訪問看護
2040年問題と訪問看護|厚労省検討会が示す看護職員の養成・確保の未来と業界が直視すべき長期課題
(更新: )·約16分で読めます
Summary
厚生労働省で「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」と「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」が始まりました。2040年は高齢者人口がピークを迎え、医療・介護需要が最大化する一方で、労働力人口は減少する「2040年問題」の節目です。訪問看護業界はこの長期課題にどう向き合うべきか、HokanPress編集部が整理しました。
日本社会が直面する最大の構造問題が「2040年問題」です。
2040年は、団塊ジュニア世代(1971〜1974年生まれ)が65歳以上の高齢者となり、高齢者人口がピークを迎える年です。85歳以上の超高齢者層が急増し、医療・介護需要が最大化する一方で、現役世代の労働力人口は急速に減少する——日本社会全体の持続可能性が問われる節目の年として、政策・経済・医療のあらゆる領域で議論が進められています。
訪問看護業界も、この2040年問題から無縁ではありません。むしろ、地域医療の最前線として、最も大きな影響を受ける業界の一つです。看護師の絶対数不足、地域偏在、専門性の高度化、多職種連携の深化——これらすべてが、2040年に向けて急速に課題化しています。
こうした中、厚生労働省では「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」と「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」が始動しました。日本看護協会の機関紙でも取り上げられているこれらの検討会は、2040年に向けた看護師確保の議論の中核となるものです。
本記事では、2040年問題の構造、訪問看護業界への影響、厚労省検討会の議論の方向性、そして業界が今から準備すべき長期戦略について、HokanPress編集部が整理します。「3年後」「5年後」を超えた「15年後」を見据える視点が、これからの業界関係者に求められます。
なお、本記事に記載する内容は、現在進行中の議論の整理であり、確定情報ではありません。最新の情報は、厚生労働省・日本看護協会等の公式発表でご確認ください。
2040年問題の基本構造
まず、2040年問題の基本構造を整理します。
2040年に何が起きるか
2040年は、日本社会の構造的転換点として位置づけられています。
2040年の主な構造変化:
- 高齢者人口のピーク(約3,920万人と推計)
- 85歳以上人口の急増
- 団塊ジュニア世代の高齢化
- 現役世代人口の急速な減少
- 認知症高齢者の増加
これらが同時進行することで、社会全体の構造が大きく変化します。
医療・介護需要の最大化
2040年は、医療・介護需要が最大化する時期です。
需要拡大の構造:
- 入院医療需要の継続的増加
- 在宅医療需要の急増
- 看取り需要の最大化
- 認知症ケア需要の拡大
- 多疾患併存への対応
「いま以上」の医療・介護提供体制が、社会的に求められる時代です。
労働力人口の減少
一方、労働力人口は急速に減少します。
労働力減少の構造:
生産年齢人口(15〜64歳)の継続的減少医療・介護分野での人材不足看護師確保の構造的困難地域偏在の深刻化国際的人材獲得競争「需要増加」と「供給減少」の両面から、医療・介護システムが圧迫される構造です。
社会保障費の増大
社会保障費の増大も、2040年問題の重要な側面です。
- 医療費の継続的増加
- 介護費の急速拡大
- 年金給付の維持
- 現役世代の負担増
- 持続可能な制度設計の困難
「社会保障の持続可能性」そのものが、政策の最重要課題となっています。
地域格差の拡大
- 都市部と地方の医療資源格差
- 中山間地域・離島の医療提供困難
- 過疎地域での看護師不足
- 都市部での需要集中
- 地方の医療機関減少
「地域差」が、2040年に向けてさらに拡大する見通しです。
訪問看護業界への影響
2040年問題は、訪問看護業界に大きな影響を及ぼします。
影響1: 需要の急速な拡大
訪問看護需要は、2040年に向けて急速に拡大します。
- 在宅医療への政策的シフト
- 病院倒産・縮小による在宅シフト加速
- 看取り需要の最大化
- 多疾患併存利用者の増加
- 認知症ケア需要の拡大
「需要が増えるのに人材は減る」という構造的矛盾が、業界に突きつけられています。
影響2: 看護師確保の構造的困難
看護師確保は、2040年に向けて構造的困難が深刻化します。
- 看護師全体の絶対数不足
- 訪問看護経験者の希少化
- ベテラン看護師の引退
- 新規入職者の限定的増加
- 採用コストの継続的高騰
「人材確保」が、業界の最大の経営課題として固定化します。
影響3: 地域偏在の深刻化
- 都市部への看護師集中
- 地方・過疎地での看護師不足
- 中山間地域での提供困難
- 離島での体制維持困難
- 地域包括ケアの地域差
「住む地域によって受けられる訪問看護の質が変わる」という事態が、現実化する可能性があります。
影響4: 専門性の高度化要求
訪問看護に求められる専門性は、急速に高度化します。
- 医療依存度の高い利用者への対応
- 看取り期の医療技術
- 認知症ケアの専門性
- 精神科訪問看護の充実
- ICT・AIの活用能力
「現在の専門性」だけでは、2040年の業務に対応できない可能性があります。
影響5: 経営の持続可能性への圧迫
- 人件費の継続的上昇
- 看護師確保コストの高騰
- 業務負担の増大
- 制度的支援の限界
- 業界の二極化加速
「経営できる訪問看護ステーション」と「できないステーション」の差が、2040年に向けて固定化していく見通しです。
厚労省検討会の議論の方向性
ここから、厚労省で始まった検討会の議論の方向性を整理します。
「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」
この検討会は、2040年問題への直接的対応として始動しました。
- 看護師養成体制の見直し
- 看護師確保策の強化
- 多様な働き方の推進
- 専門性向上の体系化
- 地域偏在への対応
業界団体・教育機関・行政・関係者が参加し、長期的な視点での議論が進められます。
「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」
並行して、医療関係職種全体の養成・確保を議論する検討会も始まっています。
- 看護師
- 医師
- 薬剤師
- リハビリ職
- その他医療関係職種
「看護師単独」ではなく「医療関係職種全体」の視点での議論が、特徴です。
議論の主要論点
- 看護師基礎教育の高度化
- 准看護師制度の見直し
- 多様な就業形態への対応
- 看護師の社会的地位向上
- 国際的な人材交流
「短期的な対応」だけでなく「長期的な制度設計」が議論の中心となります。
看護師基礎教育の高度化
- 大学4年制看護教育への一本化
- 大学院教育の充実
- 専門性の体系化
- 国際標準への対応
- 多職種教育との連携
「看護師教育のレベルアップ」が、業界全体の質的向上に直結します。
准看護師制度の見直し
- 高等学校衛生看護科での准看護師養成停止
- 既存准看護師のキャリア継続支援
- 看護師への移行促進
- 制度的整合性の確保
- 段階的な見直し
日本看護協会は継続的に「准看護師養成の停止」を要望しており、この議論が本格化する可能性があります。
訪問看護業界への政策的含意
検討会の議論が、訪問看護業界にどのような政策的含意を持つかも整理します。
含意1: 訪問看護への重点配分
2040年に向けて、訪問看護への政策的重点配分が予想されます。
- 在宅医療体制への財政支援
- 訪問看護師確保策の強化
- 機能強化型への評価充実
- 多職種連携の制度的支援
- ICT・DXへの投資
「地域医療の中核」としての訪問看護への政策的位置づけが、強化される方向性です。
含意2: 専門性評価の体系化
- 認定看護師の養成拡大
- 専門看護師の充実
- 特定行為研修の普及
- 教育機関の整備
- 業界団体との連携
「学べる看護師」「学んだ看護師が評価される」業界へ、確実に進化する方向性です。
含意3: 多様な働き方の制度化
- 短時間勤務制度の充実
- 直行直帰制度の標準化
- リモートワークの活用
- 副業・兼業の容認
- ライフステージへの配慮
「柔軟な働き方」を選択できる業界へ、制度面での支援が進む見通しです。
含意4: 国際的な人材活用
- 外国人看護師の受け入れ
- EPA協定の活用
- 国際看護学会との連携
- 多文化看護の推進
- 日本モデルの国際発信
「日本国内だけ」ではなく「国際的視点」での人材戦略が、議論されています。
含意5: 地域包括ケアの深化
- 多職種連携の制度化
- 地域医療構想との整合
- 在宅医療体制の整備
- 看取り体制の充実
- 認知症対応の強化
「単独職種」ではなく「地域全体」での体制構築が、進められます。
訪問看護経営者が今から準備すべき長期戦略
2040年問題への対応として、経営者が今から準備すべき長期戦略を整理します。
戦略1: 機能強化型の早期取得
機能強化型訪問看護管理療養費の早期取得は、2040年への基本戦略です。
- 経営基盤の安定化
- 看護師確保の競争力
- 専門性の体系的発揮
- 連携先からの評価
- 2027年改定での評価強化への対応
「機能強化型を取得しているか」が、2040年への生存の前提条件となる見通しです。
戦略2: 看護師の長期育成
- 認定看護師の養成
- 専門看護師の養成
- 特定行為研修修了者の養成
- 管理職層の育成
- 後継者育成
「採用」だけでなく「育成」への投資が、長期的な経営基盤を支えます。
戦略3: ICT・DX投資の本格化
ICT・DX投資の本格化も、2040年への必須戦略です。
- 訪問看護記録システム
- ケアプランデータ連携システム
- D to P with N対応環境
- AI支援ツール
- セキュリティ対策
「ICT投資できない事業所は2040年に存続できない」可能性が高い構造です。
戦略4: 多職種統合型への進化
- 看多機への展開
- 訪問介護との連携
- 訪問薬剤師との協働
- 訪問リハビリとの連携
- 法人内多職種統合
「訪問看護単独」から「多職種統合型」への進化が、業界の長期方向性です。
戦略5: 地域での位置づけ確立
- 地域包括ケアでの中核機能
- 連携先関係の戦略的構築
- 地域住民への認知向上
- 自治体との関係構築
- 業界団体での発言力
「地域に必要とされる訪問看護」としての位置づけ確立が、2040年への生存条件です。
看護師個人としての長期キャリア戦略
看護師個人としての2040年への長期キャリア戦略も整理します。
戦略1: 専門資格の段階的取得
専門資格の段階的取得は、長期キャリアの基本戦略です。
- 看護師経験5年で認定看護師を検討
- 経験10年以上で専門看護師を検討
- 特定行為研修の早期受講
- 認知症ケア専門士等の関連資格
- 継続的な学習
「2040年に向けて、自分の専門性を体系的に高める」視点が、キャリアの軸となります。
戦略2: 多様な経験の積み上げ
多様な経験の積み上げも、長期キャリアの強みとなります。
- 病棟・訪問看護の両方
- 専門領域の経験
- 管理職経験
- 教育・研究経験
- 多職種連携経験
「単一の経験」ではなく「多様な経験」が、2040年の業界での価値を高めます。
戦略3: ICTスキルの継続的向上
- 訪問看護記録システムの活用
- ケアプランデータ連携の理解
- D to P with Nへの対応
- AI支援ツールの使いこなし
- データ分析の基礎
「ICTを使える看護師」と「使えない看護師」の差が、2040年に向けて拡大します。
戦略4: ライフステージとの調和
ライフステージとの調和も、長期キャリアの重要要素です。
- 結婚・出産・育児との両立
- 親・配偶者の介護との両立
- 自身の健康管理
- セカンドキャリアの準備
- 老後の生活設計
「仕事だけの人生」ではなく「人生全体の中の仕事」として、キャリアを設計する視点が大切です。
戦略5: 業界全体への参加
- 業界団体への加入
- 政策提言への参加
- メディアでの発信
- 学会・研究会への参加
- 後進への指導
「業界の一員」として活動することが、自分自身のキャリアと業界全体の発展の両方を支えます。
業界全体への展望
2040年問題への対応の中で、訪問看護業界全体への展望も整理します。
展望1: 業界の質的レベルアップ
業界全体の質的レベルアップが、2040年に向けて進みます。
- 機能強化型ステーションの拡大
- 専門特化型の確立
- 多職種統合型の進展
- ICT・DXの本格普及
- 国際標準への対応
「2026年の業界」と「2040年の業界」は、大きく異なる姿となる見通しです。
展望2: 集約化と多様化の同時進行
- 大規模法人グループの形成
- 専門特化型の細分化
- M&Aの活発化
- 投資ファンドの参入
- 地域連携モデルの確立
「業界の構造」そのものが、2040年に向けて再編成される見通しです。
展望3: 看護師の社会的地位向上
- メディアでの注目継続
- 行政での重視
- 国民の認知拡大
- 専門性の評価
- 国際的な認知
「看護師という仕事の社会的価値」が、2040年に向けて確立される方向性です。
展望4: 国際的な日本モデルの発信
- 高齢化先進国としてのモデル
- 在宅医療の世界的事例
- 看取り文化の発信
- 多職種連携の標準化
- 国際看護学会での発表
「日本の訪問看護」が、世界の高齢化社会のモデルとなる可能性が広がっています。
展望5: 訪問看護の社会的価値の確立
最終的に、訪問看護の社会的価値が確立される展望です。
- 地域医療の中核機能
- 日本の医療制度の支柱
- 看取り文化の担い手
- 高齢化社会のインフラ
- 国際的な信頼
「訪問看護がなければ日本の医療は成立しない」という社会的認知が、2040年に向けて確立されていく見通しです。
経営者・看護師として持つべき視点
2040年問題に向き合う経営者・看護師として、持つべき視点を整理します。
視点1: 長期視点の重要性
長期視点の重要性は、これからの最も重要な視点です。
- 3年・5年・10年・15年後を見通す
- 業界全体の動向を踏まえる
- 国際的な視点
- 社会構造の変化
- 制度の長期方向性
「目の前の数字」だけでなく「長期的な方向性」を見る視点が、経営とキャリアの質を高めます。
視点2: 業界全体への参画
- 業界団体への加入と活動
- 政策提言への参加
- グッドプラクティスの共有
- メディアでの発信
- 後進への指導
「業界の未来を作る一員」としての自覚が、これからの業界関係者に求められます。
視点3: 制度動向の継続的把握
- 厚生労働省の公式発表
- 業界団体の発信
- 業界メディアの記事
- 同業者ネットワーク
- 専門家からの情報
「決まってから対応」ではなく「決まる前から把握」が、経営とキャリアの差別化を生みます。
視点4: 投資と回収の長期視点
- 看護師教育への投資
- ICT・DXへの投資
- 機能強化型取得への投資
- ブランド構築への投資
- 関係構築への投資
「短期的なコスト」を「長期的な投資」として捉え直す視点が、これからの経営とキャリアを支えます。
視点5: 訪問看護の本質への確信
- 利用者・家族への深い貢献
- 地域社会への不可欠な役割
- 看護師の専門性の発揮
- 日本の医療の支柱
- 国際的な価値
「制度の細部」に翻弄されず、「訪問看護の本質的価値」を信じる姿勢が、長い時代を生き抜く基盤となります。
まとめ
2040年問題は、日本社会全体の構造的転換期であり、訪問看護業界にとって最大の長期課題です。高齢者人口のピーク、医療・介護需要の最大化、労働力人口の減少、社会保障費の増大、地域格差の拡大——5つの構造変化が、業界に大きな影響を及ぼします。
訪問看護業界への影響として、需要の急速な拡大、看護師確保の構造的困難、地域偏在の深刻化、専門性の高度化要求、経営の持続可能性への圧迫——5つの影響が、業界の前提を変えていきます。
厚生労働省の「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」が始動し、看護師基礎教育の高度化、准看護師制度の見直し、多様な働き方の制度化、国際的な人材活用、地域包括ケアの深化——5つの方向性で議論が進められています。
経営者が今から準備すべき長期戦略として、機能強化型の早期取得、看護師の長期育成、ICT・DX投資の本格化、多職種統合型への進化、地域での位置づけ確立——5つの戦略を、自ステーションの実情に応じて着実に進めることが求められます。
看護師個人としての長期キャリア戦略として、専門資格の段階的取得、多様な経験の積み上げ、ICTスキルの継続的向上、ライフステージとの調和、業界全体への参加——5つの戦略で、2040年に向けた自分自身のキャリアを設計することが大切です。
業界全体への展望として、質的レベルアップ、集約化と多様化の同時進行、看護師の社会的地位向上、国際的な日本モデルの発信、訪問看護の社会的価値の確立——5つの展望が、業界の未来を方向づけます。
経営者・看護師として、長期視点の重要性、業界全体への参画、制度動向の継続的把握、投資と回収の長期視点、訪問看護の本質への確信——5つの視点を持って、2040年に向けた業界の発展に貢献していくことが、これからの時代に求められる本質的な姿勢です。
「3年後の経営」「5年後のキャリア」を超えて、「15年後の業界」を見据える視点が、これからの訪問看護関係者に求められます。2040年は遠い未来ではなく、今からの15年で確実に到来する現実です。今日からの一歩一歩の積み重ねが、2040年の業界と自分自身を作っていきます。
なお、本記事に記載した内容は、現在進行中の検討会議論の整理であり、確定情報ではありません。最新の情報は、厚生労働省、公益社団法人日本看護協会、一般社団法人全国訪問看護事業協会、公益財団法人日本訪問看護財団等の公式発表でご確認ください。HokanPress編集部では、訪問看護業界の長期的なテーマについて、引き続き発信してまいります。
執筆者
HokanPress編集部
医療・看護・介護の多職種チーム
訪問看護・在宅医療の現場に携わる多職種チーム
HokanPress編集部は、訪問看護・在宅医療の現場に実際に携わる多職種チームで構成されています。看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)が所属。それぞれの専門分野で培った臨床経験と専門知識をもとに、医療・看護・介護従事者の実務に役立つ情報を発信しています。記事は必ず該当分野の有資格者が執筆または監修し、公的統計データや学会発表・厚生労働省の公表資料など、信頼性の高い情報源に基づいて作成しています。
保有資格: 看護師 / 理学療法士 / 作業療法士 / 言語聴覚士 / 医療ソーシャルワーカー / 管理栄養士 / 介護支援専門員
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています