報プラットフォーム」は、この孤立した情報を集約し、共有するための基盤である。オンライン資格確認、電子処方箋、そして電子カルテ情報共有サービス。これらが、その基盤を構成する。
とりわけ重要なのが、電子カルテ情報共有サービスだ。これは、全国の医療機関や薬局で、患者の診療情報を電子的に共有する仕組みで、2025年度中の本格稼働が目指されている。共有されるのは、健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリーという3つの文書と、傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方という6つの情報だ。


