2026年4月24日、厚生労働省保険局医療課から地方厚生局医療課宛に重要な事務連絡が発出された。タイトルは「令和8年度診療報酬改定におけるベースアップ評価料に係る届出について」。一見地味な事務連絡だが、内容を読み込むと、訪問看護ステーション経営者にとって極めて重要な実務対応が求められていることが分かる。
私自身、この連絡を確認した時に思わず手が止まった。現在ベースアップ評価料を算定している自ステーションも含めて、6月1日までに必ず再届出を行わなければならない。届出を怠れば、6月以降のベースアップ評価料は一切算定できない。月数十万円から100万円超の収益を失うインパクトとなる。
本記事では、4月24日の事務連絡の要点と、経営者として今すぐ取るべき対応を整理する。
4月24日事務連絡の要点
事務連絡の内容を整理すると、以下の3点に集約される。
1. すべてのベースアップ評価料算定者に再届出義務
これまでベースアップ評価料を算定していたかどうかに関わらず、6月1日以降も継続して算定する場合、施設基準の届出を6月1日までに改めて行う必要がある。
これは単純な「継続意思の確認」ではない。施設基準において求められる内容が令和8年度改定で変更されているため、改めて新基準への適合を確認・届出する必要があるという意味だ。
2. 届出受付期間は5月7日から6月1日まで
具体的な届出期間は以下のとおり設定されている。
- 受付開始: 5月7日(木)
- 受付期限: 6月1日(月)必着
- 提出先: 各地方厚生局(都道府県事務所)
実質的に、ゴールデンウィーク明けから1か月弱の期間しかない。事務作業に追われる5月の繁忙期に、この届出を確実にこなす必要がある。
3. 届出を怠った場合の影響
届出を怠った場合、6月1日以降のベースアップ評価料は算定不可となる。これは単なる事務的なミスでは済まない経営インパクトを生む。
仮に、訪問看護ベースアップ評価料(I)で月5万円、評価料(II)で月15万円を算定しているステーションが届出を忘れた場合、月20万円、年間240万円の収益が消失する計算となる。中小ステーションにとっては死活問題だ。
訪問看護ステーション向けの届出様式
訪問看護ステーションが用意すべき届出様式は、状況によって異なる。
パターン1: 評価料(I)のみを算定する場合
- 必要様式: 別紙様式11(I)専用
- 簡易版様式が用意されており、記入項目は限定的
パターン2: 評価料(I)と(II)の両方を算定する場合
- 必要様式: 別紙様式11(I)、別紙様式11(II)、別添1(賃金改善計画書)
- 賃金改善計画の詳細記載が必要
パターン3: これまで算定していなかったステーション
- 6月以降に新規算定する場合
- 必要様式: 評価料(I)用、評価料(I)・(II)併用なら(II)用も
- 賃金改善計画の新規策定が必須
具体的な様式は、厚生労働省ホームページの「令和8年度診療報酬改定について」のページからダウンロード可能となっている。
今すぐ着手すべき5つのアクション
5月7日の受付開始まで残り1週間ほどだ。経営者として今日から動き出すべきアクションを整理する。
アクション1: 自ステーションの算定状況の確認
まず、現在自ステーションが算定しているベースアップ評価料の種類を正確に把握する。
確認項目:
- 訪問看護ベースアップ評価料(I)を算定しているか
- 訪問看護ベースアップ評価料(II)を算定しているか
- 月の算定額の実績はいくらか
- 過去1年間の算定実績の推移
これらを把握しないまま届出に進むと、必要書類の判断を誤る可能性がある。
アクション2: 賃金改善計画の見直し
評価料(II)を算定している、または6月から算定開始する場合、賃金改善計画書の作成・更新が必要となる。
計画書に記載すべき項目:
- 対象職員の現在の賃金水準
- 賃上げの実施方法(基本給アップ、手当新設等)
- 賃上げ実施時期
- 賃金改善後の総額見込み
- 評価料収入の試算
特に評価料(II)では、改善基準の正確な計算が求められる。厚生労働省が公開している「ベースアップ評価料計算支援ツール」を活用することが推奨される。
アクション3: 届出様式のダウンロードと記入
厚生労働省ホームページから該当する届出様式をダウンロードする。
ダウンロード先: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
記入時の注意点:
- 記載例を必ず参照する
- 数値の根拠資料を別途準備する
- 押印・署名の必要箇所を見落とさない
- 提出前に複数人でダブルチェック
アクション4: 提出方法の選択
提出方法は2通りある。
メールでの提出
- 各都道府県ごとに専用メールアドレスが設定されている
- 推奨される提出方法
- Excelファイルをそのまま添付
書面での提出
- メールアドレスを有しない事業所等
- 郵送または窓口持参
- 余裕を持ったスケジュールで対応
メール提出の方が、受領確認が迅速で安心だ。
アクション5: スタッフへの説明
ベースアップ評価料の届出は、単なる事務作業ではない。職員の賃金改善を実施する制度である以上、対象職員への説明責任が伴う。
説明すべき内容:
- 評価料の趣旨
- 自ステーションの賃金改善計画の内容
- いつから賃上げが実施されるか
- 自身の賃金がどう変わるか
職員への説明を怠ると、後々のトラブルの原因となる。届出と並行して、説明会の開催や個別面談を計画したい。
5月の繁忙期と重なる届出スケジュール
5月7日からの届出受付期間は、訪問看護ステーション経営者にとって他の業務と重なる繁忙期でもある。
5月の主な業務スケジュール
- 4月分のレセプト請求(5月10日締切)
- ゴールデンウィーク中の利用者対応
- 春の人事異動関連業務
- 6月施行の各種改定への対応準備
- ベースアップ評価料の届出(本記事の本題)
これらが集中する月に、新たな届出業務が加わる構造だ。経営者一人で抱え込まず、事務職員、管理者、外部の顧問税理士・社会保険労務士などと協力して進めることが現実的な対応となる。
中小ステーションへの影響
特に影響が大きいのは、看護師数5名未満の小規模ステーションだ。
小規模ステーションの課題
- 事務作業を担当する人員が限定的
- 経営者自身が現場業務にも従事
- 賃金計算・労務管理の専門知識が不足
- 顧問税理士・社労士を持たない事業所も多い
このような状況下で、複雑な届出業務を確実に完了させるには、外部支援の活用が現実的だ。
利用可能な外部支援
- 顧問税理士・社会保険労務士
- 訪問看護支援サービス会社(カイポケ、iBow、ケアテック等)
- 全国訪問看護事業協会の相談窓口
- 各都道府県看護協会のサポート
これらに早期に相談することで、届出漏れのリスクを大きく減らせる。
6月1日施行までのタイムライン
5月7日の受付開始から、6月1日の改定施行まで、経営者が押さえておくべきタイムラインを整理する。
4月29日(本日)〜5月6日
- 自ステーションの算定状況の整理
- 必要書類の確認
- 賃金改善計画の素案作成
- 外部支援者への相談アポ
5月7日(届出受付開始)〜5月15日
- 届出様式の入手
- 記入と内部確認
- スタッフへの説明会実施
- メール提出
5月16日〜5月31日
- 提出忘れ・記入漏れの最終確認
- 6月施行に向けた他の準備(D to P with N、包括型療養費等)
- 万一の差戻し対応
6月1日(改定施行)
- 新点数での算定開始
- ベースアップ評価料の算定継続
- 賃上げの実施
このタイムラインから逆算すると、ゴールデンウィーク中も準備を止められない構造となる。
訪問看護ベースアップ評価料の改定後の点数
参考までに、改定後のベースアップ評価料の点数を整理しておく。
訪問看護ベースアップ評価料(I)
- 月1回 1,050円(改定前780円から引き上げ)
- 訪問看護管理療養費(月初訪問)を算定する利用者1人につき月1回算定
訪問看護ベースアップ評価料(II)
- 18区分から36区分へ拡大
- 算定額: 30円〜1,080円(最大1,580円)
- ステーションの賃上げ実績に応じてきめ細かく区分される構造へ
評価料(II)の36区分化により、自ステーションの賃金改善実績に最も合致する区分を選択することが可能となった。これにより、申請の精度が経営収益に直結する構造となっている。
関連する5月15日までの他の届出
ベースアップ評価料以外にも、5月中に対応すべき届出が複数ある。
- 機能強化型訪問看護管理療養費(1〜4型)
- 包括型訪問看護療養費(新設)
- 訪問看護遠隔診療補助料(D to P with N、新設)
- 24時間対応体制加算
- 訪問看護医療DX情報活用加算
これらをまとめて5月中に処理する必要がある。経営者として、複数の届出を並行管理する体制を整えることが急務だ。
今すぐ確認できる厚労省の公式情報
最後に、経営者が直接アクセスすべき厚生労働省の公式情報を整理しておく。
主な情報源
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」のページ
- 厚生労働省「ベースアップ評価料等についての特設ページ」
- 各地方厚生局のホームページ(届出方法・連絡先)
- 全国訪問看護事業協会の改定まとめページ
これらを定期的にチェックすることで、追加の事務連絡や様式変更にも対応できる体制を整えたい。
まとめ
4月24日の厚生労働省事務連絡は、訪問看護ステーション経営者に対して、6月1日までの再届出という重要な実務対応を求めるものとなった。現在ベースアップ評価料を算定している事業所も、6月以降も継続するためには改めて届出が必要となる点が、最大のポイントだ。
5月7日からの届出受付期間は、ゴールデンウィーク明けの1か月弱しかない。経営者として、本日から準備を始めても決して早すぎることはない。むしろ、繁忙期と重なる5月を考えれば、4月中の準備こそが届出を確実に完了させる鍵となる。
ベースアップ評価料は、看護師・医療従事者の賃金改善を支える重要な制度である。届出を確実に行い、職員の処遇改善を継続することが、結果としてステーションの人材定着と経営安定につながる。
今日から動き出していただきたい。