訪問看護ステーション数の頭打ちと淘汰時代の到来|「成長業界」幻想が終わり経営者が直視すべき構造的変化 | HokanPress訪問看護
訪問看護ステーション数の頭打ちと淘汰時代の到来|「成長業界」幻想が終わり経営者が直視すべき構造的変化
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Summary
訪問看護ステーション数は急増を続けてきましたが、近年は廃業・休止数も同時に増加し、「成長業界」という認識が揺らぎ始めています。2025年の介護事業者倒産176件という過去最多の数字、新規開業の約4割が1年以内に廃止・休止する業界の現実、機能強化型と通常型の二極化加速——複数の構造的変化が、訪問看護経営の前提を変えつつあります。
訪問看護ステーション数の急増が、業界の成長を象徴する指標として長く語られてきました。しかし、この単純な成長ストーリーは、近年明確に揺らぎ始めています。
開設数の増加と並行して、廃業・休止する事業所数も増加しています。2025年の介護事業者倒産が176件と過去最多に達したことは、業界の経営環境の厳しさを象徴する数字です。新規開業の約4割が1年以内に廃止・休止となる業界の現実、看護師求人倍率10年ぶりの高水準、2026年改定での処遇改善加算1.8%の限定性、業界の二極化加速——これらすべてが連動し、訪問看護業界は「成長業界」から「淘汰時代」への構造転換期を迎えています。
「ステーション数が増えているから業界は安泰」「需要が拡大しているから何とかなる」——こうした楽観論が、現場の経営者を最も危険な落とし穴に導く可能性があります。本記事では、訪問看護ステーション数の頭打ちと淘汰時代の構造、経営者が直視すべき5つの不都合な現実、そしてこの構造変化の中で生き残るための判断軸を整理します。
「成長業界」幻想の構造
まず、なぜ「訪問看護は成長業界」という認識が広まったのか、その構造を整理します。
成長を支えてきた要因
訪問看護業界が「成長業界」と認識されてきた要因は、複数あります。
成長要因:
- 高齢化の継続的進展
- 在宅医療への政策シフト
- ステーション数の急増
- 利用者数の継続的増加
- 業界全体の社会的認知向上
これらが、「需要拡大が続く成長業界」という認識を支えてきました。
統計が示してきた成長
統計データも、業界の成長を裏付けてきました。
成長を示す指標:
- 訪問看護ステーション数の年々増加
- 利用者数の継続的拡大
- 訪問看護師の就業者数増加
- 国の医療・介護政策での重要性向上
- 業界関連市場の拡大
これらの指標が、「成長業界」という認識を補強してきました。
「成長」の影に隠れた現実
しかし、「成長」の数字の影に、深刻な現実が隠れていました。
隠れていた現実:
- 開設数と並行する廃業・休止数
- 新規開業の早期撤退
- 中小ステーションの経営難
- 看護師確保の構造的困難
- 不適切運営事業者の存在
これらが、「成長業界」の単純なストーリーでは説明できない構造です。
楽観論の危険性
「成長業界だから何とかなる」という楽観論は、最も危険な経営判断につながります。
- 経営の質的向上への怠慢
- 採用・定着への投資不足
- 制度変更への対応遅れ
- ICT・DX投資の遅れ
- 撤退判断の遅延
「業界全体が成長していても、自ステーションが生き残れるとは限らない」という認識が、これからの経営者には不可欠です。
業界の質的転換期
- 「成長」から「淘汰」へ
- 「量的拡大」から「質的向上」へ
- 「参入機会」から「生存競争」へ
- 「成長業界」から「成熟業界」へ
- 「楽観」から「戦略」へ
この転換を直視できるかどうかが、これからの経営者の分岐点となります。
経営者が直視すべき5つの不都合な現実
ここから、訪問看護経営者が直視すべき5つの不都合な現実を整理します。
現実1: 新規開業の約4割が1年以内に廃止・休止
- 新規開業ステーションの約4割が1年以内に廃止・休止との指摘
- 3年以内の廃業率はさらに高い
- 開業ブームの裏で続く撤退
- 倒産件数の継続的増加
- 「開業すれば成功する」という幻想の崩壊
「成長業界」の数字の裏で、これだけの撤退が発生している現実があります。
現実2: 介護事業者倒産176件の過去最多更新
2025年の介護事業者倒産176件は、業界の経営環境の厳しさを示す決定的な数字です。
- 過去最多の倒産件数
- 業界全体の経営難
- 中小事業者の淘汰加速
- 物価高騰と人件費上昇の同時圧迫
- 経営者の高齢化と後継者不在
現実3: 看護師確保の構造的困難
看護師求人倍率10年ぶりの高水準が示す、看護師確保の構造的困難。
- 看護師の絶対数不足
- 訪問看護経験者の希少性
- 採用コストの高騰(年収の20〜30%)
- 採用後の早期離職リスク
- 給与水準の競争激化
「採用できないから縮小・撤退」という構造が、業界で発生しています。
現実4: 処遇改善の限定性
2026年改定の処遇改善加算1.8%は、看護師の処遇改善ニーズに対して明確に限定的です。
- 訪問介護への最大28.7%との大きな差
- 看護師白書での66.8%の給与不満
- 適正水準として30%以上の引き上げ要望
- 加算1.8%だけでは離職連鎖を止められない
- 構造的な処遇改善の不足
「制度に頼れば何とかなる」という発想の限界が、明確に示されています。
現実5: 業界の二極化と淘汰の同時進行
- 機能強化型ステーションへの人材・利用者集中
- 通常型・中小ステーションの淘汰
- 大手法人グループの形成
- 投資ファンドの参入
- M&Aの活発化
「業界平均」では捉えられない、構造的な格差拡大が進んでいます。
ステーション数の頭打ち局面
訪問看護ステーション数の頭打ち局面も、整理します。
急成長期の終焉
訪問看護ステーション数の急成長期は、明確に終焉に向かっています。
- 新規開設数の伸び鈍化
- 廃業・休止数の継続的増加
- 純増数の縮小傾向
- 中小事業者の参入鈍化
- 投資ファンド主導のM&A中心化
地域による偏在
- 都市部の過剰参入
- 地方・過疎地の不足
- 中山間地域・離島での課題
- 競合密度による経営難
- 連携先関係の競争激化
「需要があるのに事業所がない地域」と「事業所が密集して競合する地域」の二極化が進んでいます。
規模別の動向
- 大規模事業所: M&A・新規開設による拡大継続
- 中規模事業所: 経営判断による進化と淘汰の分岐
- 小規模事業所: 廃業・休止リスクの増大
- 新規開設: 慎重化と参入障壁上昇
「規模が経営の安定性を左右する」構造が、明確化しています。
経営者の高齢化問題
- 開業ブームの第一世代の引退期
- 後継者不在の事業所増加
- M&Aによる事業承継の増加
- 廃業・休止判断の増加
- 経営の質的バラつき
「経営者の世代交代」が、業界の構造変化を加速させています。
質的競争の本格化
- 機能強化型の取得状況
- 専門領域の差別化
- ICT・DXの導入度
- 看護師確保力
- 連携先関係の質
「数で勝負」の時代から「質で勝負」の時代への転換が、進行中です。
淘汰時代の構造的要因
訪問看護業界の淘汰時代を生む構造的要因を、整理します。
要因1: 人件費の継続的上昇
- 看護師確保競争による給与上昇
- 物価高騰に応じた賃上げ要求
- 介護職員との給与差縮小
- 採用コストの高騰
- 退職時の引継ぎコスト
人件費が売上の75〜80%を占める訪問看護では、人件費上昇が直接的な経営圧迫となります。
要因2: 物価高騰の継続的圧迫
- 訪問用車両のガソリン代
- 医療材料・消耗品費
- 光熱費
- 通信費
- 一般物価の影響
2026年改定の物価対応料(月60円・2日目以降20円)では、構造的な物価圧迫に対応しきれません。
要因3: 制度変更への対応負担
制度変更への対応負担も、中小事業者を圧迫しています。
- 制度・加算の複雑化
- 訪問看護記録の精緻化
- レセプトシステムの継続更新
- 行政手続きの増加
- スタッフ教育の継続
「制度変更だけで経営者の時間が消える」状況が、現実となっています。
要因4: ICT・DX投資の必要性
ICT・DX投資の必要性も、業界全体に拡大しています。
- 訪問看護記録システム
- ケアプランデータ連携システム
- D to P with N対応環境
- セキュリティ対策
- AIによる業務支援
「ICT投資できない事業所は競争力を失う」構造が、確立しつつあります。
要因5: 連携先関係の競争激化
- ケアマネジャーの「選ぶ目」の厳しさ
- 連携病院の評価軸の精緻化
- 訪問診療医との関係構築
- 地域包括ケアでの位置づけ
- ブランド力競争
「連携先からの選好」が、経営の生命線となっています。
業界の二極化が加速する
淘汰時代と並行して、業界の二極化が加速しています。
勝ち組ステーションの特徴
業界の勝ち組ステーションには、共通の特徴があります。
- 機能強化型の取得・維持
- 競争力のある給与水準
- 充実した教育・研修体制
- ICT・DX投資の継続
- 連携先関係の強さ
- 安定したブランド力
- 後継者の準備
これらを満たすステーションは、淘汰時代でも安定した経営基盤を持ちます。
負け組ステーションの特徴
- 通常型のままの停滞
- 給与水準の地域以下
- 教育体制の不備
- ICT遅れ
- 連携先関係の希薄化
- ブランド力の弱さ
- 経営者の現場業務過多
これらに該当するステーションは、淘汰のリスクが極めて高い構造です。
二極化の加速メカニズム
二極化が加速する構造的メカニズムも、整理しておきます。
- 勝ち組ステーションへの人材集中
- 利用者・連携先からの選好集中
- 収益力の差による投資余力の差
- 経営の質的差の拡大再生産
- 業界での発言力の差
このメカニズムが回り続ければ、業界の構造は固定化されていきます。
中間層の縮小
- 「勝ち組」へのキャッチアップか撤退かの選択
- 中途半端な経営の生存困難
- M&Aによる吸収
- 段階的な縮小・廃業
- 業界全体の集約化
「中間で生き残る」選択肢が、明確に狭まっています。
業界全体への影響
- 地域医療提供体制への影響
- 質の高いサービスの集中
- 看護師の選択肢の限定
- 利用者の選択肢の限定
- 業界の信頼性確保
「業界の発展」と「個別事業所の生存」が、必ずしも一致しない構造です。
経営者が今直視すべき5つの問い
淘汰時代に向き合う経営者として、今直視すべき5つの問いを整理します。
問い1: 自ステーションは「勝ち組」か「負け組」か
- 機能強化型の取得状況
- 給与水準の競争力
- 看護師の定着率
- 連携先関係の質
- ICT・DXの導入度
- 経営者の業務配分
5つの項目すべてで「勝ち組」の特徴に該当しているか、率直に評価する必要があります。
問い2: 3年後の自ステーションは存在しているか
- 経営の持続可能性
- 看護師確保の見通し
- 連携先関係の継続性
- 制度変更への対応力
- 経営者の継続意向
「3年後も今と同じ規模で運営している」イメージが具体的に描けるかどうか、自問する必要があります。
問い3: 撤退判断の基準を持っているか
- 連続赤字の年数
- 看護師確保の困難度
- 機能強化型要件の維持可否
- スタッフからの信頼度
- 利用者・連携先からの評価
- 経営者の心身状態
「撤退も視野に入れた経営計画」が、健全な経営の前提です。
問い4: 後継者の準備はできているか
- 後継者の特定
- 引き継ぎ計画
- 経営の標準化
- 文書化と体系化
- M&Aの選択肢
「いつかは考える」ではなく「具体的に何年後を目標とするか」が重要です。
問い5: スタッフ・利用者・地域への責任は果たせているか
- スタッフへの適正処遇
- 利用者への質の高いケア
- 地域医療への貢献
- 業界全体への責任
- 自身の人生への責任
「経営の数字」だけでなく「経営の意義」を確認する問いが、これからの経営者には必要です。
淘汰時代を生き抜く5つの戦略
戦略1: 機能強化型の取得・維持
最優先の戦略が、機能強化型訪問看護管理療養費の取得・維持です。
- Type 1取得を目指すロードマップ
- 看護師数・経験年数の確保
- 24時間対応体制の充実
- ターミナルケア実績の積み上げ
- 連携病院との関係深化
戦略2: 看護師処遇の戦略的改善
- 給与水準の地域競争力確保
- 諸手当の充実
- キャリアパスの整備
- 多様な働き方の支援
- 教育研修への投資
「処遇改善はコストではなく投資」という認識が、淘汰時代を生き抜く前提です。
戦略3: ICT・DXによる業務革新
- 訪問看護記録システム
- ケアプランデータ連携システム
- D to P with N対応環境
- AI支援ツール
- セキュリティ対策
戦略4: 連携先関係の戦略的強化
- 主要連携先への定期訪問
- 連携先別の関係管理
- 多職種カンファレンスへの参加
- 退院時共同指導の実施
- 地域内勉強会の主催
戦略5: 撤退・M&Aも視野に入れた戦略
最後に、撤退・M&Aも視野に入れた戦略の重要性です。
- 単独経営の継続
- M&Aによる売却
- 法人グループへの参画
- 段階的縮小
- 撤退
「撤退も正当な経営判断」という認識が、健全な経営の前提です。
業界全体の未来への視点
短期(2026年〜2028年): 淘汰の加速期
- 倒産・廃業件数の継続的増加
- M&Aの活発化
- 機能強化型への集中
- 中小事業者の淘汰
- 業界の二極化加速
「淘汰の波」を乗り越えることが、短期的な経営の最重要課題です。
中期(2028年〜2030年): 質的転換期
- 大規模法人グループの形成
- 専門特化型ステーションの確立
- 看護師処遇の改善継続
- ICT・DXの本格普及
- 業界の質的向上
「淘汰の後」に何が残るかが、中期的な業界の姿を決めます。
長期(2030年以降): 新しい業界像
- 集約化された業界構造
- 質の高いサービス提供
- 看護師の社会的地位向上
- 国際的な日本モデル
- 持続可能性の確保
「淘汰の後の業界」で、どう位置づけられるかが、これからの経営者の戦略です。
業界全体への責任
最後に、業界全体への責任という視点も忘れてはなりません。
- 適正運営の実践
- グッドプラクティスの共有
- 業界団体への参加
- 後進への指導
- 業界の信頼向上
「自ステーションだけ生き残れば良い」ではなく「業界全体の発展に貢献する」姿勢が、経営者の成熟です。
訪問看護の社会的価値
業界の構造変化の中でも、訪問看護の社会的価値は揺らぎません。
- 在宅医療の中核
- 地域社会のインフラ
- 看取りの支援
- ご家族の希望の実現
- 日本の医療の未来
この社会的価値を守り続けることが、業界の本質的な目的です。
まとめ
訪問看護業界は、「成長業界」から「淘汰時代」への明確な構造転換期を迎えています。新規開業の約4割が1年以内に廃止・休止、2025年の介護事業者倒産176件の過去最多、看護師確保の構造的困難、処遇改善の限定性、業界の二極化加速——5つの不都合な現実が、業界の前提を変えつつあります。
ステーション数の急成長期は終焉に向かい、規模別・地域別の動向、経営者の高齢化、質的競争の本格化が、業界の構造変化を加速させています。人件費の継続的上昇、物価高騰、制度変更対応負担、ICT・DX投資の必要性、連携先関係の競争激化——5つの構造的要因が、淘汰時代を生む基盤です。
業界の二極化と淘汰の同時進行により、勝ち組ステーションと負け組ステーションの差が拡大し、中間層が縮小する構造が確立しつつあります。経営者として今直視すべき5つの問い(現在地、3年後の存続、撤退基準、後継者準備、責任の遂行)に正直に向き合うことが、これからの経営の出発点となります。
淘汰時代を生き抜く5つの戦略(機能強化型の取得・維持、看護師処遇の戦略的改善、ICT・DXによる業務革新、連携先関係の戦略的強化、撤退・M&Aも視野に入れた戦略)を、自ステーションの実情に応じて選択・実行することが、生存の前提です。
業界全体としては、短期の淘汰加速期、中期の質的転換期、長期の新しい業界像という流れの中で、訪問看護の社会的価値を守り続けることが、業界の本質的な目的です。
「成長業界だから何とかなる」という楽観論は、もはや成立しません。淘汰時代を直視し、戦略的に対応することが、これからの訪問看護経営者に求められる本質的な能力です。「自ステーションが3年後・5年後も存在しているか」——この問いに具体的に答えられる経営が、淘汰時代を生き抜く唯一の道です。
HokanPressでは、訪問看護経営の本質的なテーマについて、引き続き率直な発信を続けてまいります。
#訪問看護#廃業#淘汰#経営難#業界の構造変化#倒産#ステーション数#二極化
執筆者
宮木
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています