訪問看護記録書に、実際の訪問開始時刻と終了時刻を書く。2026年度診療報酬改定で明確化された運用です。
当メディアでは、この記録ルールの変更を改定直後に取り上げました。多くの方に読んでいただいた記事ですが、あのときは「何を書くか」までしか触れていません。書いた時刻が何に使われるのかが、今回の主題です。
同じ改定で、短時間の訪問についての取扱いが示されました。適切な訪問看護の時間は30分以上を標準とし、20分を下回る場合は算定できない。前回の訪問から2時間未満で20分以上30分未満の訪問を行う場合は、原則として所要時間を合算して1回として扱う。
20分、30分、2時間。この3つの数字が、記録した時刻と結びついて算定の可否を決めます。
背景から確認します。
2024年から2025年にかけて、ホスピス型住宅における不適切な訪問看護が相次いで報じられました。共同通信の報道では、大手事業者による不正な報酬請求が問題となり、実際のケアというより見守りに近い短時間の訪問を繰り返す事例、報酬が高くなる時間帯を狙って訪問を設定する事例が指摘されています。
厚生労働省は2025年10月、訪問看護の過剰な提供に対する規制強化の方針を打ち出しました。当メディアで包括型訪問看護療養費と有料紹介の禁止を扱った記事は、その方針が2026年度改定でどう実装されたかを追ったものです。
今回の実施時間の記載は、同じ流れのなかにあります。訪問したという記録だけでは、5分の訪問も60分の訪問も同じに見える。時刻を書かせれば、その差が請求の裏付けとして残ります。
改定では、算定要件として「利用者の心身の状況に応じた妥当で適切な訪問看護を行うこと」が明確化されました。看護目標と訪問看護計画に沿った訪問を行うこと。漫然とした画一的な訪問にならないようにすること。訪問看護の内容に対する評価を記録すること。そして、実際の訪問開始時刻と終了時刻を記録すること。この4点が並んでいます。
時刻の記録は、単独のルールではありません。「その訪問に中身があったか」を問う一連の要件の一部です。
3つの数字を順に見ます。
まず20分。訪問看護の時間が20分を下回る場合、算定できない取扱いとされています。
これは、実務に直接影響します。服薬の確認だけで帰る訪問、安否確認に近い訪問、利用者が不在で短時間で切り上げた訪問。こうした訪問を、これまで通常どおり算定していた事業所は、運用を変える必要があります。
注意したいのは、時間の長さそのものが目的ではないという点です。改定が示しているのは、標準として30分以上の訪問が想定されているということです。20分という線は、それを下回るものを算定の対象外とする下限にあたります。
計画に沿った看護を提供すれば、通常は20分では終わりません。20分未満の訪問が常態化している場合、記録の問題ではなく、計画と訪問の中身の問題として点検すべきです。
次に2時間です。
前回の訪問から2時間未満のうちに、20分以上30分未満の訪問を行う場合。この場合は、原則として所要時間を合算して1回の訪問として扱います。
想定されているのは、同じ利用者に短い間隔で複数回訪問する運用です。午前中に25分訪問し、1時間後に再び25分訪問する。合算すれば50分の訪問1回として扱われ、2回分の算定にはなりません。
高齢者向け住まいに併設したステーションでは、同じ建物内を短時間で何度も回る運用が可能です。この規定は、そうした運用に歯止めをかけるものです。当メディアで包括型訪問看護療養費を扱った際、併設・隣接のステーションが1日単位の包括評価に移されたことを書きました。今回の合算ルールは、包括型の対象外となる訪問にも同様の考え方を及ぼすものと読めます。
実務上は、訪問と訪問の間隔を記録から計算できるようにしておく必要があります。開始時刻と終了時刻を記録するのは、まさにこの計算のためです。前回の終了時刻が分からなければ、2時間未満かどうかを判断できません。
3つの数字と並んで、同一建物の扱いも変わりました。
訪問看護基本療養費(Ⅱ)等は、1月あたりの訪問日数と同一建物に居住する利用者数に応じた評価へ見直されています。加えて、同一敷地内の建物も同一建物として扱う規定に見直されました。
敷地内に複数棟が建つ高齢者向け住まいでは、棟ごとに分けて算定していた運用が成り立たなくなります。当メディアで同一建物の逓減を扱った際に書いたとおり、人数区分が上がれば単価は下がります。敷地全体で人数を数えることになれば、区分が一段上がる事業所が出てきます。
管理療養費の月2日目以降も、単一建物居住者数と訪問日数で細分化されました。20人未満なら3,010円ですが、50人以上で月25日以上訪問する場合は2,010円です。難病等複数回訪問加算、複数名訪問看護加算、夜間・早朝訪問看護加算、深夜訪問看護加算。いずれも同一建物内の人数と日数に応じた区分が設けられています。
記録した時刻と、建物ごとの利用者数と、月内の訪問日数。この3つを突き合わせなければ、正しい請求ができない構造になりました。
事業所として点検すべき点を整理します。
第一に、時刻の記録が実際の時刻になっているか。訪問予定表の時間を転記しているのであれば、それは実際の時刻ではありません。訪問先で入力する運用に切り替える必要があります。当メディアで直行直帰を扱った際、記録を訪問先で終わらせる仕組みの有無が残業の量を変えると書きましたが、時刻の記録についても同じことが言えます。
第二に、20分未満の訪問が発生したときの取扱いを決めているか。利用者不在、急な体調変化で処置ができなかった、家族の都合で早く切り上げた。こうした場合に算定するのかしないのか、誰が判断するのかを事前に決めておかなければ、月末の請求時に混乱します。
第三に、同一利用者への当日2回目の訪問について、前回の終了時刻を確認する運用があるか。担当者が異なる場合、2回目の訪問者が1回目の終了時刻を知らないまま訪問することがあります。
第四に、同一敷地内の建物を正しく把握しているか。契約上は別棟でも、敷地が同一であれば同一建物です。自事業所が訪問している高齢者向け住まいの敷地の範囲を、一度確認しておく必要があります。
当メディアで訪問看護記録の法的な位置づけを扱った際、記録は算定の根拠であり証拠でもあると書きました。医療事故と訴訟の記事では、裁判所が記録に何が書かれているかを見ることを紹介しています。
今回の改定は、その記録に時刻という新しい項目を加えました。時刻は主観の入りにくい情報です。書けば、そのまま算定の可否を決める材料になる。逆に言えば、実態と異なる時刻を書けば、それは請求の不正を示す証拠になります。
運営基準の見直しでは、適正な届出・請求手続きを行うこと、健康保険事業の健全な運営を損なわないこと、訪問看護記録書等を整備することが義務として明記されました。当メディアで運営指導を扱った際に書いたとおり、確認されるのは計画ではなく記録です。
20分、30分、2時間。この3つの数字は、覚えておくべき算定ルールであると同時に、訪問看護に何が期待されているかを示すものでもあります。短く何度も訪問して回数を稼ぐのではなく、計画に沿った中身のある訪問を行う。改定が示しているのは、その方向です。
自事業所の直近1か月の記録を開いて、訪問時間の分布を見てみてください。20分台の訪問がどれだけあるか。それが答えの一つになります。