看護
2025年介護事業者倒産176件で過去最多|訪問看護ステーション経営者が読み解く構造変化
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Summary
東京商工リサーチが発表した2025年の介護事業者倒産は176件で、2年連続の過去最多更新となった。訪問介護は91件と3年連続最多で、訪問看護ステーションの経営にも警鐘を鳴らす数字である。倒産の構造的要因と、2026年改定で加速する大規模化の流れ、訪問看護経営者が今読み解くべきメッセージを整理する。
東京商工リサーチが発表した2025年の介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産件数は176件となり、2年連続で過去最多を更新した。コロナ禍前の2019年(111件)と比べて約6割増という深刻な数字だ。中でも訪問介護は91件で、3年連続の最多更新。訪問系サービスの経営難が業界全体に広がっている実態が浮き彫りになった。
訪問看護ステーションは訪問介護とは制度上区別されるが、現場感覚として「訪問系サービス」として一括りに見られる側面がある。実際、訪問看護ステーションの廃業率も高水準で推移しており、訪問介護の倒産動向は決して他人事ではない。
私自身、訪問看護ステーション経営者として10年余り運営してきたが、近年の経営環境の変化はかつてないペースで進んでいる。今回の倒産統計から読み取るべきメッセージと、訪問看護経営者として今取るべき対応を整理したい。
2025年倒産統計の全体像
東京商工リサーチの公開データから、まず全体像を確認する。
2025年の介護事業者倒産176件の内訳
業種別の内訳は以下のとおりとなった。
訪問介護: 91件(前年81件、3年連続最多更新)
通所・短期入所: 45件(前年56件、減少も高水準)
有料老人ホーム: 16件(前年18件、減少も2番目の高水準)
認知症老人グループホーム: 9件(前年2件、急増)
その他: 15件
訪問介護の突出は、業界の構造的問題を象徴している。次いで認知症グループホームの急増が目立つ。これは住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅との競争激化が背景にある。
倒産事業者の特徴
倒産した事業者の規模を見ると、以下のような傾向が明確である。
資本金1,000万円未満: 全体の86.6%
従業員10人未満: 全体の83.4%
負債1億円未満: 全体の78.6%
つまり、倒産しているのは圧倒的に小規模事業者である。大手事業者の効率化と、過小資本の小規模事業者の淘汰という二極化が進んでいる構造だ。
倒産原因
倒産原因の分析では以下が報告されている。
販売不振(売上不振): 79.5%(140件)
人手不足倒産: 29件(前年比45.0%増、過去最多)
求人難倒産: 15件
形態別では破産が90.9%(160件)
販売不振と人手不足が、倒産の二大要因となっている。
なぜ訪問介護で倒産が突出するのか
訪問介護で倒産が突出する背景には、複数の構造的要因が重なっている。
要因1: 2024年介護報酬マイナス改定の影響
2024年4月施行の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬が2%程度引き下げられた。これは訪問介護事業者に深刻な打撃となった。
報酬単価の引き下げは、固定費を吸収できないギリギリの収支で運営してきた事業者を直撃する。利益率が3%程度しかなかった事業者にとって、2%の単価引き下げは壊滅的な影響となる。
要因2: ヘルパー不足の慢性化
訪問介護ヘルパーの平均年齢は60歳を超える状況が続いている。新規就業者の確保が困難で、現役ヘルパーの引退・離職が事業継続を直接圧迫している。
求人を出しても応募がない。たまに応募があっても、年齢的に長期勤務が見込めない。こうした構造が、訪問介護の最大の経営リスクとなっている。
要因3: 燃料費・運営コストの上昇
訪問介護はガソリン代、車両維持費、施設賃料、ICTシステム費用など、運営コストの上昇を価格転嫁できない構造にある。介護報酬は公定価格のため、コスト上昇分を利用者に請求することは不可能だ。
物価高が続く中、固定費の上昇圧力だけが強まる構造となっている。
要因4: 大手事業者との競争激化
訪問介護業界では、大手事業者がスケールメリットを生かした効率化を進めている。一方、小規模事業者は規模の経済が働かず、サービスの質と価格の両面で大手に対抗するのが難しい状況だ。
地域内で大手事業者の参入があった場合、小規模事業者は利用者を確保できなくなる。これが小規模事業者の淘汰につながっている。
訪問看護ステーションの倒産統計
ここで訪問看護ステーションに焦点を絞って統計を見たい。
訪問看護ステーションの廃業状況
一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査によれば、2023年度の訪問看護ステーションの動向は以下のとおり。
新規開業数: 2,437か所
廃止数: 701か所
休止数: 291か所
2024年4月1日時点の届出数: 17,808か所
新規開業数の3分の1近くが廃止または休止となっている計算だ。需要は急増している分野でありながら、廃業率は決して低くない。
廃業率の地域差
東京都: 3.4%
全国平均: 約4-5%
大阪府: 5.4%
都市部のほうが廃業率が高い傾向にある。これは競合事業者の多さ、人件費の高さが要因と考えられる。
訪問看護で倒産が比較的少ない理由
訪問介護と比べて、訪問看護ステーションの倒産件数は比較的少ない傾向にある。背景には以下の要因がある。
医療保険・介護保険の単価が訪問介護より高い。医療依存度の高い利用者を担当するため代替が利きにくい。看護師の専門性により参入障壁が高い。機能強化型ステーションへの加算があり収益機会が多い。
ただし、これは「訪問看護なら安全」という意味ではない。実際、廃業・休止の数は決して少なくない。
訪問看護で倒産・廃業に至る5つのパターン
私が業界関係者と意見交換する中で見えてきた、訪問看護ステーションが倒産・廃業に至る典型的なパターンを整理する。
パターン1: 開業初期の資金枯渇
最も多いのが、開業初期に運転資金が尽きるパターンだ。訪問看護ステーションは、開業から損益分岐点(利用者40-60名)に達するまでに半年から1年以上かかる。この期間の人件費・家賃を賄える運転資金を確保せずに開業すると、利用者が集まる前に資金が底をつく。
最低でも500万円から1,000万円の運転資金確保が必要となるが、これを軽視した事業者の倒産が後を絶たない。
パターン2: 看護師の連鎖離職
開業時に集まったメンバーで運営を始めたが、管理者と現場の意見対立、過重労働、給与不満などで看護師が連続して離職するパターン。
訪問看護ステーションは2.5名の看護師配置基準があるため、看護師数が基準を下回ると指定取消に直結する。一人の離職が、事業継続を脅かす構造だ。
パターン3: 売上偏重の経営判断
「売上を伸ばすこと」だけを目標に、看護師に過重な訪問件数を課す経営判断が、結果的に倒産につながるケース。
短期的に売上は伸びるが、看護の質が低下し、利用者・ご家族からの信頼を失う。看護師の離職が加速し、評判も悪化。最終的に利用者紹介が止まり、売上が急落するパターンだ。
パターン4: 不適切請求への手染め
短期的な収益確保のために、不適切な請求(虚偽の訪問記録、複数名訪問加算の濫用等)に手を染めるケース。
2025年の28億円不正請求事件で明らかになったとおり、不適切請求は必ず破綻する。発覚後は返還指導、信頼失墜、利用者離散により、急速に倒産へ向かう。
パターン5: 連携先病院の喪失
訪問看護ステーションの利用者は、連携先病院・クリニックからの紹介が大半を占める。連携先との関係悪化、または連携先の閉院・移転により、利用者紹介が止まるパターンだ。
連携先を1か所に依存せず、複数の連携先を確保しておくことが、リスク分散の基本となる。
2026年改定が加速する大規模化の流れ
倒産統計と並行して注視すべきが、2026年改定の方向性である。
改定の主要トレンド
中央社会保険医療協議会の議論を整理すると、以下のような方向性が見える。
過剰訪問への規制強化: 頻回訪問・長時間訪問への適正化。
大規模化の推進: 機能強化型訪問看護ステーションの優遇。
広域展開ステーションへの厳格な指導。
ICT活用の評価強化(D to P with N、医療DX加算等)。
質の高い訪問看護への評価。
これらは、小規模・低品質の事業者にとっては逆風となる構造だ。
大規模化が示唆すること
国の方向性として、地域に分散する小規模事業者よりも、安定したサービスを提供できる大規模法人を評価する流れが強まっている。
機能強化型訪問看護管理療養費(月13,230円、通常型の約1.8倍)を取得できるステーションと、通常型のステーションでは、月収益で看護師1名分以上の差が生まれる。この差が、優秀な人材確保や設備投資の差につながり、競争力をさらに広げる構造だ。
中小ステーションへの影響
小規模ステーションが2026年改定後も生き残るには、以下の戦略が必要となる。
機能強化型への昇格努力。地域内のニッチ需要への特化(精神科、小児、看取り等)。連携先医療機関との関係強化。ICT・DX投資による効率化。スタッフ定着を最優先する経営。
経営者として今読み解くべき5つのメッセージ
倒産統計と改定動向から、訪問看護経営者が読み解くべきメッセージを5つに整理する。
メッセージ1: 「需要があるから安泰」は幻想である
訪問看護の需要は確実に拡大している。利用者数は増え続け、団塊世代の後期高齢化でさらに需要が伸びる。しかし、需要があることと事業が継続できることは別問題だ。
需要があっても、人材確保ができなければ事業は回らない。需要があっても、効率化できなければ利益が出ない。需要があっても、信頼を失えば利用者は来ない。
「需要拡大」を経営判断の言い訳にするのは、最も危険な姿勢である。
メッセージ2: 人件費率の管理が経営の生命線である
訪問看護ステーションの人件費率は平均78.0%で、80%を超えると赤字経営に転落するリスクが高まる。
この数字を毎月確認することが、経営者の最重要業務だ。給与支払い額、社会保険料、賞与引当金、研修費を含めた総人件費を、売上に対する比率で管理する。
人件費率が高すぎる場合、対応策は以下の3つしかない。
売上を増やす(訪問件数増、加算取得、機能強化型化)。人件費を抑える(配置適正化、業務効率化、ICT活用)。事業構造を変える(M&A、業務提携、規模拡大)。
メッセージ3: スタッフ定着が最も重要な経営指標である
採用コストは年々上昇している。看護師1名の採用に、年収の20-30%(60万-100万円程度)の紹介料を支払う事業者も少なくない。
採用に投資するより、既存スタッフの定着に投資するほうが、長期的にはるかにコスパが良い。離職率10%のステーションと25%のステーションでは、年間採用コストに数百万円の差が生まれる。
- オンコール負担の軽減
- キャリアパスの可視化
- 心理的安全性の確保
- 適正な給与水準
- 教育・研修機会
これらは即効性はないが、3-5年後の経営を大きく左右する。
メッセージ4: ICT・DX投資は最早選択肢ではない
電子カルテ、ICT記録システム、オンライン会議、AI活用——これらへの投資は、もはや経営の必須要件となった。
- 記録時間の短縮(訪問1件あたり10-20分)
- 多職種連携の効率化
- 採用での差別化要素
- 機能強化型加算の取得要件
- 2026年改定のDX加算取得
投資コストは月数万円から十数万円かかるが、業務効率化と算定機会増加で、投資回収可能な水準だ。
メッセージ5: 連携と提携の選択肢を持つ
「自分のステーションだけで何とかする」という発想からの脱却が必要となる時期に来ている。
- 近隣ステーションとのオンコール連携
- 医療法人グループへの加入(M&A)
- 大手訪問看護グループへのフランチャイズ加盟
- 業務委託契約(看護師シェア)
- 地域訪問看護連合会への参加
完全独立を維持するか、何らかの連携・提携を結ぶかは、経営者の戦略判断となる。
中小ステーション経営者として持つべき視点
最後に、中小ステーションを経営する立場から持つべき視点を共有したい。
視点1: 倒産は「経営の質」の結果である
倒産は経済環境のせいだけではない。経営者の判断、運営の質、人材への投資、財務管理——これらの総合的な結果として倒産は発生する。
経営環境が厳しいことは事実だが、その中でも黒字経営を続けるステーションは存在する。差は経営の質にある。
視点2: 早期の経営判断が命運を分ける
経営難に陥ってから対応しても、選択肢は限られる。資金繰りに余裕があるうちに、戦略的な経営判断を行うことが重要となる。
- 月次の損益が3か月連続で赤字
- 主要な看護師が辞意を示した
- 利用者数が減少傾向
- 連携先からの紹介が止まった
- ICT投資ができていない
これらが見えた時点で、経営戦略の見直しに着手すべきだ。
視点3: 撤退も選択肢である
廃業や事業譲渡(M&A)は、経営者にとって辛い判断だが、選択肢として持つべきだ。
事業継続が困難な状況で無理に運営を続けると、利用者・スタッフ・取引先により大きな迷惑をかけることになる。早期に撤退判断をすることで、利用者を他事業者に円滑に引き継ぎ、スタッフの転職活動を支援することができる。
M&A市場では、訪問看護ステーションへの需要は依然として高い。撤退時の事業価値を最大化するためにも、早期判断が重要となる。
まとめ
2025年の介護事業者倒産176件、訪問介護91件という数字は、業界全体への警鐘である。訪問看護ステーション経営者として、この数字を「他人事」ではなく「自分事」として受け止める姿勢が求められる。
需要拡大を背景にした安易な開業ラッシュの時代は終わった。これからは、人材定着、ICT投資、機能強化、連携戦略——経営の質が事業継続を左右する時代となる。
経営者として、月次の数字に向き合い、スタッフへの投資を惜しまず、地域での信頼を築き続ける。地味な努力の積み重ねが、結果として倒産を回避し、長期的な経営安定をもたらす。
訪問看護は、地域社会にとって不可欠なインフラである。経営者一人ひとりが質の高い経営を続けることが、業界全体の信頼につながる。今回の倒産統計を、経営の質を見直す機会として活用していただきたい。
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執筆者
宮木
訪問看護ステーション経営者・救急看護認定看護師
大学病院 救命救急センター 5年 / 手術室 2年 / 大手訪問看護ステーション 5年 / 訪問看護ステーション設立・代表
小学生の頃から訪問看護師を志し、大学病院の救命救急センター・手術室で急性期医療の現場経験を積む。救急看護認定看護師の資格を取得後、大手訪問看護ステーションでの勤務を経て独立。現場と経営の両視点から、医療従事者に実践的な情報を届けます。
保有資格: 看護師免許 / 救急看護認定看護師 / BLSプロバイダー / ICLSプロバイダー
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています