看護
訪問看護師の「多様で柔軟な働き方」を実現するために|日本看護協会の指針と経営者・看護師個人それぞれの取り組み
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Summary
日本看護協会は「看護人材・夜勤人材の確保に向けた看護職の多様で柔軟な働き方導入支援セミナー」の開催や、モデル事業の実施病院募集など、看護師の働き方改革を継続的に推進しています。訪問看護師の「多様で柔軟な働き方」とは何か、経営者と看護師個人それぞれが取り組むべきことを、HokanPress編集部が整理しました。
日本看護協会の最新の発信を見ると、看護師の働き方改革が業界団体としての重要な政策課題として位置づけられていることがわかります。「看護人材・夜勤人材の確保に向けた看護職の多様で柔軟な働き方導入支援セミナー」の開催、「夜勤者確保に向けた『多様で柔軟な働き方』導入を目指すモデル事業の実施病院募集」など、業界全体での働き方改革の流れが本格化しています。
訪問看護の現場でも、この流れは無縁ではありません。求人倍率10年ぶりの高水準という採用市場、看護師の66.8%が給与不満を抱える業界の現実、2026年改定後の経営環境変化——複数の要因が連動して、訪問看護師の「多様で柔軟な働き方」の実現が、業界の持続可能性に直結する課題となっています。
「多様で柔軟な働き方」とは、単なる「短時間勤務の容認」を超えた、看護師一人ひとりのライフステージ・健康状態・キャリア志向に応じた働き方を、組織として支援する仕組みです。HokanPress編集部では、訪問看護における「多様で柔軟な働き方」の具体的な姿、経営者と看護師個人それぞれの取り組みについて、整理しました。
「多様で柔軟な働き方」が必要とされる背景
まず、なぜ訪問看護に「多様で柔軟な働き方」が必要とされるのか、背景を整理します。
背景1: 看護師の絶対数不足
看護師求人倍率が10年ぶりの高水準に達した日本看護協会のデータが示すように、看護師の絶対数は需要に対して不足しています。
不足の構造:
- 高齢化による需要拡大
- ベテラン看護師の引退期
- 新規入職者の限定的増加
- 他業界・他分野への流出
- 早期離職の継続
「画一的な働き方」を求めることが、看護師確保の機会を狭めている構造です。
背景2: 看護師のライフステージの多様化
看護師のライフステージも、多様化が進んでいます。
ライフステージの多様化:
- 結婚・出産・育児との両立
- 親・配偶者の介護との両立
- 自身の健康問題への対応
- セカンドキャリアへの転換
- 起業・独立への準備
「一つの働き方を全員に強制」では、多様な人材を活用できません。
背景3: 価値観の多様化
看護師個人の価値観も、多様化しています。
価値観の多様化:
- ワークライフバランスの重視
- 専門性追求への志向
- 経済的安定の重視
- 社会貢献感への志向
- 自己成長への志向
「給与だけ」「キャリアアップだけ」が動機ではない時代になっています。
背景4: 業界の働き方改革
- 医師の働き方改革(2024年4月施行)
- タスク・シフト/シェアの推進
- 多様な雇用形態の容認
- ICT活用による業務効率化
- リモートワークの一部導入
背景5: 訪問看護の特性
訪問看護は、もともと多様な働き方に適した特性があります。
- 業務の自律性が高い
- スケジュールのコントロール可能性
- 直行直帰の可能性
- 訪問件数による調整可能性
- 個人の専門性を活かしやすい
これらの特性を活かした柔軟な働き方の設計が、業界の競争力を生みます。
訪問看護で実現可能な「多様で柔軟な働き方」
ここから、訪問看護で実現可能な「多様で柔軟な働き方」の具体例を整理します。
形態1: 短時間勤務
- 1日4時間勤務
- 1日6時間勤務
- 週3〜4日勤務
- 学校行事への配慮
- 育児・介護期間の限定的活用
「フルタイム」だけでなく、多様な時間設計を許容することが、看護師の継続就業を支えます。
形態2: 日勤専従(オンコールなし)
オンコール体制からの免除を伴う日勤専従も、重要な選択肢です。
- 育児中の看護師の安心
- 介護中の看護師の継続
- 健康上の理由による配慮
- 心身の負担軽減
- 長期的な就業継続
「24時間対応体制」と「個別の働き方」を両立させる経営的工夫が求められます。
形態3: 直行直帰制
- 通勤時間の削減
- 業務効率の向上
- 個人時間の確保
- 育児・介護との両立
- ICT活用による業務管理
「ステーションに必ず立ち寄る」というルールを見直す柔軟性が、必要となっています。
形態4: リモートワークの活用
訪問看護にもリモートワークの活用が可能な領域があります。
- 訪問記録の作成
- 連携先との情報共有
- 多職種カンファレンス参加
- 研修・勉強会の受講
- 経営・管理業務
「すべての業務がステーションでなければできない」わけではないという認識が重要です。
形態5: 副業・兼業の許容
副業・兼業の許容も、柔軟な働き方の重要な要素です。
- 他事業所でのスポット勤務
- 看護師としての講師業
- 執筆活動
- ICTスキルを活かした業務
- 独立準備の段階的支援
「うちの仕事だけに集中して」ではない発想が、看護師の選択肢を広げます。
形態6: 年単位の柔軟性
年単位での働き方の柔軟性も、長期的な就業を支えます。
- 育児期間の短時間勤務
- 介護期間の業務量調整
- 学習期間(資格取得等)の配慮
- 休職・復職の柔軟性
- セカンドキャリアへの移行支援
「ライフステージに応じた働き方」を、長期的に支援する視点が求められます。
形態7: チーム制による相互サポート
最後に、チーム制による相互サポートも、柔軟な働き方を支える要素です。
- 急な休暇への対応
- 業務負担の分散
- 知識・経験の共有
- 心理的サポート
- 組織全体の柔軟性
「個人に依存」ではなく「チームで支える」体制が、多様な働き方を可能にします。
経営者・管理者が整備すべき体制
訪問看護ステーション経営者・管理者として、「多様で柔軟な働き方」を実現するための体制整備を整理します。
体制1: 多様な雇用形態の整備
- 常勤(フルタイム)
- 常勤短時間(時短)
- パートタイム
- 非常勤
- 嘱託・契約
雇用形態ごとの待遇・期待業務を明確化することが、トラブル防止につながります。
体制2: 柔軟なシフト管理
- 個別事情の聞き取り
- 月単位での調整
- 週単位での微調整
- 急な変更への対応
- ICTツールの活用
「経営者の都合」だけでなく「個人の事情」を尊重するシフト管理が、定着につながります。
体制3: ICT・DXによる業務効率化
ICT・DXによる業務効率化は、柔軟な働き方の前提です。
- 訪問記録のICT化
- スケジュール管理ツール
- 多職種連携ツール
- リモート会議の活用
- AI支援の活用
業務効率化により生まれた時間が、柔軟な働き方の余地を作ります。
体制4: チーム制の構築
チーム制による相互サポート体制も、構築すべき要素です。
- 利用者の複数担当
- 引き継ぎの標準化
- 情報共有の仕組み
- 緊急時のバックアップ
- メンター制度
「特定スタッフへの依存」を解消することが、組織の柔軟性を生みます。
体制5: 公平な評価制度
多様な働き方を実現する上で、公平な評価制度も不可欠です。
- 時間ではなく成果での評価
- 質的貢献の評価
- 個別事情への配慮
- 透明な評価基準
- フィードバックの徹底
「長時間働く=評価される」ではなく、「質の高い貢献=評価される」構造が、多様な働き方を支えます。
体制6: コミュニケーションの場
定期的なコミュニケーションの場も、柔軟な働き方を支えます。
- 月次1on1ミーティング
- チームミーティング
- ライフイベント時の個別面談
- 退職時の率直な対話
- 復職時のフォロー
「働き方の希望」を継続的に聞き、対応していく姿勢が、信頼を生みます。
体制7: 経営者自身の意識改革
- 「画一的な働き方」の見直し
- 個別事情への共感
- 多様性の積極的活用
- 長期的な視点
- スタッフへの敬意
経営者の意識が変わることで、組織全体の文化が変わります。
看護師個人としての向き合い方
経営者の視点を離れて、看護師個人として「多様で柔軟な働き方」にどう向き合うかを整理します。
視点1: 自分のライフステージを把握する
まず、自分の今のライフステージを客観的に把握します。
- 家族構成と関係
- 育児・介護の状況
- 自身の健康状態
- 経済的状況
- キャリア目標
これらに応じた働き方の選択が、自分らしい人生を支えます。
視点2: 自分の希望を言語化する
希望する働き方を、具体的に言語化することも重要です。
- 勤務時間の希望
- 勤務日数の希望
- オンコールへの希望
- 通勤距離の希望
- 業務内容の希望
「なんとなくこういう感じ」ではなく、具体的に言語化することで、交渉や選択がしやすくなります。
視点3: 経営者・上司への相談
希望を、経営者・上司に率直に相談することも大切です。
- 1on1ミーティングでの伝達
- 具体的な希望の明示
- 自身の貢献意向の表明
- 段階的な調整提案
- 長期的な視点の共有
「我慢する」「諦める」ではなく、「相談する」という選択肢を持っていただきたいです。
視点4: 転職の選択肢
現職で希望が叶わない場合、転職も正当な選択肢です。
- 自分の市場価値
- 他事業所の働き方
- 給与水準との比較
- 通勤距離
- キャリア展望
「我慢して同じ場所で続ける」ことだけが正解ではありません。
視点5: 長期的なキャリア設計
最後に、長期的なキャリア設計の中で「働き方」を位置づけることも重要です。
- 5年後・10年後の理想
- ライフイベントとの調整
- 専門性の方向性
- 経済的目標
- 自己実現の領域
「今の働き方」は通過点であり、長期的な人生設計の一部として考える視点が大切です。
業界全体の動向
「多様で柔軟な働き方」をめぐる業界全体の動向も整理します。
動向1: 日本看護協会の継続的取り組み
日本看護協会は、継続的に働き方改革を推進しています。
- 多様で柔軟な働き方導入支援セミナー
- 夜勤者確保モデル事業
- 看護職員の賃金制度見直し支援
- キャリア継続支援
- 行政への要望
業界団体の継続的な活動が、長期的な制度改革につながります。
動向2: 国の政策方向性
- 看護師確保の重点化
- 多様な働き方の推進
- ICT・DXの推進
- 処遇改善の継続
- 地域医療体制の整備
訪問看護も、こうした政策の中核に位置づけられています。
動向3: 業界の二極化
「多様で柔軟な働き方」を実現できる事業所と、できない事業所の二極化も進んでいます。
- 大手法人グループでの先進的取り組み
- 機能強化型ステーションでの体制整備
- 中小事業所での遅れ
- 地域による差
- 経営者の意識による差
「働き方改革に取り組まない事業所」は、人材確保面で不利になる構造です。
動向4: 看護師の意識変化
- 「我慢する」から「選ぶ」へ
- 「会社のため」から「自分のため」へ
- 「画一的」から「個別最適」へ
- 「短期」から「長期」へ
- 「経済」から「総合的価値」へ
看護師の意識変化に、経営側が対応できるかが問われています。
動向5: 長期的な業界変化
- 看護師の社会的地位向上
- 多様な働き方の標準化
- ICT・DXによる業務革新
- 専門性の体系化
- 国際的な人材交流
「多様で柔軟な働き方」は、業界の長期的競争力の基盤です。
経営者として持つべき視点
「多様で柔軟な働き方」を実現する経営者として、持つべき視点を整理します。
視点1: 「コスト」ではなく「投資」
働き方改革への取り組みは、「コスト」ではなく「投資」と捉えることが重要です。
- 採用力強化
- 定着率向上
- ICT・DXによる業務効率化
- 業界での競争力
- 中長期的な経営基盤
短期的なコスト負担を、長期的な投資回収で評価する視点が必要です。
視点2: 多様性を「強み」に変える
多様な人材を抱えることを、組織の「強み」に変える発想も重要です。
- 多様な利用者層への対応力
- 多角的な視点
- イノベーションの源泉
- 採用市場でのブランド
- 業界での発言力
「多様性は管理コスト」ではなく「多様性は競争力」という認識が、組織を強くします。
視点3: スタッフへの敬意
「多様で柔軟な働き方」の根底には、スタッフへの敬意があります。
- 個人としての尊重
- ライフステージへの共感
- 価値観の多様性の容認
- 長期的なキャリア支援
- 専門職としての評価
「使えるスタッフ」ではなく「一人ひとりの人」として向き合う姿勢が、信頼を生みます。
視点4: 経営者自身のロールモデル
経営者自身が「多様で柔軟な働き方」のロールモデルとなることも重要です。
- 適切な労働時間の確保
- 家族との時間
- 自己研鑽の時間
- 健康への配慮
- 長期的な視点
経営者が燃え尽きている姿は、スタッフへの悪いメッセージとなります。
視点5: 業界への貢献
最後に、自ステーションの取り組みが業界への貢献につながる視点も大切です。
- グッドプラクティスの共有
- 業界団体への参加
- 政策提言への協力
- 後進への指導
- 業界全体の意識変革
業界全体の「多様で柔軟な働き方」の実現に、自ステーションが貢献する視点が、経営者の成熟です。
実現のための実践ステップ
「多様で柔軟な働き方」を実現するための実践ステップを整理します。
ステップ1: 現状の働き方の把握
- スタッフの雇用形態別構成
- 勤務時間の実態
- オンコール体制
- 育児・介護中スタッフの状況
- 過去の離職理由
ステップ2: スタッフの希望調査
- 個別面談
- 匿名アンケート
- ライフプランヒアリング
- ロールモデルの紹介
- 継続的な対話
「経営者の思い込み」ではなく、「スタッフの実際の希望」に基づく改革が必要です。
ステップ3: 制度設計
- 雇用形態の選択肢
- 勤務時間の柔軟性
- オンコール体制の見直し
- 評価制度の改革
- ICT環境の整備
「全員一律」ではなく「多様性に対応する制度」を設計します。
ステップ4: 段階的な導入
- パイロット運用から開始
- 課題の発見と修正
- 全スタッフへの拡大
- 継続的な改善
- 効果測定
「一気に変える」ではなく「段階的に進化させる」アプローチが、定着につながります。
ステップ5: 効果測定と継続改善
- 離職率の変化
- 採用力の変化
- スタッフ満足度
- 利用者ケアの質
- 経営指標
数字に基づく改善サイクルが、長期的な質向上を支えます。
まとめ
訪問看護師の「多様で柔軟な働き方」は、業界の持続可能性に直結する重要な課題です。日本看護協会の継続的な取り組み、看護師求人倍率10年ぶりの高水準、看護師の66.8%が給与不満を抱える業界の現実——これらすべてが連動して、働き方改革の必要性を高めています。
訪問看護で実現可能な働き方として、短時間勤務、日勤専従、直行直帰制、リモートワーク、副業・兼業、年単位の柔軟性、チーム制——7つの形態を、自ステーションの実情に応じて組み合わせることが可能です。
経営者・管理者として、多様な雇用形態、柔軟なシフト管理、ICT・DX、チーム制、公平な評価制度、コミュニケーションの場、経営者自身の意識改革——7つの体制整備を、着実に進めることが求められます。
看護師個人としては、自分のライフステージの把握、希望の言語化、経営者・上司への相談、転職の選択肢、長期的なキャリア設計——5つの視点で、自分らしい働き方を選択していくことが大切です。
業界全体の動向として、日本看護協会の継続的取り組み、国の政策方向性、業界の二極化、看護師の意識変化、長期的な業界変化——これらが連動して、「多様で柔軟な働き方」が業界の標準となっていく流れがあります。
「多様で柔軟な働き方」は、コストではなく投資、管理コストではなく競争力、画一性ではなく多様性が強みとなる時代の経営戦略です。看護師一人ひとりへの敬意を基盤に、業界全体の発展に貢献する視点が、これからの訪問看護経営に求められます。
HokanPress編集部では、訪問看護業界の本質的なテーマについて、引き続き発信してまいります。
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執筆者
HokanPress編集部
医療・看護・介護の多職種チーム
訪問看護・在宅医療の現場に携わる多職種チーム
HokanPress編集部は、訪問看護・在宅医療の現場に実際に携わる多職種チームで構成されています。看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)が所属。それぞれの専門分野で培った臨床経験と専門知識をもとに、医療・看護・介護従事者の実務に役立つ情報を発信しています。記事は必ず該当分野の有資格者が執筆または監修し、公的統計データや学会発表・厚生労働省の公表資料など、信頼性の高い情報源に基づいて作成しています。
保有資格: 看護師 / 理学療法士 / 作業療法士 / 言語聴覚士 / 医療ソーシャルワーカー / 管理栄養士 / 介護支援専門員
※本記事は公的統計データをもとに看護師資格保有者が執筆しています