医療用手袋が、思うように手に入らない。2026年の春以降、そんな声が医療や介護の現場から上がってきました。
この状況に対して、国は、備蓄している医療用手袋の放出を続けています。そして2026年7月15日、厚生労働省医政局から、その放出の仕組みについて一つの変更が通知されました。購入できる枚数の考え方が、実質的に2倍になったのです。
この通知は、一般社団法人全国訪問看護事業協会にも宛てられ、同協会は7月21日、会員への周知を行いました。つまり、これは訪問看護事業所にも関わる話です。そして、変更が適用される次の受付の締切は、7月29日水曜日の17時。目前に迫っています。
今回は、この制度の中身と、要請から購入までの流れを整理してお届けします。
まず、今回の変更点から、正確にお伝えします。
国が備蓄する医療用手袋の放出にあたっては、事業所がG-MIS(医療機関等情報支援システム)を使って週次調査に回答し、そのうえで「緊急配布要請(SOS)」を行う、という仕組みがとられています。
この週次調査では、「1週間の想定消費量」を回答します。これまで、購入できる枚数は、この想定消費量の2週間分——つまり「1週間の想定消費量×2」に応じた枚数とされていました。
これが、「1週間の想定消費量×4」、すなわち4週間分に応じた枚数へと変更されます。単純に見れば、購入できる量が2倍になる計算です。厚生労働省は、直近の医療用手袋の需給状況を踏まえた変更である、としています。
適用されるのは、第11弾の受付分からです。この受付の締切は、2026年7月29日水曜日の17時とされています。
具体的な計算方法も、通知に示されています。1週間の想定消費量を4倍した数値を、1,000枚単位で切り上げた数が、購入できる枚数の上限となります。たとえば、4倍した数値が1枚から1,000枚までであれば1セット(1,000枚・10箱)、1,001枚から2,000枚までであれば2セットまで、2,001枚から3,000枚までであれば3セットまで、という具合です。
最小の販売単位は、1セット、1,000枚(10箱)です。そして、サイズはセット単位で指定できます。3セットまで購入できる事業所であれば、Sサイズを2セット、Mサイズを1セット、というように、サイズごとにセット数を指定して、合計3セットを購入することが可能です。訪問看護のようにスタッフの手のサイズがさまざまな職場にとって、この指定ができるかどうかは、実務上、小さくない違いになります。
そもそも、なぜこのような事態になったのでしょうか。背景には、中東情勢があります。
医療用手袋の多くは、石油化学製品を原料としています。中東情勢の緊迫を受けて、原油からナフサ、そして化学製品へとつながる供給の流れに影響が及び、その波が、医療現場の消耗品にまで届いた、という構図です。
ただし、ここは正確に押さえておく必要があります。厚生労働省は、医療用手袋について、全体として直ちに供給が不足する状況ではない、としています。つまり、物そのものが尽きているわけではありません。
問題は、流通の混乱です。混乱を避けるために、通常の発注量を超えるような発注については調整が行われている例があり、また、一般のネット通販では取引を停止している例もあります。その結果として、歯科診療所など一部の医療機関で、手袋の確保が困難になっている——これが、国が説明している状況です。
在庫がないのではなく、必要なところに届きにくくなっている。だからこそ、国が備蓄を放出し、確保が困難になっている事業所へ、直接届ける仕組みが用意された、というわけです。
放出の枠組みについても、整理しておきます。
2026年4月16日、中東情勢に関する関係閣僚会議において、国が備蓄する医療用手袋のうち5,000万枚を、5月から医療機関向けに放出する方針が表明されました。これは、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて備蓄されていた非滅菌手袋を活用するものです。
国は、パンデミックの発生に備えて医療用手袋を備蓄しています。このうち、備蓄すべき水準を超える余剰分として、約4億9千万枚を確保していました。今回放出されるのは、その一部にあたります。
規模感を掴むために、一つの推計を挙げておきます。全国の一般診療所および歯科診療所の、およそ1か月分の需要は、9,000万枚程度と推計されています。今回の5,000万枚という放出は、その半分強にあたる量です。決して無尽蔵ではありませんが、確保が困難になっている事業所を当面支えるには、意味のある規模だと言えるでしょう。国は、今後の供給状況を踏まえ、必要に応じて追加で放出する、としています。
ここが、最も大切な点かもしれません。この放出は、病院や診療所だけのものではありません。訪問看護事業所も、対象に含まれます。
厚生労働省の通知は「医療機関等」を対象としており、7月15日の事務連絡は、全国訪問看護事業協会にも直接宛てられ、会員への周知が依頼されています。同協会も、5月の時点で、国が備蓄放出する医療用手袋の購入を希望する訪問看護事業所は、G-MIS上で要請して手続きを進めるよう、会員に呼びかけていました。
自治体の対応を見ても、そのことがわかります。たとえば和歌山市は「対象:指定訪問看護事業所」と明記した案内を出し、秋田県は訪問看護事業所向けの問い合わせ窓口として、介護部門の担当課を示しています。訪問看護は、この仕組みの中に、はっきりと位置づけられているのです。
考えてみれば、当然のことでもあります。訪問看護にとって、手袋は欠かせない消耗品です。処置、排泄のケア、口腔ケア、清潔の保持。一日に何軒もの家を回り、そのたびに交換する。感染対策の観点からも、手袋を切らすという事態は、あってはならないものです。
一点、注意が必要なのは、G-MISへの登録です。訪問看護事業所の中には、都道府県との医療措置協定を締結していないために、G-MISに登録されていないところがあります。この仕組みを利用するには、まずG-MISのアカウントが必要です。自治体によっては、アカウントを持たない事業所向けに、エクセルの様式をメールで提出する方法を案内している例もあります。まずは、所在地の都道府県や市の案内を確認してみてください。
実際の手続きの流れも、押さえておきましょう。大きく三つのステップがあります。
第一に、G-MIS上で「週次調査」に回答すること。ここで、1週間の想定消費量を入力します。今回の変更で購入できる枚数の基準になるのが、この数値です。
第二に、G-MIS上で「緊急配布要請(SOS)」を行うこと。要請の受付は、毎週水曜日の17時が締切という日程で運用されています。次の第11弾が、7月29日水曜日の17時です。
第三に、販売事業者であるアスクル株式会社の専用登録サイトに、必要な情報を登録すること。G-MISでの要請だけでは完結せず、この登録が別途必要になります。
そして、要請の前に確認しておきたいのが、「緊急配布要請条件チェックシート」です。このチェックシートで配布の対象項目が「非該当」となった場合には、G-MISで申請を行っても、配布の対象にはなりません。手続きを進める前に、まず自らの事業所が条件に当てはまるかを確認する。これが、遠回りをしないための第一歩です。
もう一つ、誤解のないように押さえておきたい点があります。今回の医療用手袋の配布は、無償ではなく、有償——つまり購入です。
奈良県の案内でも、この点は明確に注意喚起されています。国の備蓄を、確保が困難になっている事業所が「買える」ようにする仕組みであって、無料で配られるものではありません。
また、在庫の状況などによって、購入できる枚数には上限があり、そもそも購入自体ができない場合もあります。申請後、購入が可能と判断された場合には販売事業者から連絡があり、不可と判断された場合には都道府県から連絡がある、という運用が案内されています。
「申し込めば必ず手に入る」ものではない。この前提は、押さえておいたほうがよいでしょう。
では、今回の「2倍」という変更を、どう受け止めればよいでしょうか。
厚生労働省は、変更の理由を「直近の医療用手袋の需給状況を踏まえ」と説明しています。購入できる量を増やせるということは、需給の逼迫が、当初よりは和らいでいることの表れだと読むことができます。備蓄の放出が進み、市場の混乱も少しずつ落ち着いてきた。そう考えるのが自然でしょう。
一方で、放出の仕組み自体が続いているという事実も、見ておく必要があります。手袋の確保に困る事業所が、今も存在している。その状態は、まだ終わっていません。
そして、これは訪問看護の経営環境という、より大きな文脈にもつながっています。中東情勢の影響は、消耗品の供給だけでなく、燃料費をはじめとするコストの上昇という形でも、訪問看護の経営を圧迫しています。実際、国は2026年7月から9月までの期間、資金繰り支援制度であるセーフティネット保証5号の指定業種に「看護業」を含めました。物資の面でも、資金の面でも、いま訪問看護は、外部環境の変化の影響を受けている——今回の手袋の放出は、その一つの断面だと言えます。
制度は、知られていなければ、使われません。そして、使われなければ、意味を持ちません。
医療用手袋の確保に不安を抱えている訪問看護事業所にとって、今回の変更は、確保できる量が増えるという、実利のある話です。手順は、G-MISの週次調査に回答し、緊急配布要請を行い、販売事業者のサイトに登録する。その前に、チェックシートで条件を確認する。
次の受付締切は、7月29日水曜日の17時です。以降も、毎週水曜17時締めのスケジュールで受付が予定されていますが、放出の状況によっては、受付が停止されることもあるとされています。
在庫がまだ足りている事業所であれば、慌てて動く必要はありません。けれど、手元の手袋が心もとない、いつもの仕入れ先から思うように入ってこない——そんな状況にある事業所は、一度、確認してみる価値があります。日々の訪問を止めないために、備えられることは、備えておきたいものです。