訪問看護
病院倒産71件過去最多が訪問看護に突きつける現実|地域医療崩壊期に訪問看護はどうあるべきか
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Summary
2025年度の医療機関倒産71件・過去20年で最多、病院の約7割・公立病院の約8割が赤字——東京商工リサーチと厚生労働省のデータが示す日本の医療機関の崩壊期は、訪問看護業界に何を突きつけているか。連携先病院の経営難、医療空白地帯の拡大、患者の地域回帰——訪問看護はこの時代をどう生き、どう貢献すべきか。事実ベースで考察します。
東京商工リサーチが2026年4月18日に発表したデータが、日本の医療現場に衝撃を与えています。2025年度の医療機関倒産は71件で過去20年最多を更新、病院・クリニック・歯科医院の倒産・休廃業合計は帝国データバンクの集計で717件に達し、こちらも過去最多です。
さらに深刻なのは赤字法人の構造的拡大です。厚生労働省「第25回医療経済実態調査」では一般病院の約7割、クリニックの約4割が赤字。総務省「令和6年度地方公営企業等決算」では公立病院の約8割が赤字という衝撃的なデータが示されました。20床以上の地域医療を担う病院の倒産も2025年で12件と前年比1.7倍に急増し、2010年以来15年ぶりに10件を超えています。
「病院の倒産は私たちと関係ない」「自ステーションは別の話」——こうした認識を持っていられる時代ではなくなりました。訪問看護は、連携病院、退院支援、在宅医療体制、利用者の医療アクセスのすべてにおいて、病院との関係性の上に成立しています。地域の中核病院が消えれば、訪問看護の経営基盤そのものが揺らぎます。
本記事では、医療機関倒産過去最多が訪問看護に突きつける現実、地域医療崩壊期における訪問看護の役割、そしてこの時代を生き抜くために業界が直視すべき5つの課題と進むべき方向性を、事実ベースで考察します。
医療機関倒産が過去最多の現実
まず、検証可能な数字で、医療機関倒産の現実を整理します。
2025年度の倒産71件の衝撃
東京商工リサーチが2026年4月18日に発表したデータは、医療機関の経営危機を明確に示しています。
検証可能な数字:
- 2025年度の医療機関倒産: 71件(過去20年で最多更新)
- 2024年度比: 20.3%増(前年度59件)
- 2025年(暦年)の病院・クリニック倒産: 41件(過去20年で2番目)
- 業態別: クリニック32件、歯科医院31件、病院8件(いずれも高水準)
- 形態別: 破産が69件で全体の97.1%
「再建型の民事再生は2件のみ」という事実が、経営不振に陥った医療機関の再建困難さを物語っています。
病院の倒産1.7倍増の意味
20床以上の入院設備を持つ病院の倒産が、明確に増加しています。
病院倒産の構造:
- 2025年の病院倒産: 12件(前年比1.7倍)
- 2010年以来15年ぶりの10件超
- 中堅規模病院での倒産が目立つ
- 従業員50人以上300人未満が10件(前年5件)
- 従業員300人以上も2件発生
地域医療の中核を担う中堅病院の倒産は、地域の医療提供体制を揺るがす深刻な事態です。
約7割の病院が赤字
倒産は氷山の一角に過ぎません。赤字状態の病院は遥かに広範囲に及んでいます。
赤字病院の構造:
- 一般病院の約7割が赤字(厚労省第25回医療経済実態調査)
- クリニックの約4割が赤字
- 公立病院の約8割が赤字(総務省令和6年度地方公営企業等決算)
- 全国6,266法人の病院のうち約半数(48.2%)が赤字決算(東京商工リサーチ)
「倒産していないだけ」の病院が、業界の大半を占めている構造です。
倒産の原因
医療機関倒産の原因は、構造的な要因の積み重ねです。
- 物価高騰の継続的圧迫
- 人件費の上昇
- 診療報酬の追いつかなさ
- 看護師・医師の人手不足
- 医療設備の老朽化
- 経営者の高齢化と後継者不在
- コロナ関連支援終了の影響
これらは、訪問看護業界が直面している経営圧迫要因と、構造的に共通しています。
「医療・福祉事業」全体での過去最多
医療機関だけでなく、医療・福祉事業全体でも倒産が過去最多です。
- 2025年度の「医療・福祉事業」倒産: 478件(バブル経済以降38年間で最多)
- 介護事業者倒産も176件で過去最多
- 訪問介護の倒産も増加(85件超)
- 介護福祉インフラ全体の底割れ
「医療と介護の同時崩壊」が、現実の問題として進行中です。
訪問看護に突きつけられる5つの現実
医療機関倒産過去最多は、訪問看護業界に何を突きつけているのか。5つの現実を整理します。
現実1: 連携病院の経営難
- 退院支援の質的変化
- 看護師の引き抜き競争
- 連携プロセスの混乱
- 紹介経路の不安定化
- 急変時の受け入れ先の不確実性
連携病院が経営難に陥れば、訪問看護の運営基盤も揺らぎます。
現実2: 医療空白地帯の拡大
医療機関の倒産・廃業は、医療空白地帯の拡大を生みます。
- 地方・過疎地での医療機関撤退
- 中山間地域での医療アクセス困難
- 訪問診療医の不在地域の増加
- 急性期医療への遠距離アクセス
- 在宅医療の単独運営困難
「訪問看護はあるが訪問診療医がいない地域」が、現実の問題として拡大しています。
現実3: 患者の地域回帰
- 入院機会の減少
- 早期退院の促進
- 在宅医療への移行加速
- 家族介護の負担増
- 医療依存度の高い在宅患者の増加
訪問看護需要が「望まれて」ではなく「他に選択肢がなくて」増加する構造です。
現実4: 看護師確保競争の激化
病院の経営難は、看護師確保競争の激化にもつながります。
- 病院での処遇改善競争
- 訪問看護からの病院復帰
- 給与水準の上昇圧力
- 採用コストの高騰
- 専門性ある看護師の希少化
「病院がリストラ→訪問看護に流入」という単純な構造ではなく、複雑な人材移動が発生しています。
現実5: 制度全体の不確実性増大
医療機関の倒産過去最多は、制度全体の不確実性も増大させています。
- 2027年改定への議論の複雑化
- 診療報酬・介護報酬の同時改定議論
- 医療提供体制の見直し圧力
- 地域医療構想の見直し
- 持続可能な制度設計の困難
「制度に頼れば何とかなる」という発想の限界が、明確に示されています。
地域医療崩壊期における訪問看護の役割
医療機関倒産が過去最多という地域医療崩壊期において、訪問看護にはどんな役割が求められるのか。
役割1: 地域医療の最後の砦
訪問看護は、地域医療の「最後の砦」としての役割を強化することが期待されます。
- 病院に行けない患者の支援
- 退院後の在宅生活の継続
- ターミナルケアの担い手
- 急変時の初期対応
- ご家族の介護負担軽減
「病院に代わる」のではなく「病院がなくても地域医療が成立する」体制の中核が、訪問看護です。
役割2: 在宅医療の中核
在宅医療体制の中核としての役割も、強化される方向性です。
- 訪問診療医との連携
- 訪問薬剤師との協働
- ケアマネジャーとの連携
- 多職種チームの調整
- 利用者・家族への総合的支援
「単独サービス」から「在宅医療チームの中核」への進化が求められます。
役割3: 地域包括ケアシステムでの存在感
地域包括ケアシステムにおける訪問看護の存在感も、急速に高まっています。
- 医療と介護の架け橋
- 重症化予防の最前線
- 看取りの支援
- 認知症ケアの担い手
- 地域の医療資源の有効活用
「縁の下の力持ち」から「地域医療の主役の一人」への位置づけ転換が、業界の方向性です。
役割4: 高度な専門性の発揮
地域医療崩壊期には、訪問看護の高度な専門性の発揮が求められます。
- 特定行為研修修了者の活用
- 認定看護師・専門看護師の配置
- ICT・AI支援による業務革新
- 多職種連携の高度化
- 地域への教育・指導機能
「誰でもできる訪問看護」ではなく「専門性ある訪問看護」が、業界の差別化要因となります。
役割5: 地域社会への貢献
最後に、地域社会全体への貢献という役割も、強化される方向性です。
- 地域の健康増進
- 認知症カフェ等の地域活動
- 災害時の医療支援
- 教育・啓発活動
- 地域コミュニティとの関わり
「事業所」から「地域社会の一員」への意識転換が、これからの訪問看護に求められます。
訪問看護業界が直視すべき5つの課題
地域医療崩壊期に向き合う訪問看護業界として、直視すべき5つの課題を整理します。
課題1: 自らの経営の持続可能性
- 機能強化型の取得・維持
- 看護師処遇の戦略的改善
- ICT・DX投資の継続
- 連携先関係の戦略的強化
- 経営の数字に基づく管理
「他者を支援する以前に、自らが持続可能でなければならない」という当然の前提を、改めて確認する必要があります。
課題2: 看護師確保の構造的困難への対応
- 給与水準の競争力確保
- 多様な働き方の支援
- 教育・研修への投資
- ブランド力の構築
- リファラル採用の強化
「採用できる訪問看護」と「採用できない訪問看護」の差が、生存の分岐点となります。
課題3: 連携先関係の戦略的構築
- 複数の連携病院との関係
- 訪問診療医との関係強化
- ケアマネジャーとの関係
- 地域包括センターとの関係
- 業界団体への参加
「特定の連携先依存」のリスクを認識し、複数の連携網を構築する戦略が求められます。
課題4: 専門性の体系的向上
- 認定看護師の養成
- 専門看護師の養成
- 特定行為研修修了者の養成
- 認知症ケア専門士等の関連資格
- 多職種連携能力の向上
「資格を持つ訪問看護師」が、地域医療崩壊期の希望の光となります。
課題5: 業界全体の信頼確保
- 適正な事業運営
- 不正請求事案の根絶
- 業界団体の役割強化
- 透明性のある情報公開
- 業界外への発信
サンウェルズ事件以降の業界の信頼回復が、これからの重要なテーマです。
業界が進むべき5つの方向性
地域医療崩壊期において、訪問看護業界が進むべき5つの方向性を整理します。
方向性1: 量的拡大から質的向上へ
最も大きな方向転換が、量的拡大から質的向上へのシフトです。
- 機能強化型の取得・拡大
- 専門領域の深化
- ICT・DXの本格普及
- 教育研修体制の整備
- アウトカム評価の確立
「ステーション数の増加」ではなく「サービスの質の向上」が、業界の発展指標となります。
方向性2: 多職種統合型への進化
- 看多機への展開
- 訪問介護との連携
- 訪問薬局との連携
- 訪問リハビリテーションとの連携
- 多職種事業の統合運営
「訪問看護単独」から「多職種統合型在宅医療」への進化が、業界の競争力を支えます。
方向性3: ICT・DXの本格活用
- 訪問看護記録のICT化
- ケアプランデータ連携システム
- D to P with Nの本格展開
- AI支援ツールの活用
- セキュリティ対策の徹底
「ICT投資できない事業所は競争力を失う」時代が、明確に到来しています。
方向性4: 地域への能動的関与
- 地域包括ケアでの中核機能
- 地域活動への参加
- 災害時の支援体制
- 教育・啓発活動
- 行政との連携強化
「事業所内に閉じる」のではなく「地域に開く」訪問看護が、これからの姿です。
方向性5: 業界としての発信力強化
最後に、業界としての発信力強化も、進むべき方向性です。
- 業界団体の発言力
- メディアでの情報発信
- 政策提言への参加
- 国際的な交流
- 後進への影響
「現場の声」が、政策決定の場に届く業界へ、進化していく必要があります。
経営者として直視すべき5つの問い
地域医療崩壊期に経営者として直視すべき5つの問いを整理します。
問い1: 連携病院への依存度
- 主要連携病院の数
- 紹介件数の分布
- 依存度の高い連携先の経営状況
- 代替連携先の有無
- 連携先関係の質
「特定病院への依存」のリスクを、認識する必要があります。
問い2: 自ステーションの地域での位置づけ
自ステーションの地域での位置づけも、直視すべき問いです。
- 地域での認知度
- 連携先からの評価
- 利用者・家族からの評価
- 同業他社との差別化
- 業界内でのポジション
「地域に必要とされる訪問看護」かどうかが、生存の鍵です。
問い3: 経営の持続可能性
- 月次キャッシュフロー
- 看護師確保の見通し
- 利用者数の安定性
- 加算取得の状況
- 投資余力
「3年後の自ステーション」が具体的にイメージできるかどうかが、問われます。
問い4: 業界全体への貢献
- グッドプラクティスの共有
- 業界団体への参加
- 後進への指導
- 地域貢献活動
- 政策提言への協力
「自ステーションだけ」ではなく「業界全体の発展」を意識する姿勢が、これからの経営者には求められます。
問い5: 訪問看護の社会的意義
- 利用者・家族にとっての価値
- 地域社会にとっての価値
- 日本の医療制度にとっての価値
- 看護師の専門性にとっての価値
- 自分自身にとっての価値
「なぜ訪問看護を続けるのか」という根本的な問いに、改めて向き合う必要があります。
業界の未来への希望
ここまで厳しい現実を整理してきましたが、業界の未来への希望もあります。
希望1: 訪問看護の社会的価値の上昇
地域医療崩壊期にこそ、訪問看護の社会的価値が上昇します。
- 病院に頼れない地域での重要性
- 在宅医療の中核機能
- 看取りの最前線
- 地域包括ケアの主役の一人
- 日本の医療の未来を支える存在
「地域医療崩壊」は、訪問看護にとって「機会」でもあります。
希望2: 制度的支援の継続
- 2026年改定での評価強化
- 2027年改定への期待
- 看護師の処遇改善
- 多様な働き方の推進
- 業界団体の継続的活動
業界全体としての制度改善への流れは、明確に続いています。
希望3: 看護師の社会的地位向上
- メディアでの注目
- 行政での重視
- 国民の認知向上
- 専門性の評価
- 国際的な認知
「看護師という仕事を選んで良かった」と思える業界へ、確実に進化しています。
希望4: ICT・DXによる業務革新
- 業務効率化
- 質の標準化
- 多職種連携の深化
- データ活用による経営精度向上
- スタッフ負担の軽減
ICT・DXは、業界の構造的課題を解決する強力なツールです。
希望5: 業界全体の質的向上
- 不適切運営事業者の淘汰
- 適正運営事業者への評価
- 機能強化型ステーションの拡大
- 専門特化型の確立
- 多職種統合型の進展
「淘汰」と「向上」が同時並行で進むことで、業界の質的レベルが底上げされます。
まとめ
東京商工リサーチが発表した2025年度の医療機関倒産71件・過去20年最多、病院・クリニック・歯科医院の倒産・休廃業合計717件(帝国データバンク)、一般病院の約7割・公立病院の約8割が赤字という現実は、日本の医療提供体制の崩壊期を象徴する数字です。
訪問看護に突きつけられる5つの現実(連携病院の経営難、医療空白地帯の拡大、患者の地域回帰、看護師確保競争の激化、制度全体の不確実性増大)を直視することが、業界の出発点となります。
地域医療崩壊期における訪問看護の役割として、地域医療の最後の砦、在宅医療の中核、地域包括ケアシステムでの存在感、高度な専門性の発揮、地域社会への貢献——5つの役割を果たすことが、業界の社会的使命です。
業界が直視すべき5つの課題(経営の持続可能性、看護師確保、連携先関係の戦略的構築、専門性の体系的向上、業界全体の信頼確保)に着実に取り組むことが、生存の前提となります。
業界が進むべき5つの方向性(質的向上、多職種統合型、ICT・DX本格活用、地域への能動的関与、業界としての発信力強化)を、自ステーションの実情に応じて選択・実行することが、これからの経営の指針です。
経営者として直視すべき5つの問い(連携病院への依存度、地域での位置づけ、経営の持続可能性、業界全体への貢献、訪問看護の社会的意義)に正直に向き合うことが、地域医療崩壊期の経営の出発点となります。
そして、業界の未来への希望として、訪問看護の社会的価値の上昇、制度的支援の継続、看護師の社会的地位向上、ICT・DXによる業務革新、業界全体の質的向上——5つの希望が、業界の前進を支えます。
地域医療の崩壊期は、訪問看護にとって最大の試練であり、同時に最大の機会でもあります。「病院がなくなる地域に、訪問看護はあるか」「医療空白地帯で、訪問看護は何ができるか」「在宅医療の中核として、訪問看護はどう進化するか」——これらの問いに、業界として、経営者として、看護師個人として、答えを出していくことが、これからの時代に求められる本質的な使命です。
なお、本記事に記載した倒産件数・赤字割合等のデータは、東京商工リサーチ(2026年4月18日発表)、帝国データバンク(2026年1月23日発表)、厚生労働省「第25回医療経済実態調査」、総務省「令和6年度地方公営企業等決算」等の公表資料に基づくものです。最新の状況は、各機関の公式発表でご確認ください。
HokanPressでは、訪問看護経営の本質的なテーマについて、引き続き率直な発信を続けてまいります。
#病院倒産#医療機関#地域医療#訪問看護#経営難#業界の役割#在宅医療#医療崩壊
執筆者
宮木
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています